2016 Fiscal Year Annual Research Report
手作り理科実験具を基盤にした群馬県師範学校の理科教育が今日の教育に示唆するもの
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25282043
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Research Institution | Saitama Medical University |
Principal Investigator |
赤羽 明 埼玉医科大学, 医学部, 非常勤講師 (40049846)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
所澤 潤 東京未来大学, こども心理学部, 教授 (00235722)
玉置 豊美 株式会社数理設計研究所, 核物性研究室, 研究員 (50373551)
高橋 浩 群馬大学, 理工学研究科, 教授 (80236314)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 簡易物理実験 / ブームの背景 / 児童実験書 / 尋常小学校理科 / 理科必修 / 後藤牧太他 / 小学校令中改正 / 実験及器械製作 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.明治・大正期の物理実験テーマの変遷、後藤牧太他著『小学校生徒用理書』(明治18)普及社と後藤著『誰にもできる物理の実験』(明治44)長風社刊との比較研究:前者が106、後者が100実験を掲載。テーマの特徴は①両者に共通のテーマ、②後者にガスリー等の外国実験書から取り入れ工夫したもの、③後者第37,38実験「和ばさみ」(振動実験)は日本独自の道具を工夫したもの、④後者第95実験は後藤の教え子からの提供実験、なお③「和ばさみ」は同様な実験が明治39年発行『少年新聞』に寺田寅彦により執筆・掲載を確認した。 2.大正期に入り、1918(大正7)年前後に多数の児童実験書が出版され、2回目の簡易物理実験ブームが起きる。このブームの背景は、これまで1914-19(大正3-8)年の第1次大戦、大正7年の中等教育への理化学器械振興策等が要因とされているが、児童実験書の出版時期から、我々はこの背景に、それ以前、1907(明治40)年3月の第三次小学校令中改正(尋常小学校義務教育6年制と理科5,6年必修)とそれに伴う師範学校における理科実験指導等により、児童実験の奨励等が実施されたことが要因となったという結論に至った。そこで、小学校令中改正による義務教育6年制と理科必修の波及効果について、①教員資格向上のための教員講習の開催・実施、②学校施設の改善、③理科実験機器の増設等を全国及び群馬県について一部明らかにした。 3.今日の教育に示唆するもの:簡易物理実験の開発と実践は我が国が西洋的自然科学を建設時から、また法的措置により大正期・昭和初期まで継続された。例えば、東京高等師範学校教授 倉林源四郎の「実験五則」(大正15年2月)が、東京都教育委員会中学校の平成18年度実験安全指針に採用されている。明治・大正期の現代における教育遺産の一つといえる。この安全指針は、岩手県等多くの府県で引用されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
東京師範学校教諭、後藤牧太は明治初期の学校に実験による科学教育を普及させた。実験具の開発は後藤とその弟子等により行われ、弟子等は卒業後の任地校で実践し、『小学物理実験書』類が多数刊行された。後藤牧太,瀧澤菊太郎,篠田利英,柳生寧成著『小学校生徒用物理書』(明治18 年刊)はその代表的著作といえる。後藤を除く3 名が共に,刊行当時,群馬県師範学校教諭であったことから、群馬県での簡易物理実験の普及活動成果の例ともいえる。 東京師範学校(後に高等師範学校)理化学科卒業の後藤の弟子等は赴任先であった各地の師範学校において簡易物理実験の普及活動に当たり、また彼らが執筆した多くの実験書を通して、各地での第二世代の教師(各地の師範学校卒業生)が、開発・実践の継承者となった。 大正期に入り2回目の簡易物理実験ブームが起きる。とくに1918(大正7)年に多数の児童実験書が出版された。このブームの背景は未だ不明であるが、我々は1907(明治40)年3月の小学校令中改正により義務教育6年制となり、尋常小学校5,6年から理科必修が実現されたことによると考えている。これまで高等小学校のみの履修が、尋常小学校5年からの必修となった。この法的措置は、師範学校における生徒理科実験の指導が義務付けられ、さらには各小学校における児童実験の実践に繋がっていった。このような法的措置はこれまで後藤とその弟子らによって全国の師範学校及び附属小学校訓導を拠点として行われていた開発・実践研究を加速する結果となり、大正期にブームを再起したと推論している。この法的措置の波及効果の解明を目的として期間延長を申請した。具体的には①教員資格向上のための教員講習の開催・実施、②学校施設の改善、③理科実験機器の増設等を全国及び群馬県について明らかにする。
