2013 Fiscal Year Annual Research Report
反陽子ヘリウム原子を 用いた陽子・電子質量比の精密測定
Project/Area Number |
25247032
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (A)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
早野 龍五 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (30126148)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 素粒子(実験) / 基礎物理定数 / CERN / 反陽子 |
Research Abstract |
本研究は、CERN研究所の反陽子減速器において「反陽子ヘリウム原子(ヘリウム原子核に、反陽子と電子が一個ずつ束縛された準安定な中性原子)」の精密レーザー分光を行い、基礎物理定数の一つである(反)陽子・電子質量比を世界最高精度で決定することを目指している。 平成25年度は、CERNのLHC加速器のアップグレードのため、CERNの加速器全体が停止しており、そのため、本研究開始以前にCERNで収集したデータの解析と、次年度以降の実験開始に向けた測定装置の改良やテストを行った。 データ解析については、反陽子ヘリウム原子で、これまでに直接測定が行われたことのない、高励起状態の遷移(赤外領域)を、水素のラマンセルを用いた赤外パルスレーザーで分光した実験の解析を完了し、論文として刊行した。この研究により、主量子数n>41の反陽子ヘリウム原子の準位占有率はほとんど無視できることが明らかになった。これは理論計算とは異なる結果であり、生成直後の反陽子ヘリウム原子とヘリウム原子の衝突課程の理解を更に進める必要があることを示している。 また、反陽子ヘリウム3原子のマイクロ波分光の解析を終え、この原子の超微細構造についての理論との比較と、そこから反陽子の磁気能率を求める際の精度限界について論じた論文を刊行した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
反陽子ヘリウム原子の精密分光にあたり、実験データの分解能と精度を制限する主たる要因は、原子の熱運動によって引き起こされるスペクトル線のドップラー幅である。平成25年度は、CERNの加速器が停止していたために、新たな実験データは収集しなかったが、前年度までに絶対温度1.5Kにまで冷却したヘリウム標的を用いて取得した一光子分光データを解析し、暫定的な結果ではあるが9桁以上の精度を得ている。 一方、ロシアの理論グループが、最近反陽子ヘリウム原子の遷移エネルギーの量子電子力学的補正計算を更新し、10桁以上の精度を達成したと報告している。これを我々の解析結果と併せることによって、近日中に(反)陽子・電子質量比の値を更新できると見込んでいる。 これと並行して、温度1.5Kでの二光子分光実験の準備も進めており、現時点ではおおむね順調な進展である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は、夏からCERNの反陽子減速器施設の運転が再開され、温度1.5Kでの反陽子ヘリウム原子の二光子分光実験を行う予定である。しかし、最近になって反陽子生成標的直後で反陽子を収束するための「ホーン」と呼ばれる電磁石に不良が発見され、反陽子減速器施設の運転再開が大幅に遅れる見通しとなった。 平成26年度中に、予定していたデータ収集のどこまでを実施できるか、現時点では不明であるが、反陽子ヘリウム原子の二光子分光のデータ収集は平成27年度も継続して行い、統計精度を上げ、種々の系統誤差のチェックを行う予定である。
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