2015 Fiscal Year Annual Research Report
「作品における制作する手の顕在化」をめぐる歴史的研究
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25284029
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中村 俊春 京都大学, 文学研究科, 教授 (60198223)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
根立 研介 京都大学, 文学研究科, 教授 (10303794)
平川 佳世 京都大学, 文学研究科, 准教授 (10340762)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 美術史 / 芸術諸学 / 筆致 / 即興性 / 油彩スケッチ / 描法 / 絵画論 / 国際研究者交流 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究3年目に当たる本年度も、昨年度に引き続いて、研究代表者、研究分担者、連携研究者が、「制作する手の顕在化」の問題に関連する各自の研究テーマに即して、資料収集、作品調査を行った。そして、これまでの研究成果として、中村俊春が、ルーベンス、ヴァン・ダイクらが制作したフランドルの油彩スケッチが、フランス・ハルス作の流麗なタッチで描かれた風俗画風の単身人物像へ与えた影響を考察した論考を、また,平川佳世が、デューラーの《悲しみの人》の背景の金属が腐食したかのような独特の描写方法が、神的なる存在の顕在化を示唆するための造形上の工夫であったという点を明らかにした論文を、それぞれ英語で執筆した。 研究発表会においては、西洋美術に関して、剱持あずさが、フィリッピーノ・リッピを中心とした初期ルネサンスの素描を取り上げて、その様々な様態と機能を検討し、平川佳世が、デューラーには珍しいエッチングについて論じた。そして、深谷訓子は、ファン・マンデル、ファン・ホーホストラーテンら17世紀のオランダで著された絵画論で様式と筆触がどのように論じられているのかを詳細に考察した。また、阿部成樹が、20世紀前半を代表するフランスの美術史家アンリ・フォシオンが、機械生産の進む時代にあって芸術家の手の仕事をいかに重視していたのかを、フォシオンの著作中の言葉に基づいて分析した。 一方、日本美術史については、安田篤生が、尾形光琳の「太公望図屏風」を取り上げて、図像を論じつつ、その作品では意図的に複数の画派の描法が用いられていることを検討した。また、宮崎ももが、松村景文の作品における筆致の露わな描写方法の特徴を、円山応挙の描法を批判する画論や、呉春との関係を視野に入れて論じた。これによって、研究チームの全員が、自身の研究課題について発表を行ったことになる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
最初の2年間に進めた美術理論面の研究、資料収集、作品調査を受けて、3年目の本年度は、研究チームの構成員が、各自の課題に関連して、より一層研究を深化させることができた。研究会では、6名が内容の充実した研究発表を行い、これによって、昨年度の研究発表と併せて、ひとまず全員の中間的な研究成果が提示されたことになり、各自の研究課題には、どのような問題点があるのか、研究をまとめるためには、さらにどのような研究を行わねばならないのかが明確になった。また、研究代表者の中村は、それぞれの個別研究に統一的な視点を与え、それらの研究成果を有機的に関連づけるために、作品を分析する多様な視点に加えて、芸術家の制作する手と、手が作品に付与する特徴について論じた古今東西の芸術論についての考察が非常に重要であることを強く意識しながら、さまざまな時代、地域の文献の収集と調査を行った。 本研究では、その研究成果を、国際的に発信し、海外の研究者と意見交換を行うことを重視しているので、本年度、中村と平川が、これまでの研究成果の一部を英語の論文として発表できたことは大きな意味を持つ。同じ論集には、昨年度に招聘した、ドイツのトリアー大学のアンドレアス・タッケ教授のクラーナハ工房における絵画制作に関する論考も掲載した。 作品調査に関しては、根立が関連する仏像の調査を継続したほか、安田と宮崎が、それぞれ、尾形光琳ならびに松村景文の作品についての実地調査を行った。また、中村は、フランス、ドイツ、オランダで、17世紀オランダおよびフランドル絵画を調査し、平川は、オランダとイタリアで、初期ネーデルラント絵画、およびエル・グレコの作品を調査した。これにより、研究をまとめる上で重要な作品に関する知見を充実させることができた。 以上のような状況からして、研究は概ね、予定通り順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28度には、これまで3年間の資料収集、作品調査の成果を生かして、研究チームの各構成員が自らのテーマに関する研究をさらに深化させて、完成へと導く。また、研究代表者の中村は、個別研究を統括し、それらが統合性を獲得するように努める。そして、本研究チームの研究成果を広く発信するために、国際コロッキウムを開催し、研究成果を英語ならびに日本語の論文集にまとめる。 国際コロッキウムについては、平成28年9月に開催すべく準備を進めており、研究チームの構成員である中村、平川、永井、吉田、深谷の5名に加えて、海外から招聘するグレゴール・ヴェーバー(オランダ、アムステルダム国立美術館)、ニルス・ビュットナー(ドイツ、シュトゥットガルト美術大学)、マーク・エヴァンス(イギリス、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館)、ニコル・マイヤーズ(アメリカ、ダラス美術館)の4名が研究発表を行う。これらの研究発表によって、16世紀初頭から19世末に至るまでの、西洋における絵画作品の様式、筆触に関する重要な問題を、網羅的に考察することが可能となる。また、コロッキウムは一般に公開する形で開催するので、他の研究者からもさまざまな有益な示唆を得ることが期待される。コロッキウム開催後に、各発表者は発表原稿に基づいて論文を執筆して、英語の論文集として刊行する。 さらに、このコロッキウムの論文集以外にも、研究チームの構成員による日本美術史ならびに西洋美術史に関する研究成果をまとめた日本語による論文集も刊行したい。その準備として、必要に応じて研究会を開催する。また、国際コロッキウムの打ち合わせ、作品調査などのために、中村と平川が、ドイツ、オランダ、フランス、アメリカなどへ出張するほか、日本美術史関連の研究者が、国内の美術作品を調査する。
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Causes of Carryover |
平成27年度の学術研究助成基金助成金のうち、一部が未使用のため次年度繰越金となった。これは、主として、購入を予定していた図書の一部の刊行が遅れて、購入できなかったためである。また、旅費については、中村と平川が大学での仕事の都合で、当初予定していただけの期間と回数、海外において作品調査、資料収集を行うことができなかった。コンピューターについては、必要とする機器の価格が下がっていたので、予定より安く購入できた。 海外から招聘を予定していた海外の研究者については、平成27年度に個別に招聘するよりも、複数の研究者を同時期に招いて、大規模な研究会を開催したほうが、より効果的で、有益な成果が得られるという理由から、平成28年度に延期した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
繰越金を加えた平成28年度の予算については、物品費と旅費を主とし、加えて、人件費・謝金その他の使用を予定している。これらの予算のうち、物品費を有効に活用して、新刊書、古書などの文献資料を購入する。また、旅費は、海外から4人の研究者を招聘して、国際コロッキウムを開催するほか、研究チームの構成員が、ドイツ、オランダ、フランス、アメリカにおける作品調査、資料収集を行うために使用する。さらに、国際コロッキウムの開催のためには、大学院生などの補助が必要になるので謝金を計上した。旅費は、国内における作品調査のためにも使用する。研究のまとめとして、英語ならびに日本語の研究成果報告書を刊行するので、そのための印刷費ならびに英語論文校訂費が必要となる。
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Research Products
(14 results)