2014 Fiscal Year Annual Research Report
時間病態生理学に基づく分子法医診断学の樹立―時計遺伝子による死のメカニズムの探求
Project/Area Number |
25253055
|
Research Institution | Wakayama Medical University |
Principal Investigator |
近藤 稔和 和歌山県立医科大学, 医学部, 教授 (70251923)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木村 章彦 和歌山県立医科大学, 医学部, 准教授 (60136611)
石田 裕子 和歌山県立医科大学, 医学部, 講師 (10364077)
野坂 みずほ 和歌山県立医科大学, 医学部, 助教 (00244731)
前田 均 大阪市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (20135049)
池松 和哉 長崎大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (80332857)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 法医病理学 / 時計遺伝子 / サイトカイン / ケモカイン / 薬物中毒 / 深部静脈血栓 / 皮膚損傷 |
Outline of Annual Research Achievements |
サイトカイン・ケモカインの動態と時計遺伝子の相互連関に関する実験的研究及び実務的研究を展開し,時計遺伝子の発現と病態生理,すなわち時間病態生理学を考慮した分子法医診断学樹立を目指すことを本研究の目的とする. 1.マウス深部静脈血栓作成モデルにおいて,7:00結紮群では結紮後,全マウスが生存したが,12:00結紮群では結紮後3日までに約90%のマウスが死亡し,1,3日目の血栓は7:00結紮群で小さかった.両群間で血液凝固機能に差は認められなかったが,好中球の浸潤程度は7:00時に結紮したマウスより,12:00に結紮したマウスで,好中球数が少ないことが示唆された.以上の結果から,時計遺伝子の発現,好中球浸潤と静脈血栓形成の関係が示唆された. 2.ヒ素またはアセトアミノフェンを明期と暗期に分けて投与したところ,暗期投与群でヒ素による腎障害やアセトアミノフェンによる肝障害が増悪していた.すなわち,日内リズムが薬物毒性に影響を与えることを明らかにした.さらに,免疫組織化学的に,白血球浸潤の程度を検索したところ,暗期投与群では,好中球,マクロファージの浸潤が顕著であり,これらが臓器障害の程度と正の相関を示していた. 3.皮膚組織のautophagyは午後から夕方にかけて極大となる位相でcircadian rhythmを示し,autophagyにより分解されるSequestosome 1 (p62)はautophagyと逆位相で振動していた.受傷1日後の皮膚損傷組織では,Bmal1とPer2の遺伝子発現の位相に変化を認めなかったが,autophagyは著しく抑制され,それと対応してp62のタンパクレベルでの発現が著明に増加し,autophagyとp62のcircadian rhythmはほぼ消失していた.皮膚損傷におけるautophagyと時計遺伝子の相互関係が示唆された.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
哺乳類には睡眠覚醒,体温,内分泌,免疫,代謝などの生理現象において体内時計と呼ばれる24時間周期のリズムがある.このリズムは遺伝子の転写レベルで規定され,これに関する遺伝子を時計遺伝子(遺伝子産物を時計タンパク質)と呼び,数種の時計遺伝子から構成されている.すなわち,時計遺伝子の発現動態が,様々な疾患の病態や外的障害に対するストレス応答を制御していることが推測される.そこで,本研究ではこれまで申請者が樹立してきた疾患・傷害モデルについて日内リズムの影響を検討するものであり,深部静脈血栓モデルと薬毒物中毒モデルについて検討したところ,日内リズムがこれらの病態生理に影響を及ぼすことが判明した.すなわち,時計遺伝子の発現が種々の病態の重症度に大きく関与している可能性が示された.特に,深部静脈血栓モデルでは,血栓の大きさと血栓内好中球浸潤の程度に負の相関を認めた.一方,薬毒物中毒モデルについて臓器障害と白血球浸潤が正の相関を見出すことができた.すなわち,白血球浸潤が時計遺伝子より制御されている可能性が示された.さらに,正常皮膚組織における時計遺伝子の発現とautophagyの日内リズムがあることを明らかにし,autophagyの日内リズムが皮膚損傷により停止することを認めた.このことは皮膚損傷の生活反応における有用な指標となる可能性を示した.すなわち,これまでの次年度以降につながる結果を得ることができた.
|
Strategy for Future Research Activity |
深部静脈血栓モデルおよび薬毒物中毒モデルにおいて,白血球浸潤が各病態形成に重要であることを明らかにし,さらには白血球浸潤がいわゆる時計遺伝子による日内リズムが関与していることが判明した.白血球浸潤はサイトカインの一種であるケモカインによって制御されていることから,ケモカインはこれまで多数報告されていることから,時計遺伝子の発現と密接に関係があるケモカインについて検討を行う.また,皮膚組織における時計遺伝子の発現とautophagyの日内リズムがあることを明らかにしたことから,皮膚損傷の生前・死後の鑑別において,時計遺伝子の発現とautophagy関連分子が有用な指標となることが示唆された.すなわち,皮膚損傷モデルにおいて,その治癒過程における時計遺伝子の発現とautophagy関連分子の動態を検索し,それらが生前・死後の鑑別を含めた受傷後経過時間判定に有用となるか否かについて実験的に検討を進める.さらに,新たな病態モデルとして外傷性ショックモデル,敗血症ショックモデルについて時計遺伝子との関連を検討していく予定である.
|
Research Products
(18 results)