2013 Fiscal Year Annual Research Report
植物の減数分裂進行を支えるRNAを介した制御システムの研究
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25252004
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Research Institution | National Institute of Genetics |
Principal Investigator |
野々村 賢一 国立遺伝学研究所, 実験圃場, 准教授 (10291890)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 遺伝学 / 育種学 / 植物 / 発生・分化 / 細胞・組織 |
Outline of Annual Research Achievements |
1. 減数分裂の移行に必須のイネMEL2は、標的とするmRNAに直接結合して翻訳を制御する可能性が高い。MEL2蛋白質のRNA認識モチーフ(RRM)との結合が示唆される10塩基長の配列を保存する249の遺伝子を選抜し、少なくとも5つは試験管内で実際にMEL2 RRMと結合することを確認した。その他、生体内でMEL2と結合するRNA配列を同定するため、タグ付きMEL2蛋白質を発現する形質転換イネを作成した。 2. イネの減数第一分裂の進行に必須のアルゴノート(AGO)蛋白質MEL1が減数分裂細胞で結合するmRNAを同定するため、動物細胞で報告があるCLIP法の適用を検討した。しかし細胞壁をもつ植物生殖細胞への適用は困難であり、他の方法を検討することとした。そこで今年度は、細胞抗体染色法によるMEL1機能解析を行い、MEL1が減数第一分裂初期に粗面小胞体上に凝集する傾向をみいだした。また、MEL1が一時的に核にも存在する可能性も示された。 MEL1が減数分裂組換えなど減数分裂の主要イベントで必須の役割を果たすことを、細胞学的解析から明らかにした。エピジェネティックなクロマチン構造制御に深く関わるDNAメチル化を解析する目的で、レーザー照射によるイネ減数分裂細胞単離を試みた。しかし細胞ダメージが激しく、メチル化解析には不向きであり、他の方法を検討することとした。そこで、やはりクロマチン制御と関わりの深井ヒストン修飾を調べたところ、ヒストンH3の10番目セリンのリン酸化がmel1変異体の減数分裂細胞で異常に亢進しており、MEL1が減数分裂染色体のクロマチン修飾をゲノムワイドに制御する可能性が示された。 3. イネの減数分裂への関与が予想されるOsAGO3蛋白質に対する抗体の作成を試みたが失敗に終わった。OsAGO3機能欠損が期待されたTos17挿入変異個体では、減数分裂で顕著な異常は認められず、種子稔性も正常であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
3つのイネRNA結合蛋白質のうち、MEL2については、MEL2と結合する可能性のある候補遺伝子の絞り込み、および試験管内におけるMEL2 RRMへの結合性を示すことができた。生体内における標的mRNAの同定は形質転換体の作成に手間取り、来年度以降の課題として持ち越すことになったが、概ね計画通り進捗している。 一方MEL1解析については、当初計画していた方法の適用が困難だったことで、標的mRNA同定という目標が達成できなかった。その代わりに実施したMEL1細胞内局在性解析により、MEL1が翻訳の場である粗面小胞体、特にリボソームと結合する可能性を見いだした。MEL1が翻訳制御に関わる可能性を示唆する重要な成果となった。 当初はMEL1がDNAメチル化に与える影響を解析する計画だったが、従来の単離法を試行し、有識者から情報収集した結果、細胞単離法から再検討することとした。その代替実験として行ったヒストン修飾の解析により、MEL1が減数分裂染色体のクロマチン修飾をゲノムワイドに制御するという重要な示唆が得られたことは、今後の解析方針を決めるにあたり大変貴重な成果となった。 当初計画していたOsAGO3は、蛋白質を特異的に認識する抗体が得られず、突然変異体も顕著な表現型を示さないことから計画を変更する。具体的には、上記のMEL1機能と関連し、葯でsmall RNA生合成に重要な役割を果たすイネ転写因子について、既に葯特異的な表現型を示す突然変異体を得ており、その解析を通じて生殖細胞特異的small RNAの機能を調べる。 過去に解析例が少ない減数分裂あるいはそれ以前の時期の生殖細胞を対象としていることもあり、当初計画からは予想以上に遅れている。しかし、MEL1の細胞内局在性やヒストン修飾への影響に関して、今後の解析に極めて重要な示唆が得られた点である程度挽回できたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 引き続きMEL2蛋白質が直接結合して翻訳制御を行う標的遺伝子の同定を目指す。正常個体とmel2突然変異体の葯から蛋白質を抽出し、二次元電気泳動により両者で発現量が異なる蛋白質スポットを選抜し、質量分析によりペプチド配列を同定する。また生体内でMEL2が直接結合するRNAを特定するため、GFP-MEL2を発現する形質転換イネを作成し、RNA免疫沈降の準備を整える。 2. MEL1が減数分裂クロマチンのヒストン修飾を制御する可能性を更に検証するため、種々のヒストン修飾を特異的に認識する市販抗体を用いた細胞抗体染色を行う。また生体内でMEL1と相互作用する蛋白質を同定するため、正常イネ個体の生殖器官に由来する蛋白質疎抽出液に対して、MEL1抗体による免疫共沈実験および質量分析を行う。 3. 当初計画していたOsAGO3解析に代わり、雄性減数分裂を包む葯壁内層の体細胞層のうち、特にタペート層の発生に重要な働きをもつ転写因子TTMの解析を計画に加える。ttm変異体ではタペート層は一見正常に発生するが、正常個体で起こるプログラム細胞死が起こらず、花粉が形成されない。近年タペート層はsmall RNA合成の場である可能性が指摘されつつあり、MEL1研究とも関連する可能性がある。
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