2015 Fiscal Year Annual Research Report
東アジアの広義のホームレス支援に基づく包摂型都市生成と支援の地理学の構築
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25257014
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
水内 俊雄 大阪市立大学, 都市研究プラザ, 教授 (60181880)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
全 泓奎 大阪市立大学, 都市研究プラザ, 教授 (00434613)
コルナトウスキ ヒェラルド 大阪市立大学, 都市研究プラザ, 助教 (00614835)
中山 徹 大阪府立大学, 人間社会学部, 教授 (40237467)
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Project Period (FY) |
2013-10-21 – 2017-03-31
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Keywords | インナーシティ / ホームレス / 居住福祉 / 支援の地理学 / 東アジア |
Outline of Annual Research Achievements |
展開してきた3つの研究領域の中研究領域B、東アジア諸地域の政策的展開と支援の深化、および都市の再成に関しては、それぞれ達成点が見出せた。東アジアのホームレス支援が濃淡はあれ、都市における最後のセーフティネットの制度化をまがりなりにも進めたこと、都市空間の再生では、低家賃狭小住宅の積極的な利活用がケア付きで進め始め、修復型再生の地道な取り組みが定着したこと、これがケアの空間で編成される寛容な都市空間を生み出したことを明らかにした。 こうした成果を踏まえて、全泓奎編『包摂都市を構想する:東アジアにおける実践』、法律文化社を刊行し、東アジアにおける包摂型のホームレス支援の総括を、Routledge社が刊行する、「Faces of homelessness in the Asia Pacific」を編集、寄稿する。ただしこの寛容な空間の社会的認知は高くなく、この空間のもつ意味、意義について、都市構想としてきっちり位置づける都市論の彫琢を先導する欧米とのダイアログが必要となる。 このダイアログは一昨年度から着手したが、関連する研究領域Cについては、アングロフォンで進められている都市社会地理学による膨大なホームレス研究のフォローアップを、昨年度は精力的に開始した。排除と包摂の合間をしたたかに生き抜いてゆくインナーシティ、アウターシティの可能性を、レジリエンスの概念に中心に、追究した。東アジアと少々異なる文脈で動いている欧米のホームレス支援と、それに関連する都市的アウトカムを叙述するいくつかの都市論を翻訳として紹介した。その成果は下記のとおりである。 英語書籍の邦訳:『ポスト福祉主義都市のレジリアンス』ジェフリー・ドゥヴェルトゥイユ、2015年、の部分訳を本科研の中間報告書に掲載。 英語論文の翻訳「懲罰の時代の只中でホームレスの地理を位置づけ直す」を、「空間・社会・地理思想」誌の19号、2016年に翻訳して所収。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ある程度順調に進捗した最大の要因は、昨年度に開催した第5回東アジア包摂型都市ネットワーク会議において、『包摂都市を構想する:東アジアにおける実践』を刊行し、そこで福祉に優しい都市をプライドとする「寛容な都市」を提起し、貧困者を排除しその存在を無視することを可とする「懲罰的」な都市像に対置するといった理論的しつらえを得たことにあろう。「福祉に優しい都市をプライド」とし、手厚い「ケアの空間」を形成する都市像を展望し、「ケアの空間」の構築に向かって成果を上げる各国の活動、その多くを、住民の社会参加を促進させながら「ケアの空間」の構築を目指すNGOなどの実践として位置づけたことであろう。 このブレークスルーは、「寛容な都市」を提起したアングロフォンの都市社会地理学の動向を、遅まきながらキャッチしたことから得られた。「報復主義」に基づいた貧困者排除という観点からの研究に対して、手厚いサービスを行っている支援団体(NPO)や社会的不動産業者を担い手とした、地域の社会的・空間的レジリエンスのプロセスに目が向けられている。こうした支援団体の集積である「サービスハブ」が見られ、ジェントリフィケーションなどのプレッシャーがあっても、拠点とする地域で根強く支援が維持され続けている。ボトムアップ方式でありながらでも、実際に貧困問題に対応できる支援システムが機能しており、それが社会的包摂のベースとなりつつある。こうした状況を叙述する研究に出会い、それを翻訳したことが、昨年度の大きな収穫であったといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
観点として、①都市論の構築と、②都市構造との関連、そして③どのような都市空間が望まれ、④都市空間においてどのような支援の実態があるのか、という4つのテーマを明確にしておく必要がある。④は研究領域Bであり、①~③は研究領域Cにあたる。 具体的には、①都市論のはなしとして、こちらに展開しないと、都市構想とか、都市を変えてゆく話につながりにくい、社会的な認知をえてゆく、どのような都市を構想するのか?一国レベルの都市政策や社会政策の方向性とも関わる議論となる。②都市構造のはなしは、光と影の空間的布置であり、都心及びインナーシティやアウターシティとのそれぞれの対比があり、地理的に明らかにする必要がある。 さらに③都市を加えて受け皿の空間的広がりやネットワークをきっちりと議論しないと、都市論だけでは空中戦になる、それはサービス拠点のはなしにもなるし、ジェントリフィケーションの進行にも関わる、都市再開発のプレッシャーといった土地経済のありようとも関わる。 そして④は、都市空間における広い意味でのセーフティネットの実態を、排除と包摂の対比の中で、分析的に明らかにしてゆくことにあろう。その際、分析枠組みをさらに強化する必要があり、a:ローカルな労働市場(闇市場vsエスニック企業)、b:市民権(過激派宗教vs公的サービス)、c:ソーシャルネットワーク(隔離、犯罪vs家族や地域での助け合い)、d:サービスハブのあり方(支援対象からの外れvsアウトリーチや中間施設)という4つのカテゴリーを視野に入れることになる。 都市論を支配している英語圏の議論、社会の関心と、地道な努力を立体的に理解される仕組みづくり、包摂型社会論をどうローバストな都市論に仕立て上げてゆくかにかかっている。
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Research Products
(23 results)