2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
25281044
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
伊藤 公紀 横浜国立大学, 環境情報研究院, 教授 (40114376)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
雨宮 隆 横浜国立大学, 環境情報研究院, 教授 (60344149)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | アオコ / 生物間相互作用 / 湖沼 / クオラムセンシング |
Research Abstract |
今まで解析を行ってきた湖沼生態系の数理モデルを再構成し,栄養塩負荷の低減を行うことなく,藍藻類が増殖した状態を改善する手法について,双安定理論に基づき検討した。すなわち,「ウキクサ-根圏細菌共生系が藍藻類の増殖を抑制する効果」をHolling Type-IIIの捕食項として導入した。この数理モデルの線形安定性解析を行うと,根圏細菌群集が藍藻類の増殖を抑制することが,双安定性曲線が高栄養塩負荷側にシフトすることで示された。この結果は,湖沼生態系において栄養塩類の負荷を低減することなく,部分的な生物間相互作用を利用することで,マクロな湖沼生態系を修復できる可能性を示している。 次に,ウキクサの根圏細菌はクオラムセンシング(密度依存性感知)と呼ばれているメカニズムによって,ある一定数以上の細菌数になることで細胞間シグナル伝達によって,殺藻性を示すことが示唆されている。そこで,殺藻メカニズムに深く関わる細胞間のシグナル伝達であるクオラムセンシングのメカニズムについて,酵母細胞を用いた実験的検討を行った。酵母細胞が解糖反応において,細胞内の解糖反応を細胞間で同期させることを利用して検討した結果,孤立した細胞は同期せず,集団化した細胞は高い相関をもって同期することが明らかになった。また,酵母細胞は同期することで効率よく解糖反応を進めていることも数理モデル解析から示された。このように,根圏細菌においても,オートインデューサー(AI)と呼ばれる情報伝達物質を介して細菌数を増殖させ,効率的に藍藻類の増殖を抑制している可能性が示唆された。 また,根圏細菌および水中細菌の群集構造をPCR-DGGE法によって調べると,ウキクサ根圏細菌が藍藻類の添加によって水中に移動した様子が観察された。すなわち,根圏で増殖した細菌が水中に戻り,藍藻類の増殖抑制に関与したことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
湖沼生態系の数理モデル解析については,ウキクサ根圏細菌が藍藻類を除去する生物間相互作用を取り入れたモデルを構成し,双安定性曲線のシフトによって,栄養塩類の負荷を低減しなくても藍藻類を低減できる可能性を示すことができた。今後は,より広いパラメータの範囲において同様の効果が現れることを示す。 微生物群集の情報伝達メカニズムであるクオラムセンシングについては,酵母細胞を用いて研究を進めることができた。今後,細胞の密度依存性などについて,詳細に検討していく。 ウキクサ根圏細菌による藍藻類の除去に関するラボ実験は順調に進んだ。今後は特に,PCR-DGGE法により,ウキクサ根圏の細菌群集の構造と藍藻類の除去効果の関連性を明らかにしていく。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に構成した数理生態モデルの解析をさらに進める。特に,湖沼生態系の双安定性とそのシフトに及ぼす、(i)細菌群集の効果、および、(ii)水生植物(ウキクサ)の効果について、詳しく検討を行う。すなわち、細菌群集の効果としては、藍藻類との栄養塩をめぐる競争関係、および、藍藻類の殺藻作用が双安定状態に及ぼす影響を検討する。さらに、ウキクサの効果としては、根圏細菌群集を活性化させる作用の他に、藍藻類と光と栄養塩をめぐる競争関係についても検討をおこなう。以上のような、ウキクサと根圏細菌群集が湖沼生態系の安定状態に及ぼす効果を数理生態学的に明らかにし、双安定理論を応用した湖沼環境の効果的な修復手法を提示する。 前年度に引き続き、水生植物の根圏微生物群集の藍藻類の除去効果と生物間のシグナル伝達であるクオラムセンシング機構を明らかにする。特に,クオラムセンシングについては,実験的に扱いやすい酵母細胞を用いた研究を進め,細胞間の時間空間的な情報伝達過程について明らかにする。 また,前年度までの行った細菌群集のPCR-DGGE解析をさらに進め,根圏細菌群集構造と藍藻類の除去機構について明らかにする。
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