2013 Fiscal Year Annual Research Report
ナノ周期構造を利用した間葉系幹細胞自己生成組織の線維強化と軟組織修復の高度化
Project/Area Number |
25282134
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
藤江 裕道 首都大学東京, システムデザイン学部, 教授 (20199300)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中村 憲正 大阪大学, 学内共同利用施設等, 教授 (50273719)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | バイオメカニクス / 間葉系幹細胞 / 生体軟組織修復 / ナノ加工 |
Research Abstract |
フェムト秒レーザー装置を用いて,これまでの検討結果を参考に条件をふり,ナノ溝周期構造をチタン表面上に加工した.ヒト滑膜由来細胞を培養システムで継代培養して間葉系幹細胞の密度を高め,生成したナノ周期構造上で初期細胞密度6x10^5 cells/cm^2程度で培養した.培養28日後にアスコルビン酸を投与して線維形成を促し,scSATを生成した.原子間力顕微鏡やレーザー顕微鏡等で形態観察を行うとともに,細胞が生成したscSATのコラーゲン量を定量した.その結果,レーザの走査速度を1200 mm/minに高めるとチタン基盤の粗さが適度の抑えられ,その上で培養した細胞の異方性が増し,その細胞が生成するscSAT内のコラーゲン量が増えることが分かった.さらに,生成されたscSATの引張強度は溝なしのチタン上で生成したscSATに比べ,有意に高いことが分かった.研究が研究計画以上に進んだため,当初予定にはなかったタイプIコラーゲンシート上でのscSAT生成も試みた.培養28日後にはコラーゲンシート表面に厚さ50 micro-m程度の薄い細胞層が形成され,破断荷重が有意に増大した.今後はこれら二種類のscSATの培養中に繰り返し引っ張り荷重をあたえ,特性の変化を調べる.また,これらの材料を靱帯や軟骨の損傷部に埋入する動物実験を行い,修復に及ぼす影響について検討を加える. 固液ニ相性の力学解析についても検討を行い, scSATのようにコラーゲン線維で強化された多孔質弾性体の力学挙動を解析する手法を開発した.今後は,培養条件により,scSAT内のコラーゲン線維の弾性率や,プロテオグリカンの弾性率および透水性がどのように変化するかについて検討する.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究の準備状況が良かったため,研究が開始される年度当初以前より実質的な研究を開始することができた.そのため,本研究の中心的作業項目であるナノ構造の生成に関して,複数の構造を作成し,それらの形成具合の確認や,その上で生成させたscSATの特性について,十分な力学的評価を行うことができた.その結果,強度を向上させるための加工条件を明らかにすることができた.さらに,当初予定していた間葉系幹細胞のナノ加工表面上での培養のみならず,コラーゲンシート上での培養も実施することができた.この新たな培養と試料生成は,従来のscSATの欠点であるコラーゲン線維の欠乏を補うために考案したものであり,コラーゲンシート上でscSATを培養し,一体化させることにより,線維強化されたscSATを生成することを可能にした.この線維強化scSATについても力学特性の計測を進め,従来のscSATに比較して高強度であるという結果を得ている. scSATの力学解析に関しても順調に進めることができた.従来より,軟骨の粘弾性を表現できる線維強化多孔質弾性体モデルの開発を行ってきた実績があり,その際に開発したモデルをベースに新たなモデルを比較的簡便に開発することができたためである.実験だけでは得られない,scSATの微細構造が力学特性に及ぼす影響について検討を加えることができるようになったため,scSAT生成過程に関する理解が深まり,実験でしぼるべきポイントが明確になり,研究全体がよりスムーズに実施されるようになった. 年度途中で東京オリンピックに開催が決まり,本研究を担当する学生たちの研究熱や期待度も向上した.それにより,研究熱が高まり,実験が順調に進められたことも一因である.
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Strategy for Future Research Activity |
今後も早いペースで研究を進め,多くの研究成果を出そうと計画している.当初研究計画にそって研究を実施し,さらに,前年度のように時間的余裕を生みだして,当初実験計画に関係する付帯事項についても検討を加える予定である. ただし,動物実験に関しては研究代表者の所属研究機関では行うことができないという問題がある.この点については,共同研究先の大阪大学医学部整形外科教室と密に連携をとり,あるいは,実質的に研究参加をしている札幌医科大学整形外科教室や日本獣医生命科学大学獣医外科教室との連携を深め,円滑に動物実験が進められるよう実験環境を整えていく予定である.特に,ナノ構造上で生成させたscSATの動物実験による軟骨修復を主たるテーマに据え,上記の研究機関の協力を得て実施していく.scSAT/コラーゲンシート複合体の動物実験も同様の研究機関の協力のもと,実施していく. scSATにより修復した軟組織の力学的特性評価に関しては,既存の試験システムに改良を加え,多くの試験項目を網羅できるシステムの構築を行う.多くの研究実績をベースにして,特に,軟骨の摩擦・潤滑特性評価を実施できる優れたシステムの開発に注力する.また,過去の研究実績より判明した軟骨表層の水和層に着目して,修復軟骨における水和層の存在の確認と,正常軟骨との違いについて検討を行っていく. 今年度後半より研究成果発表にも時間を取り,効率のいい成果報告を行っていく.特に,バイオメカニクス,幹細胞メカニクス,組織修復・再生関係の学会等に演題申し込み,発表等を行っていく.さらに,これらの領域の査読付き論文にも投稿していく.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は培養実験が順調に進み,実験の失敗が少なかったため,当初計上していた培養経費が小額で済んだ.また,解析に関する検討でも,解析ソフトのライセンス契約が当初予想よりも安価であった.そこで,年度末の学会発表等のための旅費と実験補助等に予算を回すべく,内訳変更を行ったが,それほど多くは使用しなかった.翻って,平成26年度には研究経費のかかる動物実験が予定されている.そこで,平成25年度の研究経費の一部を平成26年度に回すこととした. 上記に示したとおり,scSATに関する動物実験に変更した予算を使用する計画である.
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