2015 Fiscal Year Annual Research Report
時間病態生理学に基づく分子法医診断学の樹立―時計遺伝子による死のメカニズムの探求
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25253055
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Research Institution | Wakayama Medical University |
Principal Investigator |
近藤 稔和 和歌山県立医科大学, 医学部, 教授 (70251923)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
野坂 みずほ 和歌山県立医科大学, 医学部, 助教 (00244731)
石田 裕子 和歌山県立医科大学, 医学部, 講師 (10364077)
木村 章彦 和歌山県立医科大学, 医学部, 准教授 (60136611)
池松 和哉 長崎大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (80332857)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 法医病理学 / 時計遺伝子 / サイトカイン / ケモカイン / 薬物中毒 / 深部静脈血栓 / 皮膚損傷 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.深部静脈血栓モデル:下大静脈結紮による深部静脈血栓の形成において,7:00結紮群よりも12:00結紮群で血栓が大きかったが,両群間で血液凝固能に差は認められなかった.しかしながら,血栓融解に重要なMMP9遺伝子発現が12:00結紮群で有意に減弱していた.一方,tPAの遺伝子発現は両群間で差を認めなかった.すなわち,MMP9の遺伝子発現の違いが血栓の大きさに寄与しているものと考えられ,血栓内におけるMMP9遺伝子発現と日内リズムの関係が示唆された. 2.シスプラチン腎障害モデル:8週齢の雄BALB/cマウスを用い,8:00または20:00にシスプラチン(15 mg/kg)を腹腔内投与し経時的に血中BUNとクレアチニンを測定した.シスプラチン投与後4日目までは8:00投与群と20:00投与群の両群間でBUN,クレアチニンに有意差は認められなかった.しかしながら,投与後5,6日目において,BUN,クレアチニンともに8:00投与群において有意に高値を示した.腎臓の病理組織学的に検索においては,8:00投与群において尿細管障害,出血,円柱を顕著に認めた.これらのことから,シスプラチン腎障害の発症において,日内リズムの関係が示唆された. 3.敗血症モデル:8週齢の雄BALB/cマウスを用いて,開腹下に回盲部を結紮後,20G針で1回穿通した後,閉腹して生存率を120時間(5日)まで観察した.8:00に施術した群では,施術後60時間で20%のマウスが死亡したものの,その後は死亡例は観察されず,120時間後の生存率は80%であった.一方20:00施術群では,24時間目までは死亡例は観察されなかったが,36時間では60%が死亡し,48時間では生存率20%となり,120時間で全例が死亡した.このように生存率に有意差を認め,細菌に対する免疫反応における日内リズムの関係が示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
法医実務において死因確定は最も重要な実務の一つであり,その際,客観性且つ正確性が求められることは言うまでもない.しかしながら,死因判定は,解剖における肉眼所見,病理組織所見及び検査所見に基づいて行われているが,各所見が死因に寄与する程度は様々である.哺乳類には睡眠覚醒,体温,内分泌,免疫,代謝などの生理現象において体内時計と呼ばれる24時間周期のリズムがある.このリズムが種々の病態や生体反応に影響を及ぼしていることが報告されている.本研究では申請がこれまで申請者が樹立してきた疾患・傷害モデルにおける日内リズムの影響を検討するものであり,深部静脈血栓形成は早朝よりも午後の方が溶解しにくいことが明らかとなり,その原因としては血液凝固能の違いによるものではなく,血栓内のタンパク分解酵素であるMMP9の発現の違いによるものであることが判明した.シスプラチンは抗がん剤として使用されているが,その副作用として,腎障害が知られている.そこで日内リズムがシスプラチン腎障害に及ぼす影響を検討したところ,8:00投与群では腎障害が増悪した.このことから薬毒物の毒性効果にも日内リズムの影響が明らかにされた.さらに,敗血症モデルでは,夜に病態を作成した時の方が増悪することが判明し,細菌に対する免疫反応にも日内リズムが影響することが示唆された.このように日内リズムの違いが病態の違いに影響していることが明らかとなり,法医実務的にもその病態が日内リズムのどの時点で生じたかを考慮することの必要性を認識することはできたものの,各病態における日内リズムが及ぼす分子メカニズムという点においてやや解析が遅れている点である.
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Strategy for Future Research Activity |
各疾患モデルにおいて,日内リズムがその病態に関与していることが示唆された.深部静脈血栓モデルでは,MMP9の遺伝子発現の違いが,血栓の大きさに影響を与えていると考えられる.したがって,MMP9発現細胞を同定し,時計遺伝子の発現の変化の影響を検討する.シスプラチン腎障害のメカニズムについては,腎尿細管のアポトーシス,オートファジーの関与が知られている.そこで,アポトーシス関連因子やオートファジー関連因子の発現が日内リズムにどのように影響を受けているのかを検討する.また,シスプラチン代謝における日内リズムの影響について検討し,シスプラチン腎障害に日内リズムがどのように影響を与えているのかを明らかにしていく.敗血症モデルにおいて,病態の重症度を規定する因子として,白血球遊走能,細菌の貪食・殺菌能,リポポリサッカライドに対する炎症性サイトカインの産生能が挙げられることから,これらについて検討を行う予定である.さらに,新たな疾患モデルとして法医学領域で古くから外傷性ショックのモデルとして,緊縛性ショックモデルが用いられている.そこで,新たに外傷性ショックモデルについても検討を開始する予定である.
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Research Products
(12 results)