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Strategy for Future Research Activity |
1.第三次小学校令中改正による理科児童実験奨励の経緯を明らかにする。具体的には、①1907(明治40)年の小学校令中改正と同施行規則中改正による尋常小学校義務教育6年制(理科5,6年必修)の施行、②同年4月17日、師範学校規程が定められ、その第十六条で、物理及ビ化学・・・には、「・・・又小学校ニ於ケル教授ニ必要ナル実験ヲ課シ、且教授法ヲ授クベシ」と師範生徒の実験が義務付られた。③1910(明治43)年5月31日文部省訓令13号:小学校令施行規則改正中に伴う師範学校規程が中改正され、同時に教授要目の改正が行われた。理科教授要目の「本要目実施上ノ注意」第3に教授用具ハ教授上差支ナキ限リ、成ルベク日用品ヲ利用シ、又ハ教員自ラ製作ヲシテ之ニ充テンコトヲ力ムベシ・・・とあり、「日用品利用」、「教員の製作」が明記されている。④1918(大正7)年2月5日、「師範学校物理及化学生徒実験要目中」が改正された。そこには「・本科第一部に於テハ以上ノ外、更ニ小学校理科教授上必要ナル実験及器械製作ヲ課スベシ・・」と実験及器械製作が明示されている。こうした一連の児童実験奨励について明らかにする。 2.小学校令中改正による様々な波及効果と教育現場での対応を全国及び群馬県について明らかにする。具体的には、①新しい実験書中の記述として、1908(明治41)年刊行の棚橋源太郎著『尋常小学理科教授書上下』(金港堂, 1908)のように、第三次小学校令中改正に対応した新実験書等の調査を実施する。また附属小学校の研究、例えば、『全国附属小学校の新研究』金港堂編輯所 編 (金港堂, 1910)等の内容調査を実施する予定である。 3.波及効果として、①教員資格向上のための教員講習等、②学校施設の改善等、③理科の教材・実験機器補充等について、全国及び群馬県について明らかにする。
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Causes of Carryover |
簡易物理実験による第2回目のブームが大正初期に再起した理由・背景等は未解明であるが、我々は2016年11月にその要因を見出した。即ち1907(明治40)年の第三次小学校令中改正は尋常小学校義務教育6年制となり、5、6年での理科必修が実施された。同時にそれに伴う師範学校教授要目に「小学理科教授法」等の指導が義務付けられた。これらの背景となった要因を解明すべく期間延長申請を行い、承認された。 次年度未使用額が生じた理由は次の通り。1)旅費では,ICPE2016に参加予定していたが、開催日程(7月初旬)が調整できず不参加となったため。2)物品費では、予定していた明治・大正期の実験書等資料(古書)が見つからず未購入となったため。また『小学校生徒用物理書』英訳分(校閲中)の印刷が実行されなかった等、が主な理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
未使用額については、次年度期間延長申請をした課題を遂行するため、以下の使用を予定している。1)旅費について、平成29年度開催予定の日本科学史学会(香川大学)、日本物理学会秋の研究会(岩手大学)及び日本科学史学会西日本研究大会(大手門学院大学)等の出張旅費等。2)物品費について、尋常小学校理科必修関連の教育史資料及び大正期の児童実験関係書等資料等の購入等。3)その他の経費について、本科研費研究の研究成果の印刷費(①研究成果冊子版、②『小学校生徒用物理書』英訳分の冊子版等)等。
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Research Products
(12 results)