2014 Fiscal Year Annual Research Report
人・地域づくりに貢献する主体形成・価値創造型の農業・農村支援モデル
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25252041
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
稲泉 博己 東京農業大学, 国際食料情報学部, 教授 (50301833)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
横山 繁樹 国立研究開発法人国際農林水産業研究センター, その他部局等, その他 (30425590)
平口 嘉典 女子栄養大学, 栄養学部, 講師 (10509285)
安江 紘幸 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, その他部局等, 研究員 (40508248)
大室 健治 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, その他部局等, 研究員 (70455301)
河野 洋一 帯広畜産大学, 畜産学部, 助教 (80708404)
下口 ニナ 東京農業大学, 国際食料情報学部, 講師 (90468695)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 主体形成 / AKIS / 実践コミュニティ / 技術の普及 / ライフストーリー |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は次のように研究を進めた。士幌町においては,馬鈴薯の産地形成に大きく貢献した生産者組織の役割を明確にした。帯広川西においては,ナガイモ普及に関わってきた農協職員,普及職員へのヒアリングを実施した。陸前高田における郷土芸能活動を通じて内部メンバー間のつながりが形成されること,また農村の維持発展に果たす役割について検討した。福島県発祥の「21世紀米つくり会」の機能と役割について明らかにした。小川町において,まず有機農業者による青年農業者育成方法に関して、独自の研修制度の確立過程と実態に関する調査を行った。次に有機農業による地域振興策に関わる制度的支援に関して,町役場とNPOによる支援の背景やその根拠,実施内容を明らかにした。 新規対象地域として,かごしま有機生産組合等の概要を把握するための予備調査を実施した。兵庫「きすみの」地区における地域ブランド化について研究を進めた。ここでは「きすみの」という伝統地名を活かしたゾーンデザイン,様々な試みが展開していくエピソードメイク,農業者やNPO,市役所,鉄道会社等,公共私が連携したアクターズネットワークが形成されることで地域ブランド化が図られていることを,トライアングルモデルに沿って明らかにした。 海外に関しては,有機農業を核にした島づくりの成功事例といえるフィリピン・ネグロス島を対象に,アクターズネットワーク形成プロセスの一端を明らかにした。南アフリカにおける家庭・学校菜園の実態調査を進めた。またマダガスカルに関しては,前年までに実施した現地調査結果を論文としてまとめた。 当科研全体に関わる課題として,1980年代以降の普及事業民営化を巡る国際的な潮流を整理した上で,2014年度日本農業普及学会大会シンポジウムでは,課題を共有し解決へ向けた取り組みを行えるような「場」としてのAKISの形成が重要であることを提起した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年度途中で研究代表者が急病を患ったものの,研究分担者や協力者の支援・協力により,一部を除き調査も続行でき,また各担当者の個々の課題については実績概要に記したように,ほぼ予定通り進んでいるため。 具体的には代表者がこれまで集中して調査を進めてきた,小川町,南アフリカに関して,いくつかの重要な知見が得られた。 特に小川町では,有機農業者による次世代農業者の育成に関して,金子氏を第一世代としてそこで研修後に独立して風の丘ファームを経営する田下氏を第二世代と見なし,田下・風の丘ファームで研修後に独立あるいは現在研修中の者を第三世代と捉えた。このとき第三世代には,風の丘ファームで研修することで,田下氏が金子氏から継承した技術とともに,農場内での「仲間の存在」はじめ様々な人との有機的なつながりを大切にするという理念も,田下氏から第三世代へと伝承されていることが確認できた。しかし同じ第三世代でも,既に独立しているA氏と現在研修中のB氏では,田下氏からの継承の仕方が異なっており,A氏はどちらかといえば田下氏と直接的な接点を持つ師弟同行によって継承したが,B氏の場合は,田下氏の技術と理念をすでに受け継いでいる先輩との師弟同行であることから,田下氏とは間接的な師弟同行であった。このような継承形態の変化には,研修生の資質や制度等の実践コミュニティ以外の外部環境の変化も影響しているものと思われる。いずれにせよこの事例から,実践コミュニティ形成の萌芽が確認できた。 南アフリカにおいては,前年の家庭菜園に加え学校菜園活動の現状を把握し,学校を核とする実践コミュニティ形成可能性について示唆を得た。この他福島21世紀米つくり会では,ポイントとなる基本技術という周辺参加から熟達化する可能性が示唆されるなど,多くの成果を積み重ねてきている。 これらの成果を雑誌論文7本,学会発表17件等において広く内外に発信してきた。
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Strategy for Future Research Activity |
実践コミュニティ(CoP)の形成過程と構造分析を進める。特にこの際数量データの拡充はもとより,質的データの収集とその分析によって,CoPの類型化を試みる。この際従前より取り組んできたライフストーリー・アプローチに加え,グラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)の援用も試みる。 地域的には,鹿児島における有機農業調査については,かごしま有機生産組合(KOFA)の会長である大和田世志人氏と,地球畑代表である大和田明江氏に対して予備的な聞取調査を実施したところであるが,さらに本格的な調査を行う必要がある。またマダガスカルのSRIに関してはそもそも技術としての定義が未確立であり,個々の要素技術の有効性も圃場環境に大きく依存する。収量の向上が特定の要素技術によってもたらされたのか,いくつかの技術を併用することで相互作用が発現したのか, SRIに固有の技術的優位性はないが研修によって経営者能力が向上したためか,研修を通じてどのようなAKISが形成されたかなど多くの課題が残る。 また全体的な背景に関わる課題として,普及事業の民営化を巡る国際的な潮流を整理し,公的普及は貧困層や社会的弱者を対象とできるが、政治的利益誘導の手段になりかねない一方,民間普及は農家のニーズにきめ細かく応えることができるが、利益にならないサービス提供はしない。両者のメリットを活かし,デメリットを回避する方策として期待されるものとして,準公的性格を持つNGOや農民組織の活用を提案した。さらに普及活動の過程で地域が抱える問題を皆で共有し,解決へ向けた取り組みを行えるような「場」としてのAKISの形成が重要であることを提起したところだが,こうした理論的研究についても,次年度以降,引き続き学会報告を行う予定である。
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