2015 Fiscal Year Annual Research Report
20世紀オーストリアにおける地域社会の変動と国民意識の再編
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25284142
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
小澤 弘明 千葉大学, 文学部, 教授 (20211823)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
姉川 雄大 千葉大学, アカデミック・リンク・センター, 特任助教 (00554304)
水野 博子 明治大学, 文学部, 専任准教授 (20335392)
江口 布由子 高知工業高等専門学校, 総合科学科, 准教授 (20531619)
鈴木 珠美 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 研究員 (20641236)
古川 高子 東京外国語大学, 世界言語社会教育センター, 助教 (90463926)
山崎 信一 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 研究員 (80376582)
藤井 欣子 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 研究員 (30643168)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 東欧近現代史 / オーストリア / 地域史 / 社会史 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、3度の総合研究会を開催し、1)平成27年度の研究計画と総括、2)ナショナリズム論としての比較研究の視座の検討、3)地域研究の方法的革新について議論した。 地域としては、フォアアールベルク、南ティロール、南シュタイアーマルク、オーストリアアルプスといった多様な地域からオーストリア国民概念を相対化する視点を確立すると同時に、理論的には新自由主義による地域の再編過程および史学史における「国民への無関心」論の展開などを扱った。 地域に関する論点では、フォアアールベルクでは、ドイツ、スイス、北イタリアといった周辺地域との関係がウィーンとの関係よりも重要であること、これらが繊維産業と労働という産業構造や市場の再編成と関連していることが明らかとなった。南ティロールでは、ドイツかイタリアか、オーストリアかティロール愛郷主義か、という従来から存在する二項対立の図式を超えて、現代におけるバルカン諸国や北アフリカからの移民労働者の存在を踏まえた新たな視点を獲得する必要性が認識された。南シュタイアーマルクでは、スロヴェニアとの境界領域において、南スラヴ国家建設後のドイツ語系都市における失地回復運動や文化運動の意味を歴史的に検討した。また、オーストリアアルプスの登山協会の運動を通じて、ドイツナショナリズム、オーストリアナショナリズム、登山協会の政治的分化との相互関係が解明された。 理論的には、特に近年アメリカ合衆国で展開されている「国民への無関心」論の検討を踏まえ、ナショナリズムに収斂しない、多様な運動や社会の動向を把握する必要が認識された。この観点からは、「オーストリア国民」という枠組みへの無関心という新たな認識方法の可能性について議論した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度までに、オーストリア各地域および境界地域の微視的分析については、西のフォアアールベルクから東のブルゲンラント、南はティロールやシュタイアーマルクに至るまで、現地調査を踏まえた実証的な分析を遂行することができた。 研究計画では、当初、ウィーン10区ファヴォリーテン、16区オッタクリング等、首都における外国人労働者集住地域の実地研究を行い、時間軸から見て19世紀末からのチェコ系、第二次世界大戦後のトルコ系、現代のアフリカ系オーストリア人の存在状況からオーストリア国民意識の歴史的展開を把握することを予定していた。しかし、研究代表者の日程上の都合から、現地調査の実施が遅延した。 また、これまでの研究から明らかになった論点を総合するには、これまで開催した研究会に加え、あと2回程度の研究会の開催が必要である。特に新自由主義によるオーストリアにおける産業構造の変化、EU内における東方あるいはEU外への産業構造のシフト、労働市場の全面的再編(労働の不定期化、流動化)によるアフリカ系オーストリア人の増大が、従来ドイツとの差異化の中で議論されてきた「オーストリア国民」意識の再編過程にどのような影響を与えているのか、といった重要な論点を探究する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は、ウィーンの地域研究を中心に遂行し、外国人労働者あるいはアフリカ系オーストリア人の存在形態から、「オーストリア国民」の相対化の作業を行う。特に公共住宅の市場化、私有化によって両大戦間期の「赤いウィーン」や第二次世界大戦後の「社会国家」とは異なる新自由主義オーストリアという観点から、議論の再構成を行う。 理論的には、1983年の完全雇用の解体、1986年のヴァルトハイム時代の開始、連合政治と社会パートナーシップの溶解など、オーストリアの新自由主義化のメルクマールを踏まえ、政治的には「第三共和制」と考えられている体制を新自由主義体制として把握し直し、鉄道や郵便等の私有化、社会福祉の後退、労働の不定期化などの一連の施策を新自由主義政策として位置付ける。 こうして、地域調査と理論的検討を重ね合わせることによって、新しい認識枠組みを提示する。さらに、この枠組みをオーストリア内外の他地域の状況と比較することによって、最終的に「オーストリア国民」論の再構築につなげる。
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Causes of Carryover |
本年度は、ウィーン調査の旅費が支出できなかったため、来年度への繰り越しを行った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
来年度は、ウィーン調査費用として残額を使用する。
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Research Products
(16 results)
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[Book] 教養のための現代史入門2015
Author(s)
(編集)小澤卓也・田中聡・水野博子(共著)小澤卓也・田中聡・水野博子・小山俊樹・宮下敬志・吉川卓郎・戸邉秀明・稲垣健志・木村真・市井吉興・山崎信一・中田英樹
Total Pages
56(1-18,61-79,80,131-148)
Publisher
ミネルヴァ書房