2017 Fiscal Year Annual Research Report
ガン細胞が取り込んだ非放射性薬剤から電子線を放出させ患部のみを照射する技術の開発
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25282152
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
小栗 慶之 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (90160829)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
長谷川 純 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 准教授 (90302984)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 陽子線 / 静電加速器 / 特性X線 / X線吸収端 / 二次電子 / 液体シンチレーター / 電子増倍型CCDカメラ / イメージングプレート |
Outline of Annual Research Achievements |
まず,陽子線励起単色X線照射による液体シンチレーターの発光強度を増大させるため,注射針型X線源に入射する一次陽子線の集束を改善し,さらにそのビーム強度を増大させるための作業を行った.このために,陽子線源であるタンデム静電加速器の水素負イオン源の出力増強とビーム輸送・集束系の運転条件の最適化を行った.また,より加速器本体に近く,効率的に注射針先端までビームを輸送できる新しいビームラインを建設し,そこに実験装置系一式を移動した.特にこの新ビームラインへの移動により,標的上の一次陽子線ビーム強度及び単色X線の強度を以前の数倍に増強することができた.これにより注射針周囲の液体シンチレーターの発光像を撮影し,線量の空間分布を評価することに成功した.この結果はモンテカルロシミュレーションコードGeant4による計算結果と良く一致した. 次に,この注射針型単色X線源の近傍に置いた極細金線から発生する低エネルギー二次電子による液体シンチレーターの発光を観測し,二次電子による線量分布を評価するため,一次X線強度の更なる増強を試みた.静電加速器の出口からビーム輸送・集束系を経て注射針先端の金属標的に至る陽子線のビーム光学的計算を行い,それに基づいて加速器系の運転条件の最適化を行った.この条件下で実際に注射針先端の金属標的を照射し,注射針近傍に置いた極細金線の周囲の液体シンチレーターの発光を電子増倍型超高感度CCDカメラで撮影した.しかし,画像のSN比が低く,期待した金線からの二次電子によるシンチレーターの発光を確認することはできなかった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
一次陽子線のビーム電流を増強するため,注射針型単色X線源と液体シンチレーター,電子増倍型超高感度CCDカメラを含む実験装置系一式を新しいビームラインに移動させたが,真空排気系の改造や信号ケーブル敷設,ビームラインの精密軸合わせ作業等に時間を要し,年度内にはX線発生・測定実験そのものに十分な時間を割けなかった.一方,このビームラインの改造により金属標的上の一次陽子線のビーム電流と単色X線の強度を数倍に増強できたが,当初目的としていた金属ナノ粒子の模擬物質として用いた極細金線の周りの二次電子による液体シンチレーターの発光については,依然としてSN比が低く確認に至らなかった.入手できる最も細い金線を用いたが,二次電子のエネルギーが低いため,殆どの二次電子は金線による自己遮蔽のために液体シンチレーターに入射することができず,結局ノイズとなる一次単色X線による発光に埋もれてしまい,観測できなくなっているためと考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
上記「現在までの進捗状況」に記載のように,注射針型X線源では原理的に金属標的に大強度の一次陽子線を到達させることが困難であるため,これ以上のX線強度の向上は困難と判断される.そこで,今後は注射針型線源に代え,専用の真空容器の中心に金属標的を置き,そこに加速器のビームラインを接続して陽子線を直接照射する方式に変更する.これによりビーム径を大きくでき,また金属標的上のビーム位置や形状をモニターして制御できるため,発生する特性X線強度に大幅な増大が期待できる. 一方,金線から放出される二次電子に対する測定感度を高めてSN比を向上させるため,液体シンチレーターに代えて輝尽性蛍光体を用いたイメージングプレートを利用する.トリチウム(H-3)からのベータ線測定用の保護層のないイメージングプレートで金線からの低エルギー二次電子を直接受けて画像化し,金線の周囲での線量の増大を定性的に確認することを目標とする.金線とイメージングプレートは金属標的とともに真空中に置き,空気中のエネルギー損失を抑えて低エネルギー電子が効率的にイメージングプレートに到達できるようにする. X線発生用金属標的の種類を変えてX線エネルギーを変化させ,X線エネルギーが金のL吸収端を超えるか,超えないかの違いにより二次電子による線量がどのように変化するかを重点的に調べる.これによりガン細胞が取り込んだ金ナノ粒子からの二次電子を用いた高選択性低侵襲治療法の原理的実証を目指す.
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Causes of Carryover |
当初予定していた液体シンチレーターを用いた二次電子線による極細金線周囲の発光像測定に必要な大強度陽子線を得るため,ビーム輸送効率の高い別のビームラインに実験装置一式を移動した.これにより一次X線によるシンチレーターの発光強度分布の撮影には成功した.しかし,更なる調整を試みたものの注射針先端で目標のビーム電流を達成できなかった.よって年度内に予定していた液体シンチレーターによる測定を中断し,新たにより感度の高いイメージングプレートを用いたオフラインの二次電子線量計測に移行する必要が生じたため,次年度使用額が発生した. 陽子線発生用負水素イオン源の電極,一次単色X線発生用金属材料,真空配管部品,X線計測用同軸ケーブル,イメージングプレート等の消耗品,及び関連学会発表のための旅費等に使用する計画である.
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Research Products
(2 results)