2015 Fiscal Year Annual Research Report
次世代ハイパワーLED信号灯のユニバーサルデザイン化技術の考案に関する研究
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25282010
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Research Institution | Kyushu Sangyo University |
Principal Investigator |
落合 太郎 九州産業大学, 芸術学部, 教授 (00330788)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 光源技術 / ユニバーサルデザイン / 色覚異常 / 交通事故 / 管制 / 信号機 |
Outline of Annual Research Achievements |
次世代機のコンセプト開発として、様々な方式のショートリストを比較検討した結果を受けて、レンズ部分の開発に着手し、プロジェクター方式で開発の方向性が固まったため、2年度目にして国内特許の申請を行った。昨年度は実用化水準とするため赤色ハイパワーLEDの光度を高めながら、レンズ面に投影する青色光の色度をデジタル調光する実験機を制作してフィールド実験を開始した。様々なレンズとスクリーン機能を兼ね備えた材料を試し、フォーカスグループの色覚異常者に遠方より識別可能であるか?次世代ハイパワー性能を検討した。特にスクリーン部分の素材選択と記号表記箇所に吸光フィルターを試して、それらの組合せを検討した。こうした検討を踏まえ、大きな改良点は見られなかったため、JST特許出願支援を受けてPCT出願の段階へ進むことが決定した。 実用化に際しては、技術面と制度面を考慮する必要がある。次世代モデルの普及以前に制度的なコンセンサスが必要であり、並行して所属する学会や関連行政、メディアやステークホルダーへの広報を継続した。国内では関連4学会での論文発表やシンポジウムパネリスト出演・招待論文の出稿等や色覚団体との懇談を行った。仙台市で2015年6月に発生した交通事故に関連して、学術情報提供を当事者・メディア・司法官等に提供し、毎日新聞での全国版やYahoo!トップニュースでの紹介掲載となった。色覚異常を争点とする裁判は初めてで、多くの県警からも引き合いがあった。次年度には次世代製品を使用して、技術面と制度面の実証実験を検証する第三者委員会が警察庁で主催されることが計画されている。 CIE(国際照明委員会)メルボルン大会での講演でも世界的な認知度が一層向上する実績を上げることができた。今後は国際投票を経てISOとの共同出版となる予定である。これまで目標としていた世界基準への採択が現実のものとして見えてきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初企画書に想定した通りの進捗が計られていると評価される。今年度にパワーアップが図られた実験機は100mの距離からの視認実験が可能となって、レンズとスクリーン機能に特化した開発段階へと進むことができた。さらに現段階の仕様をまとめた特許申請もJSTからの支援を得て、PCT出願へと移行することができた。関連所属学会とは別に国際交通安全学会誌や人間生活工学誌に招待論文が掲載され、また分野別の科研費トップ10のなかに選定されたことなどから、一般書籍からの取材にも対応するなど、社会への普及啓蒙にも資した。 一方、LED専業メーカーからの特別なサンプル提供という配慮もあって派生的に実現した砲弾型LEDを使用した次世代モデルも究極の完成形に仕上がり、次世代モデルは幅の広がりを見せながら、関連行政からの理解を得て、試験設置を前提とした公道社会実験がいつでも実施可能となるよう準備を整えた。昨年度末での実施を目指していたが、警察庁担当者が警視庁に移動となったため、最終的には東京オリンピックモデルへの採用を目標とすることとした。警察庁主導による第三者委員会の設置から社会実験の実施、さらに警察仕様書の改定という流れになる模様である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は5か年の4年目でとりまとめにかかる準備をするため、①プロジェクター方式のスクリーン部分の仕上げ、②警察庁および警視庁に対して第2次社会実験の実施対応(新規発生)、③世界基準化を目指したCIE国際投票に向けた対応を行う。公共安全にかかわる製品となるため、実用化へ際しては技術面と制度面での整備が必須となる。順次、情報発信も継続しながら世論醸成のタイミングも見計らいつつ取り組みを推進する。 東京都ではLED化率が100%に届くようになった背景もあり、今後「ユニバーサルデザイン方式」への注目が高まると考えられる。こうした状況にも対応しつつ、2020年東京オリンピック・パラリンピックに間に合わせるスケジュールを念頭に研究推進する。 次世代の技術面ではコンセプトモデルの段階からいよいよ実用化レベルのモデル製作に推移していくため、各種素材の高品位化が要求される。フォーカスグループの色覚異常者も協力可能な体制が構築されている。同時に専門技術を保有する技術者の緩やかな知恵の交流を継続し、参加各社を拡充しながら、充分な推進体制を構築したい。製品としてのデザイン面では、研究代表者が中心となって取りまとめの作業を開始したい。 制度面の実用化では兼ねてから警察庁および福岡県警へ提案していたユニバーサルデザイン信号灯を「常設展示」する交差点の実現を期す。昨年度には福岡県警向けに正灯器と補助灯器を制作していつでも実施可能となるよう準備を整えていたが、本年度の第2次社会実験での設置として繰り越し、確実な「第一歩」の実現を図りたい。その際、警察庁および信号機関連事業者団体とも連携を取り合い、警察庁仕様の改定作業に協力していく。幹事会社とは協力関係にある。Japan Times 誌等取材など反響の広がりを見せている折、研究成果の公開や社会実験に向けた積極的な広報活動にも注力していきたい。
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Causes of Carryover |
兼ねてから警察庁および福岡県警へ提案していたユニバーサルデザイン信号灯を「常設展示」する交差点の実現を提案していたが、砲弾型の次世代モデルをもってして、いつでも実施可能となるよう正灯器と補助灯器を製造し、先の社会実験交差点に設置できる準備を整えていた。同時に福岡県警と警察庁に最新の状況をプレゼンテーションする機会を得て、実機を昼間と夜間に分けて視認実験した。これにより性能の理解は得られたものの、直ちに試験設置という動きにはならず、警察庁の意向で第三者委員会を立ち上げ、「本格的に」制度の改定を目指す方針となった。このため次年度使用として繰り越し、確実な実用化への進捗を図りたい。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
繰り越し分は主に①福岡での常設展示交差点での設置費用、②東京での第2次社会実験実施費用に充当していく。警察庁のリクエストに応えながら、信号機関連事業者団体とも連携を取り合い、必要に応じて警察庁規則の改定作業に協力していく。仙台の事故公判の反応を見る限り、一般や眼科医等の専門家からはユニバーサルデザイン信号機に対してネガティブな意見は起こらなかった。色覚異常者の運転免許保持についても極端な世論に振れなかったのは幸いであった。「差別」を恐れるあまり「安全」を犠牲にしている実情を広く世の中に知ってもらうこと、そして何よりも当事者自身が現実を直視できるようになる「新しい社会」をデザインすることが重要なのである。少しまわり道でも、確実な一歩を踏み出せるような研究成果としたい。
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