2014 Fiscal Year Annual Research Report
音場再生における工学的手法と芸術的手法の合理的融合に関する研究
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25282003
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
尾本 章 九州大学, 芸術工学研究科(研究院), 教授 (00233619)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 音場再生 / 超臨場感 / 境界音場制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成25年度には,多孔質材料の背後に3台のスピーカを配置した音源ユニットを12台製作し,36チャンネル音場再生システムを構築した。また既存の80チャンネルマイクロホンアレイとの組み合わせで,境界音場制御による音場再生を行い,高精度な再生が可能であることを確認した。いずれも当初の計画通りである。またスピーカにはスタジオなどでモニタとして利用される実績が多い機種を選定したため,非常に安定した音質を確保している。各スピーカへの信号伝達はDAWを通して行うため,エフェクタや遅延などの付加的操作を独立に与えることが可能である。特にミキサータイプのコントローラを導入したため,スムーズな操作が可能なシステムとなった。 平成26年度には,録音技術者への意見聴取と共に,13名の被験者に対して,単なる音場再生の処理を行っただけの場合と,再生音にイコライザをかけた場合とで印象がどのように変化するか,予備的な実験を行った。結果によれば,明らかに印象は変化し,適切な操作によって,臨場感をさらに高めることができる可能性が明らかになった。成果は日本音響学会などで報告しており,今後体系的な実験を継続する予定である。 さらに,製作した音源システムは,吸音材料と音源との組み合わせを有するため,反射率可変の壁面音響システムとしての機能を付加することも可能である。被験者が音源システムの中で出した声や音に,任意の響きを付加して再放射する機能である。既存の機材を用いてこの試運転も行った。機材の制限から36チャンネルのスピーカを独立に動作させることはできなかったが,8種類の反射音を自由に生成するシステムとしても機能させ,臨場感を操作できる可能性も明らかになった。これは当初の計画よりも進んだ内容である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画では,平成25年度には多チャンネル音場再生システムを構築し,平成26年度にはDAWを通して音場再生を行いながら,効果的な操作パラメータ,方法を抽出する予定であった。申請者が別途取り組んでいる,聴空間共有システム開発の課題(CREST: 音楽を用いた創造・交流活動を支援する聴空間共有システムの開発(研究代表者:伊勢史郎))において用いている80チャンネルフラーレン型マイクロホンアレイと組み合わせて,境界音場制御に基づく音場再生を行う体制は整備され,一連の実験を開始することができた。以下,研究計画に列挙した項目ごとに示す。 【付加操作に必要なパラメータ抽出】 本研究の主題である音場再生における付加的な操作が,臨場感などの評価に与える影響を考察する予備的な実験までを行うことができた。被験者を用いた実験で,イコライジングなどが有効に働きうる可能性が明らかになり,今後の実験計画を立案するために重要なデータを得ることができた。 【録音技術者による付加操作の調査】 また録音技術者の意見聴取も行い,通常のミキシングなどで用いる単純な操作のみで,印象を劇的に変化させることの困難さも明らかになった。 【コンテンツの違いによる考察】 上記CRESTにおいても,コンテンツに関する調査は重要な課題として取り組んでいる。本研究で扱うシステムにおいても,適したコンテンツを主としてインタビュー形式で調査している。 【被験者による主観評価実験】13名に対する予備的な意見聴取などをスタートさせることができた。 なお,平成26年度以降の研究計画にあげている他の項目は,次年度に重点的に推進する予定である。これらを勘案して,全体としては当初の計画通り,もしくは若干前倒しで進んでいるものと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度中に,録音技術者を招いての意見聴取などを行い,幾つかの方針を検討した。今年度においては,プロ,アマチュアを問わず継続的に音場再生の比較試聴実験を繰り返し,有効なパラメータ探索をさらに進める予定である。なお,本課題においては,感覚的に有効なパラメータを誰もがわかる形で効果的に整理し,一般化することが大きな課題の一つである。きめ細かい意見聴取と操作の記録が必要である。以上は操作する側からの取り組みである。 また,再生された音場の特徴を計測し,違いを認識する手法を確立することも引き続き重要な課題である。特に昨年度構築した,24本の超指向性マイクを用いた方向-時間情報収集センサーを駆使した測定を本格化させ,音場の特徴の再現度合いや物理的特徴の変化と,臨場感の変化の関係を明確にする必要がある。 この他にも,平成26年度以降の研究計画にあげている,簡易システムの構築,付加操作のマニュアル化,さらなる演出の可能性,の推進を通して,全体をまとめる予定である。 なお,平成26年度には,上述の基礎的な考察と合わせて,システムを多チャンネル音響作品など,芸術作品を提示するデバイスとして使うアウトリーチ活動もいくつか試みた。この場合スピーカの数の多さなどから,これまでにない音場体験が得られるといったポジティブな意見が多く得られており,性能向上のための大きなヒントとなっている。具体的には,多くの音に囲まれる非日常的な感覚や,音像が滑らかに移動する感覚をうまく組み合わせることで,総合的な印象は向上することが明らかになっている。これらの知見は,音場再生に適したコンテンツの特徴を表すものとも解釈できる。物理的測定や主観評価とあわせて,コンテンツの適否に関しても継続して検討を行う。
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Causes of Carryover |
当初計画時に想定していた機材よりも,安価でかつ高性能なものが存在することが明らかになった。当初の目的を外れず,効率的なシステム構成を考慮した結果,繰り越すことが可能となったものである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
最終年度の計画として,可搬型のシステムを構築して多くのデモンストレーションを行う予定である。このため,突発的な旅費,機材運搬費が生じる可能性がある。今年度においては,このような費用に充てることを想定している。
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