2013 Fiscal Year Annual Research Report
語レベルの言語処理メカニズムの解明:理論言語学と言語脳科学の恊働による実証的研究
Project/Area Number |
25284089
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
伊藤 たかね 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (10168354)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
萩原 裕子 首都大学東京, 人文科学研究科(研究院), 教授 (20172835)
杉岡 洋子 慶應義塾大学, 経済学部, 教授 (00187650)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 語形成 / 事象関連電位 / 連濁 / 規則適用 / 語彙記憶 |
Research Abstract |
本研究は,語の認知処理にかかわる心内・脳内メカニズムの実証的な解明と,それに基づく文法理論への貢献を主眼とする。屈折,派生,複合語形成,複雑述語形成など,さまざまな語形成操作のかかわる語の処理に,どのような心内・脳内メカニズムが関与しているのかを,記憶と演算というメカニズムの相違を軸として,事象関連電位(ERP)計測の手法を用いた実験研究によって明らかにし,語レベルの言語処理モデルの検証を行うと同時に,ここで得られた知見と最新の文法理論との整合性を検討し,語の文法理論に貢献することを目的としている。 平成25年度は,複合語形成にともなう音韻現象として知られる連濁についての検討を中心に行った。連濁は,和語複合語については生産的に適用されるもので規則による処理であるとする考え方と,語彙単位の例外が見られることや健常者の産出実験結果のデータから語彙記憶によるものであるとする立場,さらに両方が併存するとする考え方とがある(Kubozono 2005)。本研究グループは,平成24年度末に,既存の和語を組み合わせた新奇複合語を用い,(1)ライマンの法則に違反して連濁した場合,(2)連濁忌避語(「姫」など語彙的に連濁しない語)を連濁させた場合,(3)連濁を阻止する要因がないのに連濁しない場合,という3パターンの違反刺激を作成し,それぞれ対応する正刺激と比較する形でERP反応を測定した。25年度前半にはこの実験結果の解析を行い,(1)ではP600,(2)ではLANとP600,(3)ではN400が惹起されていることを明らかにした。これは,動詞屈折について規則と語彙記憶の区別を論じた先行研究の結果と照らし合わせると,連濁が規則による演算処理による現象であることを示唆すると結論づけ,日本言語学会秋季大会で口頭発表を行い(大会発表賞を受賞),その後国際学術誌への投稿に向けて論文執筆を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度は,前年度末に行った実験の解析と,その結果解釈を中心に進め,国際学術誌に投稿する論文原稿をほぼ仕上げることができた。 平成24年度に発表した日本語動詞屈折にかかわる追実験の準備が少し遅れているが,これについても,正誤判断や産出などを用いた反応時間計測実験の可能性などを検討し,議論を進めた。 このように,若干遅れている面はあるものの,おおむね順調な進展と考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
まず,動詞屈折について,行動実験による傍証を得られるかを検討し,追実験を行う。並行して,日本語学分野における日本語動詞屈折の分析や,言語学分野における諸語の屈折の分析(特にthematic vowelを含むような屈折の分析)の先行研究を調査し,口頭発表済みののERP実験結果の解釈について再検討を行う。追実験で予測通りの結果が出れば,口頭発表済みのERP実験の結果の解釈と合わせて,国際学術誌に投稿すべく準備を進める。 また,連濁について,言語学会やその他の研究会での口頭発表の際に,特に音韻論研究者から貴重なコメントを頂いており,それらを活かした形で,たとえば刺激呈示を音声で行うなど,改善したデザインでさらにERP実験を行う可能性を検討する。音声呈示の技術面についての検討を進めると同時に,音韻現象にかかわるERP先行研究を調査し,実験デザインを策定し実施する予定である。 なお,屈折と連濁は,形態的・音韻的レベルにとどまる現象であるため,これらの研究を継続すると同時に,統語的・意味的レベルも関与する複雑述語の処理などについても,さらに実験案の検討を継続する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は,連濁の実験結果の解析及び結果解釈,成果発表に集中したため,屈折にかかわる追実験の計画策定が予定より若干遅れた。そのため,年度内に実験実施することができず,実験実施のための経費を繰り越すこととなった。 今年度前半に屈折にかかわる追実験の計画を確定し,実施する予定である。繰越額はそのために使用する予定である。
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Research Products
(9 results)