2014 Fiscal Year Annual Research Report
水素・酸素を利用した純チタン焼結材の高強靭化ダイナミクスの解明
Project/Area Number |
25249102
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
近藤 勝義 大阪大学, 接合科学研究所, 教授 (50345138)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
梅田 純子 大阪大学, 接合科学研究所, 助教 (50345162)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 粉末冶金 / 純チタン / 相変態 / 残留水素 / 加工熱処理 / 集合組織 / 変形双晶 / ヤング率 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,ユビキタス軽元素を原子配列したチタン焼結材の高強靭化機構の解明を目的とする.なかでも,従来より負の材料因子とされてきた水素を活用し,加工・熱処理過程でのチタン焼結材におけるβ→α相変態に基づく特異な結晶配向の形成と高強度・高延性化といった新規な材料設計原理の提案・実証を行った.先ず,酸素,窒素,水素,炭素,シリコンを対象に,完全固相プロセスである粉末冶金法を用いて,上記の軽元素を原子レベルでチタン結晶格子内に配列・制御する固相-固相反応/固相-気相反応法を確立し,従来チタン合金の強度を凌駕するだけでなく,延性も2倍以上を発現した.特に,気相反応においては,酸素や窒素は,チタンと反応して安定な酸化物や窒化物を形成するが,チタン粉末最表面での各元素の濃度差を駆動力とし,各化合物の熱分解と拡散現象を促進できることを見い出した.これは固相製法ゆえに生じ得る特異現象であり,純チタン粉末を構成するα-Ti(hcp)結晶内のc軸方向に酸素/窒素原子が侵入固溶した構造を形成する際,c軸方向とa軸方向(底面)での格子定数の比率をある値以上に管理することで延性を支配する「すべり系」を活性化でき,高い延性を維持できることを解明した.さらに,酸素とシリコンの複合化において,各々の原子の侵入型固溶強化現象をX線回折による格子定数解析とLabuschモデルによる数値解析の両面から解明した.また,水素に関しては,チタンとの化合物であるTiHXがβ相の粒成長抑制に有効に作用するといった新たな知見を見い出した.既往研究では,大半の金属に対して水素は負の材料因子とされてきたが,本研究では微量水素を活用したα-Ti材の高強度・高延性発現を世界で初めて実証した.なお,当該年度における上記の研究成果に関して計4報の学術英文誌が掲載された.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
α-Ti(hcp)結晶格子内への酸素原子の侵入型固溶現象の解析に際して,窒素およびシリコンといった同様の軽元素も侵入固溶することをXRDによる格子定数変化およびTEM観察におけるX線回折によるALCHEMI法により実証したが,この課題は平成27年度に実施予定の内容であったことから当初の計画以上に進展しており,しかも本成果に関して古典強化理論の一つであるLabusch限界を用いた耐力値の増加挙動に関する定量解析結果とも一致することを明らかにしており,本研究の主要目的である軽元素によるチタン材料のダイナミクスの解明に関する方向性を明らかにした.なお,これらの研究成果に関しては,以下の学術論文に掲載された. K. Kondoh, B. Sun, S. Li, H. Imai, J. Umeda: Experimental and Theoretical Analysis of Nitrogen Solid-Solution Strengthening of PM Titanium,International Journal of Powder Metallurgy, 50, 3, (2014), 35-40.
|
Strategy for Future Research Activity |
先ず,α-Ti結晶格子内における水素・酸素原子の振る舞いに関する微視的局所構造解析を行う.具体的には,これまでに作製した水素含有量が異なる純Ti焼結体を対象に,水素原子とTiHXの分布状態に関してHR-TEMによる元素同定を通じて,押出後の冷却過程でのβ→α相変態とそれに続く特異集合組織形成へのH原子の影響,およびTiの動的再結晶挙動へのTiHX(特に結晶粒界に存在)微細析出物の影響をそれぞれ調査・解析する.これらの結果に基づき,Ti焼結体中の水素原子の振る舞いを解明し,上記の水素活用によるチタン材の高強靭化設計の妥当性を実証する.また柱面すべりにおける酸素原子の振る舞いを明らかにし,高強度特性を有するTi焼結体において高延性維持に有効な結晶配向性の提案・検証を行う.次に,高耐腐食性発現に向けた最表面構造設計の構築に向け,不動態皮膜の形成に及ぼす固溶酸素原子の影響を解析する.大気中の水分等の吸着作用により表面に不動態皮膜を形成し,この保護性により高耐腐食性を発現する.酸素固溶Ti焼結材では,原子固溶により最表面の電子密度が粗となるため,フェルミ準位近傍での電子空間密度が減少し,耐腐食性が更に向上すると考える.そこで,①水膜形成時のTi表面における電気化学ポテンシャル計測による不動態膜の形成挙動に及ぼす酸素原子の役割解明,②SSRT試験を用いてTiH2析出物が応力腐食特性に及ぼす影響調査といった2課題を中心に,理論的・実験的解析を行う.具体的には,ナノ領域での表面電位計測が可能なケルビンフォース顕微鏡KFMのチャンバー内に小型ロードセルを導入し,大気/塩水中での応力負荷時の電位差・電流と腐食速度の相関解析を行い,上記の水素化析出物が応力腐食挙動に及ぼす影響を定量的に解析し,腐食抑制/促進因子としての役割を明らかにする.
|