2015 Fiscal Year Annual Research Report
木製文化財の非破壊材質評価とデジタルアーカイブ作成
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25252033
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
杉山 淳司 京都大学, 生存圏研究所, 教授 (40183842)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
今津 節生 独立行政法人国立文化財機構九州国立博物館, その他部局等, その他 (50250379)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | X線トモグラフィー / 画像認識 / 樹種識別 / 放射光 / 揮発性有機化合物 |
Outline of Annual Research Achievements |
九州国立博物館で撮影されるCTデータの解像度は低く、通常木材の樹種を特定するために必要とされる解剖学的な特徴を観察することはできない。しかし、CT画像にはそれぞれの組織構造に基づく特徴、いわば「木目調」が現れており、これを画像認識することで樹種を自動判定できる可能性があった。そのために画像のデータベースを作成し、それを計算機に機械学習させるシステムの構築に着手した。 樹種判定の対象は日本において主要な彫像用材である10種類の木材とし、博物館の装置で得られる最高解像度で木材の3次元データを蓄積した。具体的には、1樹種から40枚(画像サイズ300x300ピクセル、ピクセル解像度50μm)の木口断面を作成し、データベースとした。画像分解能は6段階(0.05, 0.1, 0.15, 0.2, 0.25 mm/pixel)に変化させ、画像の階調(グレースケール)を5段階(256, 128, 64, 32, 16, 8、28ビットから23ビット)、画像の関心領域を3段階(実木材の1.5 × 1.5, 1 × 1, 0.5 × 0.5 cmの領域に相当)として、合計90種類の画像データベースを準備した。 グレーレベル同時生起行列から計算するHaralickパラメーターを用いて、木彫用木材データベース間でLeave-one-out kNN法による自動認識を行った。その結果、16階調以上、0.15mm分解能で1センチ四方以上の領域の情報が与えられれば、98%以上の正答率で樹種が正しく認識されることが明らかになった。ただし、その際、触感や目視では間違えにくいキリとケヤキが予想に反して誤認識される場合があった。特に年輪の狭いキリと広いケヤキの場合、画像テクスチャー的には類似していることが原因であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
樹種識別に関する研究では、論文5報、講演7件、学会発表4件(うち画像認識関連では論文3、講演6件、学会発表2件)を報告し、関連分野の注目を浴びている。また新聞報道にも見られるように、文化財科学や歴史学といった非木材科学分野からも期待されている。昨年度、比重の異なる樹種間でご識別があることが判明したので、その原因を除去するために、CT輝度値の比重への変換を試みた。また、判別器自体の性能を高めるためにアルゴリズムの検討も併せて行った。 1)データベースの再構築:CT輝度値のキャリブレーションの検討 輝度情報が木材の比重の情報を反映するならば、識別精度の向上が期待される。そこで、データベース構築用の木材と同時に標準物質(比重の異なる標準木材サンプル)をCT撮影し、各サンプルについて新たに濃度を比重換算した画像データベースを構築して昨年度同様の解析に供した。その結果、ケヤキとキリの識別において誤認識が解消された。 2)判別プログラムの検討 判別には最も単純明快とされるk-NN交差検証法を用いてきたが、ユークリッド空間における単純距離ではなく、各標本グループの分散と標本グループ間の距離を用いて、説明変数に重み付けをするという新しい識別器を作成し、判別精度の向上を達成したと同時に、判別精度を数値として表すことのできるプログラム上での改良を行った。 以上の結果は、直近の国内学会において発表したのをはじめとし、論文に取りまとめて公表する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
現在稼動中のシステムは、画像の解像度や観測領域のサイズに依存するものの、データベースの解析においては、おおむね99%を超える高い精度が得られている。ところが作製した判定プログラムを実際の木製品画像に適用したところ、種々の問題点が明らかとなった。そこで昨年度は①CT濃度値を比重に変換することと、②判別器のkNN法に加えて、重み付け距離による新しい判別器の導入を検討した。その結果、比重の異なるキリとケヤキの誤認識などの基本的問題を回避することができた一方、濃度値を比重に換算する際や撮影条件の異なるものを評価する際に問題となる、画像のもつノイズが樹種判別に悪影響を及ぼすことが明らかになった。そこで今年度は画像データベースのノイズ除去と識別性能向上に向けたフィルタリング処理を重点的に検討する。 1)画像の前処理としての各種フィルター処理の検討 様々な画像フィルター(ハイパス、ローパス、メディアン等)による画像の前処理と識別精度との関係を明らかにする。 2)判別プログラムの検討 判別には最も単純明快とされるk-NN交差検証法に続き、昨年度は重み付け距離法を検討した。今後は人工知能の分野で大きな成功をおさめているディープラーニングの応用について検討する。
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Remarks |
新聞報道 「文化財傷めずに樹種判定 」読売新聞 2015年8月15日
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Research Products
(17 results)