2014 Fiscal Year Annual Research Report
生物炭酸塩中微量元素の化学形態を指標とした、新しい古環境復元法の開発
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25281015
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Research Institution | Japan Synchrotron Radiation Research Institute |
Principal Investigator |
為則 雄祐 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 利用研究促進部門, 副主幹研究員 (10360819)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉村 寿紘 独立行政法人海洋研究開発機構, 生物地球化学研究分野, ポストドクトラル研究員 (90710070)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 生物炭酸塩 / 古環境 / 微量元素 / 化学形態 / カワシンジュガイ / 放射光軟X線 / スペシエーション |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、昨年千歳川において採取したカワシンジュガイ殻の放射光分析を中心に実施した。硫黄の軟X線吸収分析においては、強く酸化された6価の硫黄と還元的な硫黄の2種類の硫黄を明確に分離観察することができた。殻に取り込まれた硫黄の濃度分布を化学形態を分離して観察したところ、いずれも成長線と対応した周期構造を示すものの、有機硫黄においてより明確な周期構造が観察された。さらに、有機硫黄とリンの濃度頒布は良い一致を示すとともに、リンは有機リン酸の形態であることを軟X線吸収分析によって明らかにした。これらの結果から、選択的に有機硫黄とリンの濃度分布を観察することで、これらの元素を栄養塩指標として利用できる可能性が示唆された。 一方で、硫酸形態をもつ酸化硫黄は、5から10年の周期で、通常の10倍近くの濃度で取り込まれていることが明らかとなった。この現象は、殻の蝶番部において特異的に見られることから、砂地との接触により殻が破損し、炭酸塩が河川中に溶解することを防ぐことを目的とした生物的な効果であると考えている。硫酸の取り込みは、何らかの生息環境の変化がトリガとなっていることも考えられることから、環境情報との比較検討を進めている。 本年度は尻別川において試料の採取を実施した。千歳川は栄養塩濃度が低い河川であるのに対して、尻別川は懸濁物が多く、富栄養化した河川である。そこで、これらの川に生息するカワシンジュガイ殻中のリンや硫黄の濃度、あるいはその分布を比較検討することで、これらの元素が栄養塩の古環境指標として利用可能かどうか、検証できると考えている。 試薬を用いて殻の断面を染色し、正確に成長線を計数する手法を習得した。本手法によって観察された成長線の年代を正確に決定し、国土交通省の河川データベースの観測地と対比することで、殻中のリンや硫黄濃度を定量的に評価する手法の開発にも着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに、千歳川で採取した試料については、放射光軟X線によるスペシエーションマッピング解析を一通り完了している。その結果、殻の断面中には栄養塩と相関を持つと考えられている硫黄ならびにリンを検出することに成功し、これらの元素が成長線と対応した周期構造を持つことを明らかにした。硫黄については強く酸化された石膏類似の無機硫黄と有機物の特徴を持つ還元的な硫黄を含むだけでなく、化学形態に依存して硫黄の濃度分布が異なることを見いだした。一方で、リンは部位に依存せず有機リン酸として取り込まれていることも、軟X線吸収分光解析より明らかとなった。 現在は、試薬による染色処理によって成長線を正確に計数する手法を習得し、殻の成長線を絶対年代に変換する作業を進行している。今後は、リン・有機硫黄の濃度変化と試料を採取した河川の栄養塩指標を比較・検討し、それぞれの元素の栄養塩指標としての可能性を検証してゆく予定である。また、富栄養化した尻別川の試料についても試料採取を完了し、同様の分析を実施する準備が整っている。異なる河川環境に生息するカワシンジュガイ殻中の微量元素濃度を比較することにより、栄養塩指標としての可能性を検証できると期待される。 これらの進捗状況から判断して、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
1, 昨年度は、栄養塩濃度が高い尻別川においてカワシンジュガイを採取した。本年度は、尻別川で採取した試料に対して、これまでと同様に殻中の微量元素の分析を実施する。リン・硫黄に注目し、軟X線吸収分析により化学形態を分析するとともに、その含有量を分析する。栄養が過負荷状態にある尻別川と、清流である千歳川に生息する貝中のリンや硫黄濃度・化学形態について比較検討を行い、河川中の栄養塩濃度が殻中の微量元素濃度や分布にどのように反映されているのか検証を行う。 2, これまでに採取したカワシンジュガイ殻を対象に、μビームを用いた高解像度断面計測により、微量元素と成長線の関係を解析する。栄養塩指標であると考えているリン・有機硫黄を中心として、数年周期で大きく濃度が変動する無機硫黄、水温指標となるストロンチウムなどに着目し、これらの元素濃度の季節変動を読み解く。 3, 前年度に、高解像度のデジタルマイクロスコープを導入するとともに、試薬によって成長線模様を強調することによって、成長線を正確に計数する手法を確立した。本手法をこれまでに採取した試料に適用し、カワシンジュガイ殻に記録された成長線の年代を決定する。また、目視確認できる成長線構造と微量元素分布に見られる成長線構造を比較検討し、その形成過程に関する知見を得る。 4,得られた結果を総合的に検証し、微量元素の濃度変化を絶対時間で評価する。得られた結果は、国土交通省のデータベースに蓄積された河川の環境情報と照合し、各微量元素が河川のどのような環境指標を反映しているのか、評価を行う。栄養塩指標に加えて、降雪量が多い尻別川地域では、栄養塩を運搬する河川の流量変化なども成長線構造の形成に関与していることが期待される。高解像度断面計測では一年の季節変化まで微量元素濃度の変動を読み解くことができることから、季節変動についても合わせて解析を行う。
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Causes of Carryover |
情報収集の為に年間購読していた科学情報誌の購読代金に対して、契約差額が生じたために次年度使用額が生じることとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度分の助成金と合わせて、主に SPring-8の放射光分析の消耗品実費負担費として使用する予定である。
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Research Products
(9 results)