2017 Fiscal Year Annual Research Report
中国漢代の木槨・木棺材を用いた年輪年代学の確立と用材選択の意義
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25282077
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Research Institution | Nara National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
光谷 拓実 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 埋蔵文化財センター, 客員研究員 (90099961)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊東 隆夫 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 埋蔵文化財センター, 客員研究員 (70027168)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 年代測定法 / 年輪年代学 / 漢代 / 木棺 / コウヨウザン / 樹種同定 / 木槨 / Phoebe属 |
Outline of Annual Research Achievements |
〔年輪年代学〕 本年度は新たな漢代木棺材の出土情報がなく、年輪データの収集はできなかった。そこでこれまで計測収集してきた年輪データの見直しと、コウヨウザンの年輪特性である不連続年輪を含む供試材の再計測などの検討作業を実施した。昨年度までに中国漢代の木棺材(コウヨウザン)から計測、収集した年輪データを用いて564年間分の年輪パターンを作成した以外に、本年度はこの年輪パターンとは異なるフローティングクロノロジーとして241年間分の年輪パターンを作成した。供試材のなかの1点を加速器質量分析法(AMS法)を用いたウイグルマッチングによる放射性炭素年代測定をおこなった結果、その暦年代は1σの暦年代範囲(確率68.2%)で1278~1311calADとなった。この年輪パターンは紀元後11C中頃~14C初め頃の年代を示す。本研究によって漢代をカバーするものとして(A):紀元前6C~A紀元後1C頃の年輪パターンと(B):紀元後11C~14C頃の中世(宋~元)をカバーする2種類の基準となるクロノロジーを作成した。 〔漢代木槨・木棺用材の樹種同定〕 今年度は該当する漢代の遺跡の発掘により新たな追加試料の提供が得られていないので、これまでに得られた結果について再精査し、総合的にとりまとめた。その結果、漢代の木棺には広葉樹のPhoebe属の樹種と針葉樹のコウヨウザンの2樹種がほぼ大差なく利用されていたが、木槨にはPhoebe属の樹種が優先して使用されていたことが判明した。木槨は一種の建築物であり構築に強度を要することを考えればPhoebe属が耐強度性能の高い樹種であることと符合する結果であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
〔年輪年代学〕 本研究期間のあいだで漢代木槨・木棺材の提供をうけてきた主な機関は儀征博物館や揚州文物考古研究所の2ケ所からであった。昨年度までに564年間分のフローティングクロノロジー(暦年未確定の標準パターン)の作成をおこない、この年輪パターンを構成する供試材の1点についてAMS法による炭素年代測定をおこなった結果、564年間分の年輪パターンは紀元前6C中頃から紀元後1Cはじめ頃の年代範囲をカバーしていることがわかった。これは今後、中国において漢代の木槨や木棺材の年代測定を実施していくための基準パターンとなり得るものである。 一方、上記の供試材とは異なる木棺材などによって、241年間分のフローティングクロノロジーを作成した。供試材のなかの1点をAMS法による放射性炭素年代測定をおこなった結果、紀元後11Cから14C初め頃の年輪パターンであることがわかった。これは中国の宋代~元代の年代をカバーしており、中世期の遺跡出土木材の年代測定に際し、基準パターンの1種として活用されていくものと思われる。 なお、7割近い不連続年輪を含む供試材については、さらに再計測や年輪パターン照合の再検討をおこなうための試行分析が必要である。 〔漢代木槨・木棺用材の樹種同定〕 これまで提供のあった試料の多くは年輪年代用であり、木槨・木棺用材の利用傾向を見るには試料に若干のかたよりがあったが、他の研究機関から提供のあった試料は用材の利用傾向をみていくうえで好ましい試料であり、これらを中心に研究結果として取りまとめを進めてきた。その結果、漢代の木棺には広葉樹のPhoebe属の樹種と針葉樹のコウヨウザンの2樹種がほぼ大差なく利用されていたが、木槨にはPhoebe属の樹種が優先して使用されていたことが判明した。
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Strategy for Future Research Activity |
〔年輪年代学〕 本研究の大きな目標としては漢代木槨・木棺材の年代測定のための標準となる年輪パターンの作成にあった。その成果として紀元前6C中頃から紀元後1C初め頃までをカバーする564年間分の作成にいたった。この年輪パターンは全供試材のうちの約3割の年輪データを使ってできたものである。あとの7割の供試材はコウヨウザン特有の不連続年輪があるため、十分な年輪解析ができていない。このなかには、木材の伐採年代を明らかにするうえで重要な辺材を含んでいるものがあるため、これについては再度、詳細な検討を加えて、最終的な調査結果をとりまとめることとする。 〔漢代木槨・木棺用材の樹種同定〕 本研究では中国の江南地方にあたる江蘇省内の限られた地域の遺跡から発掘した漢代の木槨・木棺材を樹種同定の対象として用いたが、機会があれば他の地域から出土した木槨・木棺用材を調べ、漢代の埋葬様式であるHuangchang Ticouと用材との関係を明らかにしたい。
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Causes of Carryover |
(理由) 2013年度~2018年度にかけて進めてきた本研究課題の対象樹種のコウヨウザンには不連続年輪が介在し、年輪解析を非常に難しくしている。そのため、同一試料における再計測や年輪データ間の照合などの検証作業に予想以上の時間を要してしまったことによる。 (使用計画) 繰越金は調査結果を取りまとめるにあたっての諸経費として物品費や通信費などにあてる。
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