2015 Fiscal Year Annual Research Report
ユダヤ・イスラーム宗教共同体の起源と特性に関する文明史的研究
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25257008
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
市川 裕 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (20223084)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐藤 研 立教大学, 文学部, 名誉教授 (00187238)
桑原 久男 天理大学, 文学部, 教授 (00234633)
細田 あや子 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 教授 (00323949)
高井 啓介 東京大学, 人文社会系研究科, 研究員 (00573453)
月本 昭男 上智大学, 神学部, 教授 (10147928)
高橋 英海 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (20349228)
菊地 達也 東京大学, 人文社会系研究科, 准教授 (40383385)
長谷川 修一 立教大学, 文学部, 准教授 (70624609)
葛西 康徳 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (80114437)
江添 誠 慶應義塾大学, 文学部, 講師 (80610287)
牧野 久実 鎌倉女子大学, 教育学部, 教授 (90212208)
小堀 馨子 帝京科学大学, 生命環境学部, 准教授 (00755811)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 宗教学 / 古代ローマの宗教 / ユダヤ教 / 初期キリスト教 / ゲニザ文書 / 動物供犠 / 法と宗教 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、3つの唯一神教の違いを明らかにして、ユダヤ教・イスラム教のもつ啓示法的宗教が歴史的に果たした意義を明示することである。そのためには、キリスト教が発展したギリシア・ローマ地域の社会構造とイスラーム世界の社会構造の比較へと論を展開できるようにしなければならない。 今年度も、事務局体制によって全体計画を立案構想し、個別研究とともに、全体計画を定め、主として3つの課題を遂行した。第1に、3つの研究班ごとの発表を1回に集約して各班より1名の研究発表を7月に実施することができた。その中の1名の発表を年度末の国際シンポジウムで英語による発表として採用することも決まった。 第2には、8月にドイツのエアフルト大学で開催された国際宗教史学会IAHRにおけるパネル参加と1名の個別ポスター発表が実施された。パネル発表では、ローマ帝国の宗教と一神教の違いが最も鮮明に現れる動物供犠に注目して、一神教が古代の宗教意識の変化をもたらした点を明らかにした。 第3に、年度末の国際シンポジウムでは、中世イスラム社会の諸宗教を扱う格好の事例として「ゲニザ文書」の専門家を招聘して、バビロン捕囚時代の碑文資料研究とを組み合わせた。研究課題は、「ユダヤ的共同体の萌芽と中世における展開:一次史料による比較」である。啓示法成立以前と以後の共同体性の比較研究へのきっかけをつかむことができた。 最終年度に向けての課題として残っている点について。これまで、二つの文明における宗教の役割に留意して、当初より違いを際立たせる名称を使ってきた。キリスト教を、人間の内面の信仰のみを拘束する「信仰の宗教」として、ユダヤ教とイスラム教を、日常生活が唯一神の啓示によって網羅的に拘束される「啓示法の宗教」とした。この名称については、分担者にも異論のあるところで、まだ十分に吟味されておらず、この点は最終年度の重要な課題となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
個別研究については、各分担者、協力者による努力によって鋭意進められているが、ここでは、2つの全体計画について予想外の収穫があった点を期したい。 8月の国際宗教史学会へのパネル参加については、会議の実行委員長がドイツのエアフルト大学の著名な古代ローマ宗教研究者であったため、古代地中海宗教に関する発表が従来に比べて格段に多く、その中で日本からこの分野で唯一パネル参加したのが我々のパネルで、実行委員長も関心を寄せて、多忙なスケジュールにもかかわらず我々のパネルを聴講し質疑応答を通して貴重な意見交換ができた。古代ローマ時代の宗教研究で日本の研究の現状を紹介したことの意義を実感した。 年度末のシンポジウムでイスラエルからゲニザ文書の研究者を招へいしたが、シンポジウムでは日本側から中世エジプトのイスラム史とコプト教の研究者をコメンテータとして依頼したことで、日常生活の場における3つの宗教の相互影響を婚姻制度について確認することができた。これは予期していなかった成果であり、ゲニザ文書はユダヤ教徒の文書史料であるが、他の一神教に関する研究者も注目している重要な文献であり、今後の共同研究が待たれる分野であることを再確認できた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は3つの研究班を設定しているが、これまで、平成26年度には研究班Aの「法と宗教」を中心としたシンポジウムを行い、平成27年度には研究班Cの「一神教社会」を中心に企画した。残るは、研究班Bの「宗教文化」であるが、これを最終年度のシンポジウムの主題として、日本隊とともに発掘調査に参加してくれているイスラエルの考古学者を招聘してシンポジウムを開催することを目標としている。 最終年度は成果報告書に向けて個別研究を完成させることが課題の一つであるが、個別研究の集積以外に、本科研の課題として、ユダヤ・イスラム的宗教共同体の文明史的意義の提示を最大の課題として自覚している。それをどういう形で提示できるか、事務局を中心に検討していくが、今考えている方策として、第1に名称の吟味がある。信仰の宗教と啓示法の宗教という名称の是非について、議論を深めたい。第2には、「一神教の世界宗教史」に関する教科書の構想がある。これも現在構想中だが、日本宗教学会学術大会でその一端を紹介することを予定している。
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Research Products
(27 results)