2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
25252008
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
江面 浩 筑波大学, 生命環境系, 教授 (00332552)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
加藤 一幾 岩手大学, 農学部, 准教授 (30613517)
有泉 亨 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (70575381)
王 寧 筑波大学, 生命環境系, 助教 (90730193)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | トマト / 重要形質 / 日持ち / 糖度 / 花成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、マイクロトムTILLING技術基盤より、3つのトマト重要育種形質について関連遺伝子の変異体を選抜・固定する。その後表現型及び比較オミックス解析により、各形質発現の分子ネットワークを明らかにし、各育種形質を改変する分子制御技術を提案することを目指す。 1.日持ち性制御:Sletr1-2変異体と中型トマト品種を交配したF1系統で、果実内の糖、アミノ酸、有機酸の含量を測定したところ、コントロールのF1系統と比較し、有機酸と一部のアミノ酸が上昇していた。また、変異体のF1系統では果実の水分のロスが少なく、日持ち性が向上していた。成熟が遅く赤熟しないNOR変異体ではエチレン生合成、色素合成が阻害されることが示唆された。また、NOR変異体の表現型と遺伝型間の連鎖解析を進めた。エチレン生合成遺伝子ACS2、ACS4、ACO1、ACO4の変異体では、エチレン生成量に変化がみられる系統は数系統得られたが、日持ち面で、野生型と比較し、有意な違いは見られなかった。 2.糖度制御:糖度蓄積関与遺伝子(SlVPE5)において、得られた7系統の変異体の赤熟果実形質(果実重、Brix値、サイズ)は、野生株とほぼ同様であった。一方、酸性インベルターゼ活性を測定したところ、ミスセンス変異とナンセンス変異を有する2系統で野生株よりも高い酵素活性を示した。このことから、SlVPE5は酸性インベルターゼの活性化を制御することが示された。 3.花成制御: SP5Gの花序形成における機能について評価した。SP5G過剰発現マイクロトムと無限成長品種を交配したF1は、花成が遅延するとともに第一花序と第二花序の間の葉数が野生型とのF1よりも増大した。一方、それ以降の花序間の葉数は有意差がなかったことから、SP5Gは花序形成初期に関与していることが示された。また、新たに15系統のELF3欠損変異体候補を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は3つの課題に取り組み、以下の進捗状況であったことから、上記の判断を行った。 1.日持ち性制御機構解析:Sletr1-2変異体と中型トマト品種を交配したF1系統で、日持ち性が向上することを明らかにした。選抜したNORホモ変異体に日持ち性に関わる表現型について果実各発達段階における野生型との比較調査を行った。その結果、果実成熟期のエチレン生合成および色素合成が顕著に抑制されることが明らかとなった。また、表現型と遺伝子型の連鎖解析を行うため、野生型と交配し、F2分離集団の種子を得た。エチレン生合成関連遺伝子の変異系統は、成熟期のエチレン生成量には有意な差が見られる系統が得られたものの、日持ち性に関して有意性は見られなかった。エチレン生合成関連遺伝子の多くは複数のホモログを持ち、単独遺伝子の変異で成熟抑制することは困難であることが示されたため、得られた変異体から、複数の生合成関連遺伝子を機能欠損している多重変異体の作出を進めた。 2.糖度蓄積制御機構解析:獲得したSlVPE5変異体の赤熟果実形質に関わる評価を行った結果、野生型と比べ有意な差は見られなかった。一方、酸性インべルターゼ活性は、7系統の内2系統の変異体で有意に高い活性を示し、SlVPE5は酸性インベルターゼの活性化を制御することが示唆された。 3.花成制御機構解析:SP5G過剰発現マイクロトムと無限成長品種を交配したF1の生育調査により、SP5Gは花序形成初期に関与していることが示された。花成ホルモンであるSFTが雑種強勢の原因である報告があることから、SFTと高い相同性をもったSP5Gの雑種強勢への関与を調べた。欠損変異体と野生型を交配したF1は野生型と比べ、花成は早かったものの生育や果実収量には影響を与えず、雑種強勢には大きく関与しない可能性が示された。ELF3欠損変異体は、15系統の変異体候補を獲得した。
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Strategy for Future Research Activity |
1.日持ち性制御機構解析:NOR変異体の表現型から、NOR遺伝子はエチレン生合成遺伝子および色素合成遺伝子に影響を及ぼすとみられる。今後は、NOR変異体及び野生型の果実発達・成熟の各段階において採取したサンプルを用いて関連遺伝子の発現量を調査し、果実の日持ち性制御における役割の一端を明らかにする。エチレン生合成関連遺伝子については、複数の生合成関連遺伝子を機能欠損している多重変異体の作出するため、新たに果実成熟時のエチレン生合成に関与が示唆されるエチレン生合成関連遺伝子(ACO3, E8, ACS1B)について、TILLINGによる変異体の獲得を行う。また、既にホモ系統が得られているACO1, ACS4, ACS2変異体でエチレン生成量に変化が見られた系統の交配を進め、日持ち性の形質評価を行う。様々な組み合わせの2重変異体、3重変異体等を作出し、果実日持ち性制御において重要な遺伝子セットを明らかにするとともに、日持ち性の良い品種の作出のための育種素材の獲得を目指す。 2.糖度制御機構解析:インベルターゼ活性の上昇が見られた2系統の変異体においてHPLCを利用して緑熟果実及び赤熟果実内の成分(フルクトース、グルコース、スクロース)を測定し、インベルターゼ活性の変化が糖度にどのような影響を与えているのかを明らかにする。これによって、SlVPE5の糖度制御機構における役割について考察する。 3.花成制御機構解析:昨年度の結果では、SP5Gの雑種強勢への関与が否定される結果となったが、病気の発生により、早めに試験を終了したことも影響したと考えられた。そこで、今年度は再試験を行い、雑種強勢への関与について再度検討する。また、ELF3欠損変異体の選抜をさらに進め、花成が促進された系統が得られたら、花成制御関連遺伝子の解析を行い、ELF3の花成制御における役割の一端を明らかにする。
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