2014 Fiscal Year Annual Research Report
東アジア産樹木年輪による過去千年間の大気中炭素14濃度の復原
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25282075
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Research Institution | National Museum of Japanese History |
Principal Investigator |
坂本 稔 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 教授 (60270401)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中塚 武 総合地球環境学研究所, 大学共同利用機関等の部局等, 教授 (60242880)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 炭素14年代法 / 酸素同位体 / 樹木年輪 / 較正曲線 / 東アジア / セルロース |
Outline of Annual Research Achievements |
樹木年輪から効率よくセルロースを得る方法として,板状抽出法が実用的な段階に達した。切断には窒化ケイ素の刃を用い,純水ならびに有機溶媒で超音波洗浄をしたのちに塩素漂白を行う。処理の済んだセルロースは透明な写真袋に入れてスキャナ画像を撮り,年輪層に切り分ける。ただし袋内では試料が安定せず,袋の片面を剥いだ上で切断することになる。顕微鏡で観察しながら作業することで埃の混入は回避できているが,もう一段の改善が必要である。 円教寺および白壁兵舎部材の測定から,それぞれAD1400~1500,AD1650~1750に相当する日本産樹木年輪の炭素14年代が得られた。前者は較正曲線が下降する時期に相当しIntCalとSHCalの差異を示すことが難しいが,ほぼ沿ったものとなっている。一方後者は較正曲線が不安定な時期に相当するが,測定値は大きく乱れ,IntCalの上方のみならず下方に位置するものも見られた。上方へのずれは炭素14濃度の低い南半球大気の影響を示唆するものであるが,下方へは炭素14濃度の高い大気の供給を仮定しなければならない。 前年度測定を試みた,16世紀から現代までの年輪を有する伊勢神宮倒木の再測定を,代表者・分担者が実施する別の研究プロジェクト(総合地球環境学研究所:高分解能古気候学と歴史・考古学の連携による気候変動に強い社会システムの探索)により実施した。5年輪を1単位とした測定結果の挙動は白壁兵舎部材の変動と合致した。すなわち,近世の日本産樹木年輪の示す炭素14年代の変動は当時の大気中炭素14濃度を反映したもので,統計的な処理を施された較正曲線はむしろ実際の変動を反映していない可能性がある。なお前年度測定した16世紀台の伊勢神宮倒木の単年輪測定は,今年度の測定結果にほぼ沿ったものとなり,汚染の影響を受けていないことも判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
東アジア産樹木年輪については,各機関に依頼をするものの良好な試料は得られないでいる。最終年度は日本産樹木による過去千年間の較正曲線作成に注力することから,東アジア産樹木が入手できた場合もその悉皆測定は困難と思われ,日本の古民家建築部材試料と同様に,対照試料として離散的な測定にとどまると予想される。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は長野県池口寺の部材測定を予定し,これにより過去千年間の日本産樹木年輪の炭素14年代測定を完遂する。大気中炭素14濃度を復原するため,日本各地の古建築部材,ならびに可能であれば東アジア産樹木の炭素14年代測定結果と対照し,その地域的な広がりを検討する。
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Causes of Carryover |
平成25年度の繰り越し金と合わせ,平成26年度はほぼ予定通りの測定を実施できたが,単価に対して若干の差額を残すこととなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
測定費の一部として使用する。
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