2013 Fiscal Year Annual Research Report
20世紀オーストリアにおける地域社会の変動と国民意識の再編
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25284142
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
小澤 弘明 千葉大学, 人文社会科学研究科(系), 教授 (20211823)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
水野 博子 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 准教授 (20335392)
姉川 雄大 千葉大学, アカデミック・リンク・センター, 特任助教 (00554304)
江口 布由子 高知工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (20531619)
鈴木 珠美 東京外国語大学, その他部局等, 研究員 (20641236)
藤井 欣子 東京外国語大学, その他部局等, 研究員 (30643168)
古川 高子 東京外国語大学, 外国語学部, 研究員 (90463926)
山崎 信一 東京外国語大学, 外国語学部, 研究員 (80376582)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 東欧近現代史 / オーストリア / 地域史 / 社会史 |
Research Abstract |
本年度は研究計画の初年度として、研究史と研究視角の相互共有を図り、研究会を四回にわたって開催した。第一回は、科研参加者全員がそれぞれコンセプトペーパーによる構想報告を行い、相互批判を通じて問題意識を共有した。第二回は、米国を中心とするNationalIndifference論の研究動向、ナチズムや第二次世界大戦についてのオーストリアの記憶論、オーストリア・ハンガリー境界領域について最新の研究成果および現地調査の結果を検討した。第三回は、研究代表者がブルゲンラント・西ハンガリーという歴史的地域にアプローチするための多様な論点と研究方法について報告し、それをもとに地域形成のオーストリア内比較史について議論した。第四回は、地域史を扱う手法についてオーストリア史以外の研究者から報告を得て、比較史の観点の有効性を検証した。 現地調査としては、オーストリアのウィーン、ハンガリーのショプロンといった都市の重層性の調査、クロアチアからブルゲンラントを経てスロヴァキアに至る「クロアチア人ディアスポラ」の存在形態調査を行った。これらの現地調査については、適宜研究会で報告し、研究分担者間で成果の共有を進めている。 さらに、科研参加者間の史学史、文献情報、文書館・図書館・歴史系博物館等情報の共通化を実現するために、オーストリア科研ブログを作成した。ブログでは、1年間で約120のエントリを掲載しており、将来的には、20世紀オーストリア史の研究リソースとして公開ないし出版する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究会の連続開催によって、分担者間の密接な連携が図られており、研究目的と研究方法の相互批判を通じて、緊密な研究集団が形成された。オーストリア内外の研究史の共有につとめた結果、当該地域に関する最新の国民史・地域史研究の動向を概ね把握したと言って良い。そこでは、地域史研究が国民史研究の枠組みを相対化する役割を果たす側面に注目しただけでなく、地域の形成のされ方と国民国家の形成の相互関係や界面(インターフェイス)における同調や摩擦の諸側面を分析する方法を模索している。特に国民国家論とNational Indifference論の双方の研究動向を乗り越える方法について検討を重ねている。 現地調査としては、ウィーン南部の10区ファヴォリーテンの都市内地域研究(Stadtteilarbeit)を通じて、歴史的にチェコ系住民、トルコ系住民、アフリカ系住民が集住してきた地域の特性を検討した。特に住み分け(segregation)が形成する、政治・経済・文化のネットワークが都市や国民国家の均質性と同調・対抗する事態の把握につとめた。ショプロンについては、西ハンガリー・ブルゲンラントという政治的境界領域において、住民投票の結果、ハンガリーへの帰属が決定されていく過程、諸政治勢力の主張とその社会的背景などを歴史的に分析した。クロアチア系ディアスポラの調査は、第二次ウィーン包囲以降のディアスポラの形成と、それがオーストリアやクロアチアの国民意識形成に与えた影響を検討した。 ブログを通じた情報共有もオーストリアにおける文献情報だけでなく、日本においてオーストリア地域史に着目してきた理由・視角を同時代文献の発掘によって跡付けるなど、日本において研究を遂行することの意義を強く意識している。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、地域形成の過程を社会史的に分析する作業を全面的に展開するため、研究に着手していなかったオーストリア西部(フォアアールベルク、ティロールと南ティロール)および南部(ケルンテンとシュタイアーマルク)を中心に現地調査を行う。そこでは、それぞれの地域と地域外との相互関係に特に着目したい。フォアアールベルクはスイス・北イタリア・ドイツとの繊維産業や労働市場を通じたネットワークの形成と展開、ティロール・南ティロールについては、イタリアやドイツとの政治的・経済的相互関係や「ティロール」という愛郷意識とオーストリア国民意識との同調と対抗、ケルンテンとシュタイアーマルクについては、スロヴェニアをはじめとした南スラヴとの関係と、それによって形成される「ドイツ人意識」「オーストリア国民意識」の特質等を分析する。 また、次年度も随時研究会を開催して問題領域について共有を図るとともに、現地調査の報告を通じて、「オーストリア」を超えた地域間相互の比較に進みたい。さらに、最終年度の理論的なまとめの前提として、20世紀オーストリア史の全体史の記述方法について研究分担者間および外部の研究者との協力の下に検討を開始する。そこでは、従来ドイツ史とオーストリア史という対称性から議論されることの多かった20世紀オーストリア史を、むしろ中東欧史全体の中に位置付け、同時にオーストリア内地域史の特性からオーストリア史という認識枠組みそれ自体を相対化するような記述を検討する。同時に通史という形式についても理論的に分析したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は、オーストリア西部の現地調査を行う予定であった研究分担者が、職務との関係から調査を辞退し、そのためにおおよそ一人分の旅費を使用することができなかった。 次年度は、現地調査の日程を早目に確定させ、計画的に旅費を使用することができるよう、第一回の研究会で年次計画を入念に検討した上で決定したい。
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Research Products
(12 results)
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[Book] Mass Dictatorship and Modernity2013
Author(s)
Hiroko Mizuno, J.Lim, R.Griffin, M.Schoenhals, H.C.Ts'ai, P.Corner, K.H.Kim, H.Yun, M.Kim, C.Hatterjee, K.Petrone, P.Lambert, C.Kim
Total Pages
328(143-158)
Publisher
Palgrave Macmillan
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[Book] Routes into the Abyss. Coping with Crises in the 1930s2013
Author(s)
Hiroko Mizuno, H.Konrad, W.Maderthaner, F.Lacina, R.Griffin, K.Priester, H.mommsen, V.S.Rosalen, B.Schullergvist, N.Lichtenstein, E.J.Zurcher, A.Fortes, P.Fontes, S.Sen
Total Pages
230(167-182)
Publisher
Berghahn Books
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[Book] ハプスブルク史研究入門―歴史のラビリンスへの招待2013
Author(s)
大津留厚・水野博子・河野淳・岩崎周一編著、江口布由子、澤井淳、鈴木珠美、藤井欣子、古川高子、山崎信一、服部良久、加来奈々、立石博高、石井大輔、坂口さやか、秋山晋吾、野村真理、山本明代、高田茂臣、桑名映子他
Total Pages
311(163-167,205-207,217-226,227-238,239-241)
Publisher
昭和堂
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[Book] クロアチアを知るための60章2013
Author(s)
柴宜弘、石田信一編著、山崎信一、明石康、一政(野村)史織、伊藤一郎、猪瀬敦、遠藤嘉広、大野和士、奥彩子、長有紀枝、亀田和明、亀田真澄、久保慶一、小宮山英明、小山洋司、齋藤厚、定形衛、下岡シティグリッチ万寿美、玉木修、月村太郎、戸谷浩他
Total Pages
354(54-55,242-245,261-265,275-279)
Publisher
明石書店
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