2014 Fiscal Year Annual Research Report
20世紀オーストリアにおける地域社会の変動と国民意識の再編
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25284142
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
小澤 弘明 千葉大学, 文学部, 教授 (20211823)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
姉川 雄大 千葉大学, アカデミック・リンク・センター, 特任助教 (00554304)
水野 博子 明治大学, 文学部, 准教授 (20335392)
江口 布由子 高知工業高等専門学校, 総合科学科, 准教授 (20531619)
鈴木 珠美 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 研究員 (20641236)
古川 高子 東京外国語大学, 世界言語社会教育センター, 助教 (90463926)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 東欧近現代史 / オーストリア / 地域史 / 社会史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、3回の研究会を通じて20世紀オーストリアを境界領域から把握する事例として、ブルゲンラント・クロアチア人、南ティロールのラディン人、下シュタイアーマルクのドイツ人とスロヴェニア人の関係、フォアアールベルクの社会編成と結社を取り上げた。同時に、「オーストリア国民」を形成する運動として登山協会の活動に着目すると同時に、第一次世界大戦中の「ドイツ」「オーストリア」「中欧」を総体として把握するために植民地との関係を取り上げた。これによって、しばしば外交史上でオーストリアとハンガリー、オーストリアとイタリア等といった対抗図式で語られることの多かった境界領域について、他のアクターの視点を導入することによって、別個の問題群を解明することが可能となった。 国外のフィールド調査においては、ドイツ・オーストリアの文書館における南ティロール問題の史料調査、都市ウィーンの社会空間の調査、ブダペシュト・ショプロンにおける西ハンガリー問題の史料調査、ベルリンにおける「中欧」関係史料調査を行った。国内では、奈良女子大学、大阪市立大学、京都大学に所蔵されている関連文献の調査・収集を行った。これらのフィールド調査によって、問題群を把握するための基礎的な史資料を得ることができたのと同時に、現場に即した問題の連関を把握することができた。西ハンガリー問題はブルゲンラントと連結し、都市ショプロンに根拠を置く研究視角は、オーストリアとハンガリーの国民史の枠組みでは捉えることのできない、都市固有の問題の解明につながる。ウィーン10区ファヴォリーテンの問題は、チェコ系、トルコ系、アフリカ系といった都市周縁の歴史的変遷を把握することに接続する。本年度は、こうした研究視角の刷新につながる論点を抽出することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度までに、オーストリア各地及びハンガリー、クロアチア、イタリア、ドイツといった隣国との接触領域・境界面におけるフィールド調査を行い、史資料の収集をはじめ重要な成果を挙げることができた。これによって、「オーストリア国民」形成をドイツとの比較において把握するという従来の研究を乗り越え、チェコ、ハンガリー、南スラヴといった主として東ヨーロッパとの境界から把握するという具体的な研究成果につながる実例と論点を多数獲得することができた。 同時に、接触領域・境界面について理論面での検討を重ね、二国間関係史とは異なる方法として、都市のアイデンティティへの注目、近年北米で蓄積されている「国民への無関心national indifference/indifference to nation」論の導入などを行った。ボヘミアのブトヴァイス/チェスケー・ブジェヨヴィツェについてのジェレミー・キングの先行研究を踏まえれば、ショプロン(ドイツ語名ではエーデンブルク)やウィーン(チェコ語名ではヴィーデニ)といった都市ないし都市内地区のアイデンティティが、国民化の過程でいかに変容していくか(あるいは持続性を有しているか)を議論する基盤が形成されたと言える。また、ナショナリズムとの関係で議論されることの多かった主題(南ティロール問題や南スラヴとの関係)においても、住民の多数において「国民への無関心」が一般的であったとするなら、別個の分析視角を持たなければならないことを意味している。本年度の研究によって、こうした新しい理論的アプローチを開拓することが可能となったといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、フィールド調査としてフォアアールベルク、シュタイアーマルク/スロヴェニアを予定している。フォアアールベルクはスイス・ドイツ・北イタリアとの関係、レト・ロマンス語系住民との関係を解明するためであり、シュタイアーマルクは特に下シュタイアーマルクのスロヴェニアとの関係を解明することを目的としている。シュタイアーマルクについては、ケルンテンとの比較という視点を導入することによって、歴史的・社会的条件の類似性と差異を明らかにしたい。 理論的側面についていえば、これまで政治史・外交史上の論点については問題点の洗い出しを終え、都市社会史・農村社会史の観点から地域の社会的編成についての議論を行うことができた。今年度は、以下の4点について総括する。(1)地域的市場・国民経済における国内市場・移動や移民を通じた労働市場等の再編成との関係について理論的まとめを行う。(2)「国民への無関心」が一般的であったとするなら、国民とは異なるアイデンティティがむしろ優越していたと考えられる。地域については研究史上の蓄積があるが、社会階層の差異や生業との関係でアイデンティティの複合的再編を検討する。(3)複合領域や境界面の研究は事例を増やすことが目的ではなく、「オーストリア国民」の形成との相互関係を問うことが最終的目標である。この点では、20世紀オーストリアの国民形成の特徴をまとめるとともに、それが複合領域や境界面にどう規定されているかを解明する。(4)最終的に国民形成の比較史的研究に理論的基礎を与えることが本研究の目的である。他地域との比較や、従来の国民形成史研究の到達点を踏まえた理論的総括を行う。
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Causes of Carryover |
本年度は、オーストリアの現地調査を行う予定であった研究分担者1名が職務との関係から調査を辞退したため、旅費を使用することができなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は現地調査の日程を早めに確定させ、計画的に旅費を使用できるようにしたい。
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Research Products
(6 results)