2016 Fiscal Year Annual Research Report
時間病態生理学に基づく分子法医診断学の樹立―時計遺伝子による死のメカニズムの探求
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25253055
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Research Institution | Wakayama Medical University |
Principal Investigator |
近藤 稔和 和歌山県立医科大学, 医学部, 教授 (70251923)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
野坂 みずほ 和歌山県立医科大学, 医学部, 助教 (00244731)
石田 裕子 和歌山県立医科大学, 医学部, 講師 (10364077)
木村 章彦 和歌山県立医科大学, 医学部, 准教授 (60136611)
池松 和哉 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(医学系), 教授 (80332857)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 法医病理学 / 時計遺伝子 / サイトカイン / ケモカイン / 薬物中毒 / 深部静脈血栓 / 皮膚損傷 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.アセトアミノフェン肝障害モデル:アセトアミノフェン肝障害の日内変動について検討するため午前9時と午後9時にアセトアミノフェンを投与したところ,午後9時投与群では48時間以内に約90%のマウスが死亡したが,午前9時に投与した群の死亡率は約20%であり,アセトアミノフェン肝障害の程度には日内変動があることを既に報告した.アセトアミノフェンの肝障害には初期の薬物代謝とその後の炎症反応が相加相乗的に作用していることから,肝障害に関与する炎症性サイトカイン(IL-1, IL-6,TNFおよびIFNγ)の遺伝子発現を検索したところ,いずれの遺伝子発現も午後9時投与群で有意に増強していた.また, アセトアミノフェン代謝に関与する酵素であるシトクロムP450のCYP1A2, CYP2E1, CYP3A11の発現レベルをアセトアミノフェン投与前の午前9時と午後9時にマウスで検討したところ,午後9時のマウスでいずれの酵素発現も有意に増強していた.アセトアミノフェン肝毒性は活性代謝物NAPQIの過剰産生が肝障害のinitiationとなることから,これらCYP1A2, CYP2E1, CYP3A11発現の日内変動が,最終終的にアセトアミノフェン肝障害の日内変動に大きく寄与しているものと判断された. 2.外傷性ショックモデル:マウスの両側の大腿部を輪ゴムで圧迫し,90分後に開放する.大腿部を圧迫する時間帯を午前9時半と午後5時半の2群で検討したところ,前者では全例生存したにもかかわらず,後者では大腿部の緊縛解放後12時間以内に全例のマウスが死亡した.また,血清中のALTおよびBUNも午後群で有意に高値であり,病理組織学的にも午後群では肺および肝臓の炎症細胞浸潤が顕著であった.以上のことから,外傷性ショックの病態においても日内リズムの関係が示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
法医実務において死因確定は最も重要な実務の一つであり,その際,客観性且つ正確性が求められることは言うまでもない.しかしながら,死因判定は,解剖における肉眼所見,病理組織所見及び検査所見に基づいて行われているが,各所見が死因に寄与する程度は様々である.哺乳類には睡眠覚醒,体温,内分泌,免疫,代謝などの生理現象において体内時計と呼ばれる24時間周期のリズムがある.このリズムが種々の病態や生体反応に影響を及ぼしていることが報告されている.本研究では申請がこれまで申請者が樹立してきた疾患・傷害モデルにおける日内リズムの影響を検討するものであり,深部静脈血栓形成モデル,敗血症モデル,シスプラチン腎障害モデル,アセトアミノフェン肝障害モデル,外傷性ショックモデルの各病態について日内変動が存在することをこれまで見出している.また,主要臓器である心臓,腎臓,肺において時計遺伝子であるBmal1およびPer2の遺伝子は互いに逆位相で日内リズムをもって発現していることも確認した.このように日内リズムの違いが病態の違いに影響していることが明らかとなり,法医実務的にもその病態が日内リズムのどの時点で生じたかを考慮することの必要性を認識することはできた.現在,時計遺伝子と各病態モデルのKeyメディエーターとの関係について検討する最終段階の研究にとりかかっている.
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Strategy for Future Research Activity |
各疾患モデルにおいて,日内リズムがその病態に関与していることが示唆されたことから以下の点を検討する.具体的には,マクロファージ,並びに腎細胞,肝細胞を培養し,siRNAによってBmal1およびPer2の遺伝子をノックダウンし,各物質の発現に対する時計遺伝子の影響を解明する. 深部静脈血栓モデルでは,MMP9の遺伝子発現の違いが,血栓の大きさに影響を与えていると考えられる.したがって,MMP9発現細胞を同定し,時計遺伝子の発現の変化の影響を検討する. シスプラチン腎障害のメカニズムについては,腎尿細管のアポトーシス,オートファジーの関与が知られている.そこで,アポトーシス関連因子やオートファジー関連因子の発現が日内リズムにどのように影響を受けているのかを検討する. アセトアミノフェン代謝におけるCYP1A2, CYP2E1, CYP3A11発現と日内リズムの影響について検討する. 敗血症モデルおよび外傷性ショックにおいて,病態の重症度を規定する因子として,白血球遊走能,マクロファージの炎症性サイトカインの産生能と時計遺伝子との関係について検討する.
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Research Products
(20 results)