2015 Fiscal Year Annual Research Report
新しい移動追跡法を用いた島嶼生態系保全システム構築のための基盤的研究
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25281056
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
河野 裕美 東海大学, 沖縄地域研究センター, 准教授 (30439682)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
依田 憲 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (10378606)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 生態系管理・保全 / 島嶼生態学 / 海鳥 / 個体群動態 |
Outline of Annual Research Achievements |
仲ノ神島は、熱帯性と温帯性の海鳥類が各々分布の北方および南限繁殖地として同所的に繁殖する。分布の外縁近くに生息する個体群は、種の持つ生態的な特性を顕著に表わすことが多く、島嶼生態系保全にとって重要な指標となる。 熱帯性カツオドリは、継続的で大規模な攪乱を受けた後に、営巣数が1985年200巣から2014年1000巣まで、年増加率5.7%で回復した。本個体群の生活史形質は、繁殖成功率78.6%、繁殖開始齢4~6年齢、成鳥年生残率0.92であり、熱帯海域の個体群と同等であった。一方で、5年齢までの生残率が23.7%であり、他個体群よりもやや低い傾向もあった。その背景には、繁殖期や渡り期に季節的な制限を受ける本繁殖地では、親が子の独立までにかける世話期間の短さがあると推察された。これまでの標識調査では、独立後の幼鳥は第一回冬期にフィリピン南部海域で落鳥・回収されることが多かった。2014年繁殖期にGlobal Location Sensor (GLS) を装着した幼鳥が、11月に同海域で落鳥・回収された。その記録を解析したところ、独立期は2カ月未満と短く、死亡の1週間前から着水時間が増加しており、衰弱死したと判断され、同時期に死亡率が高いこととその過程の一助を得た。 温帯種のオオミズナギドリは、日本列島に沿って繁殖分布し、仲ノ神島は最南限の繁殖地である。本個体群は他と比べて大サイズが小さく、種内変異があることを明らかにした。その意義として、低緯度では温度が高く体温調節の必要性が少ないこと、餌資源量が乏しく飛翔効率を上げる必要性があることの二つを提唱した。また、2015年は3つの強大な台風により、本種の大規模な巣穴崩壊(巣穴数と巣穴長の減少)が生じた。草類を主な植生とし、土壌基盤の脆弱な仲ノ神島では、気象・海象が本種の繁殖成績に強く影響を与えることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
仲ノ神島海鳥集団繁殖地の生態系保全・管理を目的として、これまでの調査によりカツオドリの個体群動態と生活史形質、セグロアジサシの個体群動態、オオミズナギドリの繁殖規模の現状について概ね解析を終えた。これにより人為的な繁殖阻害要因を排除した後、40年を経て集団繁殖地として回復しつつあることを示すことができ、同島の保全・管理が概ね順調に継続されてきたことが示された。 また、非繁殖期における渡り経路と利用海域、および採餌・休息行動について、温帯性のオオミズナギドリ、熱帯性のクロアジサシやカツオドリのそれぞれ成鳥でGLSを用いて事例数を毎年蓄積でき、明らかにしつつある。一方で、昨年度予定していたセグロアジサシとマミジロアジサシの成鳥へのGLS装着は、台風等による繁殖失敗が生じたために断念し、海鳥類の総合的な非繁殖期の利用海域や行動の解明について、達成度を高めることができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
カツオドリとセグロアジサシでは、これまで継続してきた個体群動態のモニタリング調査を本年度も実施する。 またGLSの装着/回収/交換を継続してきた海鳥3種では、その回収に努めるとともに、蓄積データを用いて各種の重要越冬海域を明示する。また種により利用する餌や採餌行動は異なるため、環境データを含めて種間による環境利用特性の相違についても解析を試みる。着水記録からは海面浮遊休息時間を計ることができ、沿岸性のクロアジサシやカツオドリ(陸域に休息場をもつ)と、外洋性のオオミズナギドリ(休息場をもたない)の渡りや越冬海域における休息行動の特性を種間で比較する。 カツオドリでは、最も死亡率の高い幼鳥の渡去から初帰還までの移動経路と利用海域、および飛翔や海面浮遊休息行動を解析し、成鳥のそれと比較することで若鳥期の行動発達過程を明らかにすることを目的として、2013年以降幼鳥にGLSを装着してきた。2016年はそれらの生残個体の初帰還と回収が期待される。また、先行研究で回収型GPSを用いた成鳥の繁殖期における行動範囲と採餌行動、および飼育下における独立期幼鳥の行動発達を解析してきた。遠隔ダウンロードが可能なGPSが開発され、捕獲を装着時の一回に軽減できるようになった。そこで、仲ノ神島において成鳥と独立期幼鳥に装着して、記録の蓄積と検証を図るとともに、カツオドリの繁殖期における利用海域を明示する。カツオドリの産卵期は毎年2~4月にあり、幼鳥は冬季季節風により海況が悪化する11月までにほぼ渡去する。産卵期の早い時期に産むほど、幼鳥の独立期間を長くできる一方で、親鳥が育雛(採餌)にかける労力にどのような制約を受けるのかは不明である。そこで、異なる時期に親鳥へのGPS装着と採血による生理分析により、繁殖労力の時期的な相違を検証したい。
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Causes of Carryover |
動物装着型の小型機器類の多くが国外製であり、レートによる金額の変動が大きく、製品購入時には予算に猶予を持たせた。また購入したGPSは開発されて間がなく、精度検証を同時に行う必要もあったため、購入個数(4個)を少なくした。その結果次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
新規開発GPSの精度検証を行い、十分な成果が得られると判断した。そこで次年度使用額を次年度交付額と併せて、GPSおよびGLSに配算して購入したい。
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Research Products
(5 results)
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[Journal Article] Geographical variation in body size of a pelagic seabird, the streaked shearwater Calonectris leucomelas2016
Author(s)
Takashi Yamamoto, Hiroyoshi Kohno, Akira Mizutani, Ken Yoda, Sakiko Matsumoto, Ryo Kawabe, Shinichi Watanabe, Nariko Oka, Katsufumi Sato, Maki Yamamoto, Hisashi Sugawa, Kiyotaka karino, Kozue Shiomi, Toshinari Tonehara, Akinori Takahashi
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Journal Title
Journal of Biogeography
Volume: 43
Pages: 801-808
DOI
Peer Reviewed / Acknowledgement Compliant
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