2014 Fiscal Year Annual Research Report
エラー体験プログラムを用いたリスクマネジメント教育の介入効果
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25282102
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
臼井 伸之介 大阪大学, 人間科学研究科, 教授 (00193871)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
安達 悠子 大阪大学, 人間科学研究科, 助教 (40629945)
太子 のぞみ 神戸大学, 海事科学研究科(研究院), 研究員 (70632462)
中井 宏 大阪大学, 人間科学研究科, 助教 (90583526)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 社会系心理学 / 交通事故 / ヒューマンエラー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の第一の目的は、すでにプロトタイプ版を作成しているエラー体験プログラムソフトに「急ぎ・焦り」体験メニューを追加し、さらに使用マニュアルを作成することにより、各産業現場で「使える」体験プログラムソフトを確立することである。また第二の目的として、エラー体験ソフトを用いた新たな安全教育を消防士、バス運転士、病院看護師など、主に現場従事者を対象に組織的に実施し、エラー体験が教育受講者の安全意識向上や事故、違反等の不安全行動抑止に繋がるのかを実証的に確認することである。 研究の1年目では、これまで作成したエラー体験ソフトに「急ぎ・焦り」体験メニューを追加するため、急ぎ・焦りの感情を惹起させるような視覚・聴覚警告刺激および急ぎ・焦りからパフォーマンスの低下が顕著になるような認知的課題を選定し、実験プログラムを作成した。そして、急ぎ・焦り課題の妥当性を検討する実験を一部実施した。実験条件は、タイムプレッシャーや警告刺激による「急ぎ・焦り事態惹起要因の有無」と「課題の難易度(3水準)」の二要因とした。従属変数は課題の遂行パフォーマンス(所要時間、エラー率)の他、参加者の生理機能(心拍、呼吸)および主観的評定(気分感情状態測定質問紙POMS、特性不安検査STAI)であった。 研究の2年目では、引き続き急ぎ・焦り課題の実験を実施し、その妥当性を検討した。実験の結果、参加者は急ぎ・焦り感情が増すにつれて、深く考えず、とりあえずの試行錯誤的行動を取る傾向が強いことが明らかとなり、また生理指標データ、主観的評定結果等も合わせると、当課題は体験者の急ぎ・焦り感情を惹起させる課題として妥当であることが概ね確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度研究の目的の一つとしては、平成25年度研究で作成された「急ぎ・焦り」体験メニューが、体験者に急ぎ・焦り感情を惹起するかを実験的に確認することであった。実験参加者は22歳~32歳(平均27.9歳)の健常男子30名であった。実験では、急ぎ・焦り要因として、「高覚醒条件:パトランプによる視覚刺激、警報音による聴覚刺激に加えて、タイムプレッシャーを制限時間提示により課す」、「タイムプレッシャー条件:制限時間を提示する」「統制条件:何も課さない」の3水準を設定し、また課題の困難度要因として、課題をクリアするまでの最短のクリック数から「低条件・中条件・高条件」の3水準を設定した。従属変数は課題の遂行パフォーマンス(所要時間、エラー率)の他、参加者の生理機能および主観的評定であった。 実験の結果、所要時間は課題難易度の影響のみを受け、難易度の上昇とともに長くなること、課題クリアのためのクリック回数は難易度および覚醒水準(急ぎ・焦りの程度)の影響を受け、双方の上昇に伴って多くなること、クリック間隔時間は覚醒水準の影響のみを受け、覚醒水準の上昇とともに短くなることなどがわかった。以上の結果から参加者は急ぎ・焦り感情が増すにつれて、深く考えず、とりあえずの試行錯誤的行動を取る傾向が強いことが明らかとなり、またその他生理指標、主観的評定結果等も合わせると、当課題は体験者の急ぎ・焦り感情を惹起させる課題として妥当であることが確認された。 また体験ソフトの課題終了後に提示する類似要因から発生した事故事例として、「自動車運転」「看護業務」「日常作業」から適切と考えられる事故事例を選定した。この結果、体験者は現在の建設作業コースと合わせて4つのコースを選択可能とした。 以上の結果から、平成26年度研究はおおむね順調に進展していると評価された。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度までに得られた結果をもとにして、エラー体験ソフトのさらなる改修とマニュアルの見直し等を行い、エラー体験プログラム改訂版として完成させる。そして、作成したエラー体験プログラムの教育的介入効果を検討するため、体験ソフトを用いたリスクマネジメント教育を試行的に実施する。 調査では教育を実施する群(実験群)と実施しない群(統制群)を設定し、臼井他(2009)で使用した主観的評定質問紙を教育前後に実施する(教育前調査は研修の約1週間前に実施する)。教育は集団で実施し、現在の「注意の偏り」メニュー、「違反体験」メニュー、「急ぎ・焦り」メニューを体験するグループに分かれて実施する。体験後はマニュアルに沿って小集団に分かれ、各集団で体験したメニューと類似の要因から発生したと考えられる事故・ヒヤリハット体験を集団討議し、その防止策をまとめるというステップを踏ませる。また研修後には、体験プログラムソフトや、研修内容などについてのインタビュー調査やアンケート調査を実施する。教育の効果については、教育前後で実施した質問紙から検討し、さらに研修の約6ヶ月後に、教育前後に実施した主観的評定質問紙を再度対象者に回答を求め、教育効果の持続性を検討する。 研修はこれまで共同研究実績のあるバス会社運転士、消防局所属現役消防士などを予定している。教育の実施は臼井、森泉、太子の3名が担当する。
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Causes of Carryover |
急ぎ・焦り課題の妥当性検証実験に多くの時間を要し、完成したプログラムをソフトに実装するまでに至らなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
ソフトウェア実装に係る費用:急ぎ・焦り課題プログラムの他、事故事例等の解説部分を異にする「自動車運転」「看護業務」「日常生活」の3つの選択コース、およびナレーションをソフトウェアに実装するため、委託実績のある専門業者に依頼する。 教育の実施に係る費用:リスクマネジメント教育の実施に当たっては、調査実施補助者およびデータ集計・分析のための費用(含む謝金)を要する。
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Research Products
(16 results)