2015 Fiscal Year Annual Research Report
南極海オーバーターニングにおける淡水量変化の量的把握と原因究明
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25281001
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
青木 茂 北海道大学, 低温科学研究所, 准教授 (80281583)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
深町 康 北海道大学, 低温科学研究所, 准教授 (20250508)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 環境変動 / 環境分析 / 南極海 / 淡水循環 / 酸素同位体比 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、氷床融解の加速や降雪量の増加といった淡水循環の変化により、極域海洋の淡水化が進行することが予測されている。特に南極海では、表層水塊の淡水化が深層オーバーターニング循環を弱化させる可能性が指摘されており、塩分変化の実態把握とその原因の究明が急務となっている。本研究では、酸素同位体比に重点をおいた現場観測資料解析に基づき、南極水塊における淡水分布様式とその変化について検討する。 これまで、国際共同研究体制が拡大したおかげで、南極大陸沿岸全周を網羅する海域において酸素同位体比分析用のサンプルを取得することに成功した。これらを分析することで過去および今後の時間変化の原因を推定するための貴重なベースラインを引くことができる。物理量、特に酸素同位体比の空間分布については、大陸棚から外洋域にかけての海洋全層における分布を調べた。なかでも、これまでほとんど観測されたことのないトッテン氷河前縁部で得られた試料について分析を行い、西南極域と同様の構造特性を持つことが明らかになった。 淡水量の時間変化については、陸棚上の表層水および底層水が低塩化しつつあり、さらに2010年のメルツ氷河舌の剥離で低塩化が加速した南極アデリー海岸沖において解析を進めた。衛星資料に基づくデータセットにより海氷生産量が減少したことを確かめ、海氷生産起源成分の減少が塩分の低下に繋がることを確認した。同時に、本研究で取得した酸素同位体比は過去の値に対して著しく低く、陸氷融解成分も増加したことが推定された。このことは、氷河舌の形状の変化が海氷生産を通じて海洋の貯熱量分布を変化させて陸氷融解を変化させた可能性を示唆しており、深層オーバーターニングの変化を解明する上で大陸棚上における氷況把握の重要性を示すものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
国際共同観測の進展により、塩分・同位体資料の取得が当初計画以上に進んでいる。昨年度は、国際共同観測Sentinelに関連して、ケープダンレー沿岸沖での陸棚斜面における水温・塩分データおよび酸素同位体比サンプルの取得に成功した。また、韓国・独と共同で、アムンゼン海およびウェッデル海大陸棚域での海水試料も取得に成功した。取得した酸素同位体比試料の分析も、ほぼ当初計画どおりのペースで進展している。特に、2015年に取得したトッテン氷河沖、アデリーランド沖におけるサンプルの分析を全て終了した。また、オーストラリア-南極海盆で取得したサンプルについても、分析を実施した。ただし、共同体制の拡大に見合う分析処理能力の向上は未だ途上である。 資料の解析も順調に進展している。塩分分布の時・空間変化を解釈するために、海氷生産による塩分フラックスについて、2014年までのデータセットを入手し整備した。特に、酸素同位体比資料の最も密に存在するアデリー海岸沖では、2010年のメルツ氷河舌の剥離に伴ってポリニヤの分布が変化したため、海氷生産が著しく減少したことを確認した。空間分布については、対象を外洋域までひろげて、海洋全層に渡る酸素同位体比の分布を調べた。特に、トッテン氷河前縁部で取得した酸素同位体比資料は、西南極と同様、周極深層水起源の高い同位体比の水の上に低い同位体比を持つ水が分布していることを見出した。ただし、その上層での値を過去の西南極での値と比較すると同位体比は高く、氷床融解成分の比率が小さいことを反映している。時間変化については、南極アデリー海岸沖において特筆すべき進展が得られた。2011年および2015年に取得し分析した同位体比は過去(2001年)の値に対して著しく減少した事実を見出した。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度として、観測を実施するとともに、これまでに取得した海水資料の酸素同位体比の分析をいっそう推進する。これまで蓄積した観測・分析結果を取りまとめて、南極大陸沿岸域における酸素同位体比の空間的な分布の特徴および特筆すべき時間変化の原因を考察する。 モニタリングライン観測のまとめとして、110°E近傍の陸棚斜面域を中心として、CTD/RMS観測および酸素同位体比分析用の海水試料取得を実施する。また、昨年度実施したウェッデル海・アムンゼン海の大陸棚上での酸素同位体比分析用試料を低温研に輸送し、分析を行う。光学測定による分析効率と精度を確立し、同位体比分析能力の向上への道筋をつける。 得られた観測・分析結果に過去の観測資料を加え、塩分および酸素同位体比の時・空間変化の実態とその原因となる水循環変動に関する解析を行う。空間変化については、陸棚域を中心に外洋表層・底層にかけて、塩分および酸素同位体比の空間マッピングデータを作成する。同時に、南極沿岸域を中心として、酸素同位体比と塩分を用いて降雪起源水と海氷生産量との対応に関する検討を行う。これにより、淡水フラックスの空間特性に関する推定を行い、淡水バランスの海域よる違いを明らかにする上での酸素同位体比の有効性について考察をすすめる。 時間変化に関しては、特にオーストラリア南極海盆・アデリー海岸における変化に着目し、変化メカニズムの定量解析を試みる。塩分の時間変動に関しては、オーストラリア南極海盆の西部について、過去の観測等と比較することで表層から底層までの塩分の時間的変化特性を解析し、酸素同位体比の変化と合わせて貯淡水量の変化に関する評価を行う。
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Research Products
(11 results)