2014 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
25247051
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
勝本 信吾 東京大学, 物性研究所, 教授 (10185829)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
橋本 義昭 東京大学, 物性研究所, その他 (20396922)
中村 壮智 東京大学, 物性研究所, 助教 (50636503)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | スピン注入 / スピン拡散長 / マヨラナフェルミオン / グラフェン / スピン軌道相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
26年度は,その前年度のエピタキシャル鉄からの高効率スピン注入の成功を受け,これを用いてスピン拡散長や超構造との関係を調べた.特に注入先にInAsの2次元電子系を用いた場合,スピン拡散長は10μmにも達するという予備的結果を得た.大変残念なことに,エピタキシャル成長装置がクライオポンプの不調を起こし,また,シャッター開閉のベローが金属疲労によりリーク,更にAsセルストッパーのラッチが外れたことによるドーパントシャッターの故障などが相次ぎ,年度後半になって十分良好な膜成長ができなくなった.これらを解消すべく,クライオポンプを中古品にて更新,その他の故障もすべて手を入れて修理した.現在,完全復帰とは言えないが,何とか膜成長が可能な状態に復帰した. また,初年度に導入したデュアルビームスパッタ装置を用いてInAs-Nbの高品質接合を作製し,InAs部分に量子ポイントコンタクトを導入して低温電気伝導を調べた.その結果,Nbの超伝導ギャップ内に近接効果によると思われる狭いギャップが現れることを確認し,更にそのゼロバイアス付近に,条件によっては伝導度ピークが生じることを見出した.これは,マヨラナフェルミオンの出現に伴う伝導度ピークである可能性が高い.現在,再現性と,トポロジカルな保護による磁場依存性を調べるべく,複数試料による確認実験を急いでいる. 更に,グラフェンを介した超伝導-ディラック電子系-強磁性系を実現すべく,水素化グラフェンへのスピン注入実験を開始した.強磁性体電極のアニール効果,形状効果の検討を経て,明瞭なスピンバルブ効果とハンレ効果の実験が行えるようになり,水素化グラフェンにスピン軌道相互作用が導入されたことによる逆スピンホール効果信号を確認した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「研究の実績」にも書いたように,装置の思わぬ故障が相次いだ.研究の実績においては,製膜装置の故障について述べたが,より深刻な故障として,電子線描画装置の微動ステージ故障があり,メーカーの人間以外は手が出なかったため,全交換を行うことになり,26年度に予定していた超高真空エバポレーターを購入できなくなり,本格的な試料作製も1か月半余にわたって完全停止し,実質2か月は試料が作れない状態に陥った.更に,パルスチューブ希釈冷凍機コンプレッサが異音を発するようになり,形式の違うものに交換し,3か月ほどは順調に運転できたがトラップつまりによる過大圧が原因で溶接部分に漏れを生じ,貴重なヘリウム3ガスを逃がしてしまう事態となった. 以上のように,26年度は異常なまでに機器の故障が重なり,研究が完全にストップしても不思議ではない状況であったが,いずれの機器も不十分ではあるもののバックアップ機が用意されていたため,やや細い形ではあるが研究を継続できた.「やや遅れ」となってしまった原因は主に以上の通りである. このように機器故障による遅れを生じた場合,協力研究室その他の形でバックアップを作っておくことが重要であり,また,遅れたことによるあせりによって,実験の方向が迷走しないよう注意が必要でありそのように努力したつもりであるが,グループ全員にこれを浸透できたかどうかやや問題がある.
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Strategy for Future Research Activity |
26年度の故障の内,希釈冷凍機以外は復旧しており,希釈冷凍機もヘリウム3ガスが納品されれば復旧する見通しである.故障を重ねることがないように注意しながら,26年度の遅れを取り戻すべく既定方針に沿って研究を推進する予定である. 超伝導-InAs-強磁性系では,2次元系に乱れが入った場合のオーバル欠陥周辺のケルビン探針像を得ることに成功しつつあるので,これを何とか報文にできるまでにする.また,InAsでの長いスピン拡散長データを確認し,これも報文とする.そしてInAs-Nb系で確認しかけた伝導度ピークについてもマヨラナフェルミオンによるものであることを確定し,報文としたい. Nb-InAs系ではInAs系をリング形状としてAB位相の導入を開始する.Nbだけでも新しい測定ができるが,更にグラフェンで蓄積したスピン注入の技術を用いて超伝導-ABリング(スピン軌道)-強磁性の系で実験することで,スピンギャップが超伝導からのAndreev束縛状態に与える影響を,AB位相の影響も織り込むことで調べる. 最後に,水素化グラフェンへのスピン注入実験を完成させて報文とし,超伝導-ディラック電子系-強磁性体系の実験も何とか報文にするところまでこぎつけ,「超伝導スピントロニクス」の名に恥じない成果を出したいと考えている.
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