2013 Fiscal Year Annual Research Report
生活世界の変容とジェンダー:インド高齢女性のライフヒストリーを通して
Project/Area Number |
25283006
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
押川 文子 京都大学, 地域研究統合情報センター, 教授 (30280605)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
八木 祐子 宮城学院女子大学, 学芸学部, 教授 (70212272)
松尾 瑞穂 新潟国際情報大学, 情報文化学部, 准教授 (80583608)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | a国際研究者交流 / aインド / aライフヒストリー / ジェンダー / 生活世界 |
Research Abstract |
当初計画にしたがって、国内研究会を実施するとともに、2013年8月にデリー大学において現地側調査協力者Raji Parliwara氏とともに、研究計画とインタビュー内容の詳細な検討を実施し、基本的なインタビュー項目や記述データ作成について検討を行た。これに基づいて、各調査地で、高齢女性に関するインタビューを実施し、一部のインタビューについては記述データの作成を行った。 ①デリーおよびロータク(押川および協力者Parliwara):2011年に押川・Parliwaraが実施した質問票調査(デリーおよびロータクで計2500サンプル)をもとに、家族構成や経済階層等を考慮して先行サンプルとして10件の高齢女性を選択し、そのうち6件について2013年8月および12月についてデリー市内北部の低所得層住宅地でインタビューを実施した。インタビュー対象者の多くは、1970-80年代に近隣州および南部州からデリーに移住し、スラム定住促進プログラムのもとで住宅を取得しデリーに定着した移住第一世代であり、その後の40年程度の大都市デリーの発展のなかでの低所得層の家族形成や世代間変化(教育、消費、雇用等)につて聞き取りを行うことができた。 ②プネおよびその周辺村落(松尾):初年度はプネ市内の上位カースト中間層の女性を対象に聞き取り調査を実施した。都市で安定した雇用を得ている層の家族関係や親族関係、グループ観光旅行など新しいライフスタイルや高学歴化などとともに、国政・州政と個人史との関連などが明らかにされている。 ③ヴァラーナスィーおよびその周辺(八木・菅野(協力者)):都市の影響が徐々に拡大する農村部で調査を実施した。ここでは、高齢女性が家族内に役割をもち忙しく過ごす日常とともに、これまで記録の少なかった農村部での食生活や消費、家族関係、女性がかかわる儀礼の変化についても明らかにされつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①高齢女性を対象とするライフヒストリーの聞き取り方法、記述方法についての検討が進み、本格的なインタビュー調査に着手することができた。聞き取り方法としては調査対象者が自発的に語る内容を重視し、記録においても可能な限り発話の形や言葉を留めること、現地語(録音記録)から英語文書記録への翻訳においても、この点を重視することが主要な検討点である。また3地点の調査地について、それぞれ必要な現地社会との接点を確立し、円滑な調査を実施することが可能になった。 ②それぞれ3地点での調査を開始することができた。サンプル数は当初目的を若干下回ったが、これはインタビュー対象者の自発的発話を重視することを調査方法として確認したことが主たる要因であり、数よりもむしろ質を重視して今後も進めたいと考えている。 ③3地点における聞き取り調査では、本課題の目的に即したデータが得られている。とくにこれまで記録が少なかった都市低所得層女性の生活世界の変化(デリー)、都市化・高学歴化・就業の多様化のなかでの新しい都市親族ネットワークの形成や家族・コミュニティの問題として政治をみる女性の政治意識(プネ)、変化が小さいと思われがちな農村部における家族関係や就労、消費、儀礼等の変化と女性の役割(ヴァラーナスィー)など、今後サンプルを加えつつ検討すべき課題が徐々に明らかになってきた。 ④上記のように初年度は、3地点で比較的小さい地域に絞ってインタビューをおこなっており、現時点では都市と農村、あるいは階層によって地域横断的な分析を可能にするデータにはなっていない。ただしこれは当初から予想していたことであり、次年度(平成26年度)以降、サンプルのバランスに考慮しつつ調査することによって向上させうると考えている。なお分担者松尾の異動が年度半ばに決定しためプネ調査に若干の遅れが生じたが、平成26年度以降に取り戻せると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は、初年度に引き続き、デリー・ロータク、ヴァラーナスィーおよび近郊農村、プネおよび近郊農村で高齢女性を対象とするライフヒストリー調査を実施し、その記録化を本格化させる。調査時期は、7-8月、12-1月を中心とし、その他の期間に日本において研究会・ワークショップを実施する。平成26年度は中間年であり、一定の数のインタビューを行うとともに、ライフヒストリー研究について他の地域の事例や、社会学と人類学における位置づけの違いなどにも配慮したワークショップを実施し、平成27年度(最終年度)の成果とりまとめにつないでいきたいと考えている。 ①現地調査予定 デリー・ロータク(押川、Parliwala) 2014年7月、12月を予定。ヴァラーナスィーおよびその近郊農村(八木・菅野) 2014年8月、12月を予定、プネおよびその近郊農村(松尾)2014年8月を予定。 ②国内研究会(3回程度)ライフヒストリーに関する既存研究の検討や記述方法の検討などを中心に実施 ③ワークショップ(1回 (仮タイトル)「南アジアにおける生活世界の変化:高齢女性のライフヒストリーを通じて」)を開催する。他の地域(含日本)におけるライフヒストリー研究や、関連する南アジア現代社会研究などの成果をもちより、ライフヒストリー研究の位置づけを検討するワークショップとする。2015年1月もしくは2月を予定。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究分担者松尾が、年度半ばの時点で、平成25年度末で新潟国際大学を辞職し平成26年度4月に人間文化研究機構国立民族学博物館に異動することが決定した。そのため新潟国際大学における残務処理など年度初めには予想していない状況が発生し、調査計画のうち海外調査の一部および記述データ作成作業の一部を翌年度に繰り越さざるを得なかった。残金は国立民族学博物館に移転の措置をとった。 平成25年度計画分のうち年度内に完了できなかった調査は、平成26年度に繰り越し金を使って実施する予定である。すなわちプネにおけるインタビュー調査、および記述データ作成作業を、平成26年度分に加えて実施することによって、当初計画の遂行が可能になると考えている。
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