2014 Fiscal Year Annual Research Report
人工赤血球の酸素運搬機能時間を体内電子供与系の活用により飛躍的に延長させる
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25282136
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Research Institution | Nara Medical University |
Principal Investigator |
酒井 宏水 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (70318830)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 人工血液 / 再生医学 / 生体機能利用 / 生体材料 / リポソーム / ヘモグロビン / 電子移動 / レドックス |
Outline of Annual Research Achievements |
人工赤血球「ヘモグロビン(Hb)小胞体」は、高純度Hbを濃度高く脂質膜で包んだ人工酸素運搬体(輸血代替)である。静脈内投与後、HbO2は次第に酸化してmetHbとなり、酸素運搬機能が漸減するが、Phenothiazine系色素(メチレンブルー: MB)の投与によって、Hb小胞体中のmetHbが速やかに還元されることが明らかになった。細胞内の解糖系で産生されるNADH, NADPHなど、還元型ニコチン酸アミドの電子エネルギーは、細胞膜を介した電子伝達経路によって細胞外にも供与されることが知られており、Hb小胞体のmetHb還元にこの電子供与系が関与していると考えた。本研究では、生体細胞の電子伝達・供与機能を活用し、metHbを還元して人工赤血球の血中機能寿命を飛躍的に延長させ人工赤血球の適用範囲を拡大させること、またその作用経路の分子科学的解明を目的としている。これまでの検討の結果、脂質透過性の電子メディエータとしてMBを血管内投与することにより、赤血球解糖系が産生する電子エネルギーをもとに人工赤血球のmetHbを還元できることが確認された。この機序を詳細に検討した結果、赤血球内のNAD(P)Hが電子供与体であり、参加型NAD(P)+は解糖系により繰り返し充電され還元型になることがわかった。人工赤血球にはmetHb還元酵素系は無いが、赤血球内の解糖酵素系を活用する、言わば間接的酵素的metHb還元系が構築できたといえる。これによって、血中における機能寿命が大幅に延長できた(Sakai et al., Bioconjugate Chem 2014)。この結果を受け、電子メディエータとしてメチレンブルー以外に14種類の分子 (Phenothiazines, Phenazine, Phenoxazines, Indamine, Indols) についてin vitroの条件で検討したところ、メチレンブルーと比較して同等、あるいはより優れるも幾つかの新しい候補物質を見出すことができた (Kettisen et al., Bioconjugate Chem 2015)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
赤血球解糖系の産生する電子エネルギーを活用し、人工赤血球内のメトヘモグロビンを還元する、間接的酵素的還元系の構築ができた。またその詳細な機序を明らかにした。さらに、電子伝達系としてメチレンブルーのみならず、様々な候補物質があり、電子伝達系物質の最適化の可能性が出てきた。これらの結果は、既にBiocojuugate Chemistry誌に二回掲載された。
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Strategy for Future Research Activity |
H27年度(最終年度)には、これらの物質を用いて、動物投与試験を行い、有効性と安全性を評価することを目的とする。具体的には、メチレンブルーの実験系と同等のモデル系を用い、Isoflurene吸入麻酔としたラットの出血性ショックモデルを作成し、人工赤血球を静脈内投与して蘇生し、その後metHbが40-50%程度に漸増したところで色素溶液を静脈内投与し、metHbレベルの低下の度合い、またラットの血行動態や血液生化学的パラメータを計測する。これらの結果を総合的に評価しメチレンブルーと比較する。さらに、繰り返し数回の電子伝達系の投与を行い、人工赤血球の機能時間がどこまで延長されるかを明らかにすることを目的とする。
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Causes of Carryover |
赤血球解糖系が産生する電子エネルギーの伝達物質としてメチレンブルーを初年度に検討した。第2年次には、メチレンブルーに代わる電子伝達系物質として、様々な候補物質(合計15種類)がわかってきた。これらについてスクリーニングをするにあたって、動物投与試験をせずに in vitroで評価するとともに、各物質の化学的特徴(脂質膜への取り込み、NAD(P)Hとの反応性、酸素による再酸化速度など)を調べることに集中し、新たに論文を印刷することになった。しかし、in vivo試験までは十分に到達できなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
奈良医大の動物実験施設は、他の実験施設とは隔離された状況にある。動物(ラット)に人工赤血球、電子伝達系物質を投与してmetHb含量を追跡するため、動物実験施設に紫外可視分光光度計(積分球付き)を新たに購入する。人工赤血球調製に要する消耗品の購入、また動物実験に使用するラット、麻酔薬、各種消耗品の購入に使用する。さらに、最終年度として、国内外の国際会議における発表のための出張旅費、登録料、論文投稿に要する費用などの支払いに使用する。
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Research Products
(6 results)