2013 Fiscal Year Annual Research Report
比較法から見たミャンマー憲法裁判所―民主化過程における意義と役割―
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25285003
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
鮎京 正訓 名古屋大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (40126826)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
國分 典子 筑波大学, 人文社会科学研究科(系), 教授 (40259312)
西澤 希久男 関西大学, 政経学部, 准教授 (50390290)
KUONG TEILEE 名古屋大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (80377788)
山田 美和 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, その他部局等, その他 (80450518)
牧野 絵美 名古屋大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 助手 (00538225)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ミャンマー / 憲法裁判所 / 民主化 / 比較法 / 法整備支援 |
Research Abstract |
本研究の目的は、ミャンマー憲法裁判所の設立の経緯、憲法裁判所がミャンマー民主化という課題に対してもつ役割を、同様の民主化と経済発展を追求する韓国・タイ等と比較しながら検討し、また、憲法裁判所のもつ政治的性格を考慮しながらも、とりわけその法学的検討を行うこととした。 平成25年度は、9月にミャンマー首都ネピドーに訪問し、最高裁判所、憲法裁判所、法務長官府、連邦議会法案委員会に行き、各機関の機能について調査をした。その調査を通じて、最高裁判所と憲法裁判所の裁判管轄権等が明らかになった。また、ヤンゴンでは、憲法裁判所が創設されるに至った2008年憲法起草過程並びに、憲法裁判所の役割について、法学研究者へのインタビューを実施した。 平成26年2月には、憲法裁判所長官を含む3名の判事を日本に招聘し、名古屋で研究会を行い、ミャンマー憲法裁判所の組織及び権限並びにこれまでの判決の特徴についての報告を受けた。現在までに下された違憲判決の中で特筆すべき判決は、2012年2月、大統領の代理として法務長官府が、人民院及び民族院の各議院に設置された委員会、評議会、機関は連邦レベルの組織であるという解釈は合憲かという判断を求めた、という事件である。憲法裁判所によれば、憲法上連邦レベルの組織とは大統領に任命され議会で承認された組織のことであり、各議院に設置された委員会、評議会、機関が連邦レベルの組織であるという解釈は違憲であると判断した。憲法上法案提出権は連邦レベルの機関に付与されており、本判決の結果、議会に設置された法案委員会には法案提出権が認められない。本判決を不服とした議会は、9名全員の憲法裁判所判事を弾劾した。弾劾に続き、議会は憲法裁判所法を改正し、憲法裁判所の決定が最終的で確定的である場合を限定的にするなど、ミャンマー憲法裁判所は司法の独立という観点からその存在が危惧されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度の主たる課題は、2008年憲法に規定された憲法裁判所の設立の経緯を憲法制定史のなかから明らかにするとともに、裁判所の組織と役割を明らかにすることであった。ミャンマーでの諸機関への直接のインタビュー調査を通じて、なぜミャンマーが憲法裁判所を設立したのか、また2008年憲法及び憲法裁判所法に規定されているミャンマー憲法裁判所の組織及び役割について明らかにすることができた。 これまで、日本ではミャンマー憲法裁判所研究はもちろんのこと、ミャンマー法を対象とした研究はほとんど皆無であった。それは、ミャンマーでは外国の大学との学術交流が禁止され、外国の研究者にとって、ミャンマー法へのアクセスが非常に困難であったという理由にもとづいている。民政移管を果たした現在でも、ミャンマーでは国家機関へのアクセスは非常に困難であるが、そのような中、ミャンマー憲法裁判所との研究交流に着手できたことは、日本では初めての画期的な出来事である。特に、公開されていないミャンマー憲法裁判所判決の英語訳を憲法裁判所から入手することができたが、今後この判決をさらに考察することにより、憲法裁判所の果たす役割を検証することが可能となった。 また、憲法裁判所のみならず、最高裁判所、法務長官府、議会との研究交流も実施し、ミャンマー司法制度、法案審査を含む立法過程を明らかにすることができ、貴重な情報を収集することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究から、2008年憲法及び2010年憲法裁判所法に規定されているミャンマー憲法裁判所の組織及び役割が明らかになった。それらの研究成果をふまえた上で、今後の研究の推進方策を以下のように設定している。 第1に、ミャンマー憲法裁判所がこれまで下した5つの判決のうち、半数以上が違憲判決だが、これらの判決をさらに考察することにより、ミャンマー憲法裁判所が民主化に及ぼす影響を解明する。 第2に、旧憲法下では、高等裁判所や最高裁判所が違憲審査を行っていたのに対し、2008年憲法ではミャンマーにおいて初めて憲法裁判所が設置された。1947年憲法、1974年憲法を含め、これまでの憲法制定史を明らかにすることにより、なぜミャンマーに憲法裁判所が設置されたか、その歴史的背景を解明する。 第3に、韓国、台湾、タイなど、憲法裁判所を有する国の実務家及び研究者を含んだ国際会議を開催することにより、アジア各国の憲法裁判所の、とくに実務レベルの諸問題を明らかにし、それを通じてミャンマー憲法裁判所をめぐる基本的特徴及び理論的課題を析出する。ミャンマー憲法裁判所が、アジアの他の国々のそれとどのような共通性と異質性をもつかを検討することにより、アジア諸国の憲法裁判所論の一般理論の構築に寄与する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
さらに多くのアジアの国々と比較研究を実施するために、他の外部資金を獲得した。 1947年憲法の起草過程を明らかにするために、旧宗主国であるイギリスにて調査を実施する。
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