2014 Fiscal Year Annual Research Report
ガン細胞が取り込んだ非放射性薬剤から電子線を放出させ患部のみを照射する技術の開発
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25282152
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
小栗 慶之 東京工業大学, 原子炉工学研究所, 教授 (90160829)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
近藤 康太郎 東京工業大学, 原子炉工学研究所, 助教 (80582593)
長谷川 純 東京工業大学, 総合理工学研究科(研究院), 准教授 (90302984)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 深部ガン治療 / 陽子線励起準単色X線 / 注射針 / 金ナノ粒子 / K吸収端 / オージェ電子 / 静電加速器 / イメージングプレート |
Outline of Annual Research Achievements |
内径0.9 mmのステンレス製注射針の先端に小型のモリブデン(Mo)標的を差し込んでエポキシ樹脂で真空封止を行った.X線を効率良く取り出すため,標的の陽子線に照射される面を45度にカットした.またX線透過率を向上させるため,ドリルで注射針の内径を拡げ,針の壁の厚さを80ミクロンまで減少させた.内部を真空排気した後,東工大タンデム加速器からの2.5 MeV陽子線を照射してMoのKX線(17.4 keV)を発生した.これを大気側に取り出し,粒径数百ミクロンの酸化イットリウム(吸収端エネルギー = 17.0 keV)粒子,及び厚さ0.1ミクロンの金(吸収端エネルギー = 14.4 keV)箔小片を置いたイメージングプレート(IP)に15分間照射した.IP上の線量分布を調べたところ,まず酸化イットリウム粒子の周囲では線量の増大は観測できなかった.この原因は,粒子が大きいため内部で発生した二次電子が粒子の外に到達できないためであることが分った.一方,金箔を用いた実験では,金箔の透過により一次X線の強度は約20%減衰するにもかかわらず,逆に金箔の裏側の方が線量が大幅に高くなることが分った.よって,ガン細胞が取り込んだ金ナノ粒子の周りでも同様な線量の増大が期待できるとの結論を得た.並行してガン細胞を含む患部を模擬した液体シンチレータに同様にMoのKX線を照射し,電子増倍型超高感度カメラを用いて増感材によるX線の選択的吸収で発生したオージェ電子によるシンチレータの発光イメージを撮影するための装置設計・製作,組み立て・試験,及び予備的なイメージング実験を行った.しかし,発光強度の不足と迷光によるバックグラウンドのため,発光は確認できなかった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ガン細胞が取り込んだ金増感材によるX線の選択的吸収により発生したオージェ電子によるシンチレータの発光イメージを超高感度・低雑音CCDカメラを用いて撮影するための装置設計・製作,組み立て・試験,及び予備的なイメージング実験については,予定通り実施できた.また,これらの画像取得装置系を加速器施設の放射線管理区域に設置し,制御室からの遠隔操作にも成功した.しかし,一次陽子線の強度不足のため単色X線の収量が少なく,またカメラへの接続部からの迷光により,X線によるシンチレータの発光が確認できず,結果として超高感度カメラの作動条件や光学系等の調整,微弱光下での長時間露光試験,及び画像分解能・感度・ノイズ等の評価には至らなかった.一方,線量分布のモンテカルロシミュレーション計算については,イメージングプレート及び半導体X線検出器による測定結果と良く一致する結果が得られた.これに基づき,注射針や標的の形状寸法を変化させて一様な線量分布を得るための設計の最適化を行うことができた.一方,針の近傍にオージェ電子を効率良く発生させるためのイットリウム微粒子を置き,イメージングプレートによりその周囲の線量分布を詳しく調べたが,線量率の有意な増加は確認できなかった.代わりに厚さ0.1ミクロンの極薄金箔を用いて実験を行ったところ,金箔の周囲で線量の増加が明瞭に観測された.これにより,予めガン細胞に選択的に取り込ませた金ナノ粒子の近傍で,オージェ電子により局所的に線量が増大する可能性があることを確認できた.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,まず液体シンチレータの発光を確認するために必要なX線収量の増大,及び測定の妨げとなっている迷光の除去を最優先で進める.準単色X線を発生させる一次陽子線の強度を向上させるため,陽子線源としての水素負イオン源の運転条件の最適化,加速器の加速電圧の安定化,ビーム輸送光学系の再調整,ビーム集束用四重極電磁石のアライメント等,初年度に実施した作業における問題点を抽出し,抜本的な再調整を試みる.これにより,モリブデン標的上での陽子ビーム電流を数倍に増加させる.並行して,液体シンチレータ容器と高感度カメラとの接続部の設計を見直し,加速器のビームラインからカメラのレンズまでを一体構造とすることにより迷光を徹底的に排除する.更に高感度カメラの固定台を強化して剛性を向上させ,撮影時の振動を抑える.これにより数時間にわたる長時間露出を可能とし,二次電子による液体シンチレータの微弱な発光を確認することを目指す.これらの作業の完了後,ガン細胞を含む患部を模擬した液体シンチレータ中に極薄金箔やイットリウムを含浸させた微小球状イオン交換樹脂等の増感材を置き,陽子線励起準単色X線を照射して高感度カメラによる撮影実験を再開する.得られたシンチレータの発光像を解析し,増感材によるX線の選択的吸収に伴って発生したオージェ電子によるシンチレータ中の線量の空間分布を抽出する.これらの実験と並行して,陽子線照射によるX線の発生から増感材原子へのエネルギー付与,さらにオージェ電子を含む二次電子の発生,及びそれらによるシンチレータへのエネルギー付与までを統一的にモンテカルロシミュレーションにより計算し,実験結果との比較検討を行う.以上により,ガン細胞のみに選択的にエネルギーを付与することで副作用を抑えつつ浸潤性ガンの治療を行う新しい技術としての実現可能性を評価する.
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Causes of Carryover |
増感材微粒子による陽子線励起単色X線の選択的吸収で発生したオージェ電子によるシンチレータの発光イメージを撮影するための装置設計・製作,組み立て・試験は予定通り実施できたが,一次陽子線の強度不足のため単色X線の収量が少なく,またカメラへの接続部からの迷光により,X線によるシンチレータの発光が確認できなかった.その結果,超高感度カメラの作動条件や光学系等の調整,微弱光下での長時間露光試験,及び画像分解能・感度・ノイズ等の評価に進めなかった.これらにより,微粒子あるいはその模擬物質の周囲を詳細に撮影するための光学系を購入するに至らず,また静電加速器の運転に必要な消耗品への支出も減少した.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度に実施できなかった上記実験の継続に必要な液体シンチレータの追加分,長時間露光に必要な高感度カメラの固定台,電動光学顕微鏡の設置に必要なアタッチメント,遠隔操作用電動ステージ,静電加速器のビームラインとの接続に用いる真空排気用変換短管,金ナノ粒子模擬物質の製作にかかわる試薬類,さらに静電加速器の継続的な運転とビーム強度向上に必要な高電圧発生用電気部品等,主に消耗品の購入に使用する計画である.
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Research Products
(4 results)