2014 Fiscal Year Annual Research Report
イオン液体電析プロセスにおける「水」~その統合的理解、排除と積極活用~
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25249106
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
邑瀬 邦明 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30283633)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
一井 崇 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30447908)
北田 敦 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30636254)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 金属生産工学 / 電気化学 / 溶液化学 / イオン液体 / 金属塩 / 水分含量 / 電析プロセス / 走査プローブ顕微鏡 |
Outline of Annual Research Achievements |
イオン液体-金属塩-水分混合系におけるエマルジョン形成に関し、動的光散乱に加えFT-IRを用いて水分子の状態を解析した。その結果、純イオン液体中の水はイオン液体のTf2N-アニオンと相互作用した状態でのみ存在するのに対し、エマルジョンにはバルク状態のクラスター水が含まれることを確認した。加えてこの系は金属イオンに水和した水を含み、水の3つの状態の水分子が存在する。また、Sr2+イオンを含むいくつかの系では、チンダル現象が観測されない場合も動的光散乱測定において自己相関関数に立ち上がりが見られることがわかった。こういった溶液中ではTf2N-アニオンで架橋されたSr2+イオンの高濃度なクラスターが形成されている可能性が示唆された。 水を添加したイオン液体浴を使う酸化物電析に関しては、酸化亜鉛形成を試みたものの、本研究申請前に行った予備実験を上回る結晶性薄膜は得られなかった。そこで、p型半導体薄膜である亜酸化銅(Cu2O)薄膜成長を探索することとし、本年度は比較のため水溶液系からの電析を研究した。また、また、水分添加からヒントを得て、中性分子であるグライム類を添加したイオン液体を溶媒に用いる金属Mg電析について、RamanスペクトルによりMg2+イオンの配位環境を明らかにした。 一方、周波数変調原子間力顕微鏡(FM-AFM)を用いるイオン液体-電極界面の可視化に関しては、観察可能な走査プローブ顕微鏡のさらなる性能向上を図るため、従来のタングステン探針ではなく、より軽量でかつ比較的硬い(ヤング率の高い)シリコン探針の先鋭化プロセスを確立した。フッ酸水溶液中での電解研磨と水酸化カリウム水溶液中での異方性エッチングからなる二段階エッチングプロセスにより、先端径120 nmまで先鋭化することに成功した。このシリコン探針による液中原子分解能観察も達成し、本プロセスの有用性を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度見いだしたイオン液体-金属塩-水分混合系におけるエマルジョン形成では、Tf2N-アニオンで架橋されたSr2+イオンの高濃度なクラスターの存在など、動的光散乱によってまた新しい知見が得られ、研究は広がりを見せている。 周波数変調原子間力顕微鏡(FM-AFM)を用いるイオン液体-電極界面の可視化に関してはシリコン探針先鋭化プロセスの確立とそれによる共振周波数の上昇・原子分解能観察の達成により高感度化の最初のステップはクリアされた。また、光干渉変位検出系の開発についても、光学系、機械系、電気系の構築はほぼ終わっており、実用材料に対してこれを適用する素地はできている。招待講演を3件受けるなど、研究は各方面から注目を集めている。 以上の成果は査読付き論文3報に加え、電気化学会、応用物理学会、表面技術協会、The Electrochemical Societyにおいて発表した。特に、イオン液体からのMg電析に関しては、昨年度の受賞に加えて新たに表面技術協会から第3回学生優秀講演賞を受けた。なお、イオン液体からのMg電析研究は、研究分担者(北田)による新しい研究(平成27年度 若手研究(B)「多価金属の安全な電解析出を実現する配位型電解液の創製と次世代電池への展開」)の採択につながった。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画は当初の予定通り進捗しており、大きな研究計画の変更はなく、これまでに得られた知見をベースとし、「イオン液体」、「水」、「金属塩」をキーワードとする研究を多角的に行い、新しく予算申請する次年度(最終年度)へとつなげる。 平成26年度、イオン液体-金属塩-水分混合系において、チンダル現象などの視覚的に明瞭な可視光散乱が見られない場合にも、サブミクロンサイズのエマルジョン形成を示す動的光散乱結果を得ており、次年度はみかけ上の相分離がないこのような系について計算機シミュレーションなども併用してクラスター化した水やイオン液体構成イオンの状態を解析する。また、水を積極的に用いる「イオン液体」として、ヒドロニウムイオン(H3O+イオン)を包摂したクラウンエーテルをカチオン種とする新しいイオン液体を調製し、その物性や電気化学プロセスへの応用性を評価する。この研究は当初計画には含まれていないが、昨年度実施した予備的研究において、良好な結果が得られたため、イオン液体電析プロセスにおける「水」をテーマとする本研究の一環としてふさわしいと考え、追加的に実施するものである。酸化物製膜についてはp型半導体薄膜である亜酸化銅(Cu2O)電析に関して研究をすすめる。 一方、周波数変調原子間力顕微鏡(FM-AFM)を用いるイオン液体-電極界面の可視化に関しては、これまでに開発を進めてきた装置を用い、より実用的な系へ展開することで、その有用性を検証する。具体的には、イオン液体を電解液とするリチウムイオン電池を構築し、電気化学環境下で電極表面構造ならびに界面電気二重層を形成する溶媒和構造のその場観察を行う。AFMの高い空間分解能を生かし、リチウムイオンの挿入・脱離にともなうこれらの構造変化を単一原子・単一イオンレベルで解析する。
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