2015 Fiscal Year Annual Research Report
フラストレート磁性体のカイラル秩序化と異常伝導現象
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25247064
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
川村 光 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (30153018)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
谷口 年史 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (80207183)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | フラストレーション / 量子スピン液体 / ランダムネス |
Outline of Annual Research Achievements |
27年度は、本計画の主要な対象系である幾何学的フラストレート磁性体の磁気秩序に対する量子効果の影響を調べる過程で、量子揺らぎを増大させると秩序相がスピングラス状態から新奇な量子スピン液体状態である“ランダムシングレット状態”へと遷移するという発見があり、ランダムシングレット状態の性格を精査する研究を集中的に行った。この状態は、絶対温度に比例する低温比熱で特徴付けられるギャップレス状態である。ランダムシングレット状態における静的および動的なスピン相関のより詳細な情報を得る目的で、3角格子・カゴメ格子系について、静的および動的なスピン構造因子を厳密対角化法により新たに計算し、対応する実験系(有機反強磁性体やハーバースミサイト)の実験結果との比較検討を行った。また併せて、有限温度での比熱・帯磁率などの物理量を、より大きなサイズまで計算するべく、近年開発されたTPQ法を用いた数値計算を行い、これまでより大きなサイズ(例えばN=36)に対して有限温度での諸量を求めることに成功した。 量子フラストレート磁性体に対するランダムネス(不均一性)の効果をより一般的な視点から考察するべく、3角やカゴメとはまた異なった格子であるハニカム格子上のS =1/2量子ハイゼンベルグモデルに対しても、ランダムネスの効果を、3角格子やカゴメ格子の結果と比較しつつ厳密対角化法により数値的に調べた。最も単純な最近接相互作用のみの場合にはハニカム格子反強磁性体はフラストレーションを持たないが、そこに強磁性的な次近接相互作用を加えることにより、フラストレーションを誘起することができる。27年度には、ランダムネスの強さと次近接相互作用の強さをパラメータとしたこのモデルの相図を作成し、相図の広い領域にわたって、3角格子やカゴメ格子の場合と類似のランダムシングレット状態が安定化されることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フラストレート磁性体の新奇秩序の諸相を明らかにするという当初の大目標に関しては、概ね順調に進展している。特に、量子効果が生みだす新奇効果については”ランダムシングレット”状態の発見とその性格の精査という成果に結びついた。当初予定していた方向からは多少力点が修正を受けている感はあるが、フラストレート磁性体の新奇秩序の諸相を明らかにするという大枠からは、むしろポジティブな展開と判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
27年度はランダムネスと量子効果が生み出す、フラストレート磁性体の新奇な秩序状態である“ランダムシングレット”状態の解明に集中した研究を展開した。28年度は、その研究を継続するとともに、当初計画ではむしろ重点が置かれていたスピングラスを含む古典フラストレート系を対象とした研究についても力を入れたい。カイラリティ自由度が引き起こす新奇現象として、1)スピングラスのカイラル秩序化の問題と、2)カイラリティ自由度を有するフラストレート磁性体が示す新奇な臨界現象の解明の2つのテーマに特に力を入れたい。予備的な計算は27年度までに進めているので、28年度はそれを具体的な結果にまで推し進めたい。
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Research Products
(7 results)