2014 Fiscal Year Annual Research Report
プレゼンス論とアブセンス論の統合を目指して--日欧の現代演劇の比較論的考察
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25284042
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
平田 栄一朗 慶應義塾大学, 文学部, 教授 (00286600)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 演劇学 / パフォーマンス研究 / ヨーロッパ演劇 / ドイツ演劇 / 日本演劇 |
Outline of Annual Research Achievements |
演劇学で論争となったプレゼンス論とアブセンス論を統合し、新しい演劇理論を目指す本研究の2年目(計3年)では、アブセンス論の検証を行う研究を行った。その足掛かりとして、平成26年4月に、ライプツィヒ大学演劇学教授でアブセンス論者のギュンター・ヘーグ氏を慶應義塾大学に招いて演劇と不在に関するシンポジウムを行った。同シンポジウムでの討議から明らかになったのは、両論のうちアブセンス論がドイツの演劇学で優勢であるという事実であった。 演劇上演は一見すると、演劇的現象が観客の眼前で起きる「今ここ」のプレゼンスの状況が主流を占めているようにみえるが、実際には観客の受容プロセスにおいてその現象が「ずれ」たり「誤認」されてもいる。このずれや誤認を(演劇的現象がそのまま受け取られるわけではない意味で)アブセンスとみなして、この側面を演劇ならではの特徴とするほうが、「今ここ」のプレゼンス性(直接性)よりも有益であることがわかった。 アブセンス論の優位性を再確認するために平成27年1月に、ベルリン自由大学講師でプレゼンス論者のアダム・シラク氏を慶應義塾大学の研究会に招き、プレゼンス論の有効性について議論した。この議論で判明したのは、プレゼンス論者も、演劇現象における「ずれ」や「誤認」という側面を認めていること、それゆえに演劇的現象とプレゼンスとアブセンスの中間に位置づけられる「フィギュール」という概念で説明することが主流になっていることであった。 上記二人の研究者との討論によって、新しい演劇論では、その第一歩としてプレゼンスよりもアブセンスの特徴を優先して考察することが重要であることが判明した。両論の統合を目指す本研究では、まずアブセンスの要素を重視したうえで、プレゼンスの要素を考慮すべきという基本が浮き彫りになった。これが平成26年度の研究の最大の成果と考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
演劇学におけるプレゼンス論とアブセンス論の統合を目指す本研究(計3年)では、1年目にプレゼンス論の検証を行い、プレゼンス論における(それと反対にみえる)不在の要素があることを確認し、2年目に当たる平成26年度の研究ではアブセンス論の特徴を検証するのが目的であった。上記の研究概要に記したように、外国の研究者を複数招いて討論し、演劇学におけるアブセンス論の優勢を確認することができた。3年間の研究のうち、二つの演劇理論を平成26年度までに国際的な規模で検証できた点において、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
プレゼンス論とアブセンス論を過去2年の研究で詳細に検討した現在、両論を統合した新しい演劇理論を構築を行うことが今後の研究課題として挙げられる。具体的には、演劇的現象が観客によって「ある」のか「ない」のかが判然としない状況や、演劇的現象が「ある」はずなのに「ない」ほうが観客にとって重要になったり、「ない」はずなのに「ある」ほうに観客の関心が向く状況において、プレゼンスとアブセンスの要素が逆説的な関係を帯びながら演劇上演の特徴をなす場合がある。このような事例を実際の演劇上演から多く導き出し、個々の事例から普遍的な演劇理論の構築を目指す。 このような理論の構築のため、ドイツから演劇学者をシンポジウムに招き、プレゼンス論とアブセンス論に関する討論を行う。またドイツから演劇制作を行っている演出家を研究者の本務校に招き、実践家の立場からプレゼンスとアブセンスの特徴をどのように舞台作品に活かしているについて話していただく。 これらの考察と討論を経て、新しい演劇理論を実証する研究書の執筆に取り掛かる。この研究書の完成を目指すことをが、今後の研究推進の実質的な目標となる。
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Causes of Carryover |
平成26年度に招聘予定であったベルリン自由大学文学部部長のドリス・コレシュ教授を慶應義塾大学にお招きして、声のプレゼンスとアブセンスをテーマにしたシンポジウムを実施する予定であったが、ご本人が学部長職ゆえに多忙にあり、来日することができなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成26年度に予定していた声のプレゼンスとアブセンスに関するシンポジウムを平成27年度中に実施して、上記のベルリン自由大学教授のコレシュ氏をお招きする。次年度使用額はこの招聘費用に当てる予定である。同様にドイツから招き、演劇実践の立場からプレゼンスとアブセンスについてのワークショップを開いてもらう演出家の招聘費用にも当てたいと考えている。
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