2013 Fiscal Year Annual Research Report
爆発的重元素合成の第1,2ピークに関わる中性子過剰核の研究
Project/Area Number |
25247045
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (A)
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
西村 俊二 独立行政法人理化学研究所, 仁科加速器研究センター, 先任研究員 (90272137)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 重元素合成 / ベータ崩壊 / 超新星爆発 / 中性子過剰核 / 半減期 / 遅発中性子 / ガンマ線 / 核構造 |
Research Abstract |
重元素合成に重要な役割を果たす非常に中性子過剰な原子核の性質を調べるために、実験および検出器の開発を行った。r過程の第2ピークに関わる質量数A=130近傍の中性子過剰な原子核、更に希土類領域のピーク(質量数 A = 150-160)領域のベータ核分光実験を実施した。非常に効率的なベータ線検出器の導入により不安定核の半減期測定を行った。第1ピークと第2ピークに直接影響を及ぼす78Ni領域(N=50), 128Pd領域(N=82)のベータ核分光の解析を行った。その結果、パラジウム-128(Z=46,N=82)においてN=82が健在であることを示唆する結果を得た。また、78Ni領域(N=50)の半減期に関する論文を投稿した。また高統計のEURICA実験データを利用し、ベータ崩壊により放出される遅発中性子放出の測定を実現するためにガンマ線を利用した手法を確立した。 遅発中性子を直接測定する革新的な中性子検出器を考案した。ガンマ線と中性子を識別するために波形弁別(PSD)が可能なプラスチックシンチレータを導入した。の特殊なプラスチックシンチレータ、非常に高い光電効率を特長とする光電子増倍管、高速読み出し回路(波形弁別機能を持つ高速Flash ADC)を導入した。中性子線源(252Cf)を利用し、プロトタイプ検出器の性能評価を行い、要求される性能を確認した。さらにこの特殊な中性子検出器に小型の光センサ(MPPC)を追加することにより位置検出機能を追加するアイディアを得た。このMPPCの読み出しに必要な高速増幅回路、およびその読み出し回路の開発を行った。高時間分解能の特性と読み出し回路の簡易化を進めるために、増幅回路を試作しテストを行った。このプロトタイプを利用した研究成果は、物理学会において報告した。このテスト結果に基づき、最終的な検出器の設計を行い、1個の制作を完了した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
重元素合成における質量数A=130領域の第2ピークに関するベータ崩壊実験を実施することができた。この実験により中性子数N=82近傍の非常に中性子過剰な原子核の核構造に関する研究を開始した。126Pd,128Pdの第1励起エネルギーを測定した結果、N=82でのシェルが健在であることを示す結果を得た。一方、131Inの励起状態を詳しく調べた結果、N=82上のZ=38,40においてシェルがクエンチする可能性があることを示唆する結果を得た。また、重元素合成のN=50,82の経路に位置する非常に中性子過剰な原子核の半減期の結果を得つつる。超新星爆発における元素合成に関わるネットワーク計算を取り入れた研究を開始した。また、ガンマ線を利用した遅発中性子放出確率の解析手法を確立した。これにより、高統計のベータ・ガンマ核分光実験による高精度の成果を出すことが可能となった。 飛行時間型の革新的な中性子検出器の開発を行った。当初予定していた高時間分解能機能に加え波形弁別機能を追加したPSD型プラスチックシンチレータの導入に成功した。検出効率の向上を行うために検出器を厚くする設計を行った。さらに、43%もの量子効率を特長とする高感度光電子増倍管を導入することとを決定した。厚いシンチレータの採用により生じる飛行距離の不確定性という問題を解決するために、MPPC検出器を追加した中性子の反応位置を決定手法を考案した。すでにプロトタイプ検出器を制作し、中性子線源とガンマ線源を利用した位置分解能、波形処理による中性子識別能力に関する性能評価を行った。その結果、期待どおりの性能を達成できることを確認できた。効率的な読み出し回路をするために、60MHzサンプリングのFlash ADCを用いた読み出し回路のテストを行った結果、効率的な波形弁別が可能であることを確認した。高時間分解能の要求を満たすために、高速(500MHz)サンプリング速度を特徴とするFlash ADCを導入した。
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Strategy for Future Research Activity |
質量数A~80(N=50),120~160(N=82)領域の非常に中性子過剰な原子核のベータ核分光実験およびその解析を行い、第1,2ピークに関わる重元素合成に関する成果を出す。まず、N=50,82, Z=28, 50の魔法数に関わる中性子過剰な原子核の遅発ガンマ線、核異性体からのガンマ線のエネルギーの崩壊時間を観測し核構造の発展を調べる。また、重元素合成において重要な役割を果たすベータ崩壊の大規模な寿命測定を行い、超新星爆発における時間発展、エントロピー、中性子密度との関係を調べる。さらに、重元素合成のフリーズアウト時における中性子放出の影響を調べる。 検出器開発においては、波形弁別機能をもつ飛行時間型中性子検出器(80本)のアレイを制作する。そのサポートフレームを設計し、HIMAC加速器施設において検出器効率、時間分解能、波形弁別による中性子の同定能力に関する性能評価を行う。さらにMPPC検出器を追加することにより、位置検出機能を追加する。MPPCの読み出し回路の効率化を測るために、電荷と時間を同時測定可能とする特殊な読み出し回路(QTC)の開発を行う。波形弁別機能に関しては、新規に導入する500MHzサンプリングFlash ADCを利用した解析プログラムを開発する。この革新的な中性子測定装置と我々が開発した革新的な高速ベータ線検出器CAITENを組み合わせた高速ベータ崩壊実験の提案を行う。 非常に希少な中性子過剰核の中性子放出確率を決定するために、世界各国から180本の3He検出器を集めて、keV ~ 3MeVのエネルギーをもつ中性子を高検出効率(~70%)で測定する新規プロジェクト(BRIKEN)を推進する。
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Research Products
(14 results)