2014 Fiscal Year Annual Research Report
比較法から見たミャンマー憲法裁判所―民主化過程における意義と役割―
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25285003
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
鮎京 正訓 名古屋大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (40126826)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
國分 典子 名古屋大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (40259312)
西澤 希久男 関西大学, 政経学部, 教授 (50390290)
KUONG TEILEE 名古屋大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (80377788)
山田 美和 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, その他部局等, その他 (80450518)
牧野 絵美 名古屋大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 助手 (00538225)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ミャンマー / 憲法裁判所 / 民主化 / 比較法 / 法整備支援 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度(2014年度)は、12月にミャンマー憲法裁判所等を訪問し、2014年11月に改正されたミャンマー憲法裁判所法、2014年に新たに下された判決につき、長官を含む裁判官4名と意見交換を行った。憲法裁判所法は、2013年1月に続き、2014年11月に再び改正されたが、連邦議会の承認を得て大統領が各裁判官を任命する際に、大統領は各院議長と協議を要すること、また、各裁判官は、遂行した任務に関して、自らを選出した大統領、人民院議長、民族院議長に報告しなければならない等、連邦議会との関係で憲法裁判所の独立性を弱体化する動きが見られた。2010年にミャンマー憲法裁判所が設立されて以来下された同裁判所の判決を概観すると、中央地方関係、少数民族に関する問題への関与が多く見られる。ミャンマーは多民族国家であるが、1948年の独立以来、国民が結束し連邦を崩壊させないことが重要であった。2008年ミャンマー憲法においては、民族問題を調和的に解決するため、連邦制を採用しているが、少数民族に広範な自治を認めるには至っていない。ミャンマー憲法裁判所では、これまで、地方政府における民族担当大臣の他大臣と比した位置づけ、少数民族の捉え方等が争点となった。 平成27年(2015年)2月には、名古屋大学法政国際教育協力研究センター(CALE)が主催した「法整備支援の研究」全体会議『東アジア「統合」の時代における多層的憲法秩序化の展望』において、ミャンマー、韓国、台湾、タイ、インドネシア、カンボジア等の憲法裁判所裁判官・研究者を招聘し、各国の憲法裁判所の比較を行うとともに、韓国憲法裁判所が提唱している「アジア人権裁判所構想」を踏まえ、アジア地域における人権保障のあり方を議論した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度(2014年度)は、予定していたミャンマーへの調査を実施するとともに、ベトナム、カンボジア等、引き続きアジア各国での調査を実施した。ミャンマー憲法裁判所については、これまで下された判決を研究することにより、中央地方問題、少数民族に関する問題への関与という特徴を捉えることができ、連邦制であるミャンマーにとっての憲法裁判所が果たす役割を明らかにすることができた。また、2012年9月の憲法裁判所裁判官が全員弾劾されるという事件を受けて、2度にわたり憲法裁判所法を改正することにより、憲法裁判所の独立性を弱体化させる等、憲法裁判所と連邦議会との関係についても明らかとなった。 また、韓国、台湾、タイ等、憲法裁判所を有する国の実務家及び研究者を含んだ国際会議を開催することを予定していたが、本事業にてミャンマーから2名の憲法裁判所裁判官を招聘するとともに、法政国際教育協力研究センター(CALE)の主催により、その他7ヶ国の憲法裁判所裁判官及び研究者を招聘し、名古屋大学にて国際シンポジウムを開催することができた。アジア各国における憲法裁判所の比較研究を行うとともに、欧州評議会からもベニス委員会憲法裁判部部長を招聘し、世界憲法裁判会議の動向を知る機会を得ることができた。日本に憲法裁判所が存在しないという経緯から、これまで日本では各国の憲法裁判所との交流は進んでいなかったが、同国際シンポジウムを開催することにより、アジア各国の憲法裁判所とのネットワークを構築することができたことは、特筆すべきである。 さらに、イギリス・ブライトン大学で開催された東南アジア学会にて、ミャンマー憲法を研究するイギリス研究者とのネットワークも構築することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、連邦議会において、憲法改正に関する議論がなされているが、大統領、国軍総司令官、両院議長、野党代表者、少数民族政党代表者の6者が協議を進めている。主な争点は、憲法改正には、連邦議会の総議員の4分の3以上の賛成が必要であるが、連邦議会を構成する人民院、民族院ともに総議員の4分の1が軍人議員である点、が第一の争点である。また、憲法第59条に規定されている大統領の資格について、同条(f)によると最大野党である国民民主連盟党首であるアウンサンスーチー氏は大統領からは排除されている点が第二の争点である。さらに、第三に、現在の連邦制は、地方政府に広範な自治を認めるには至っておらず、少数民族代表者の中には、地方政府にさらに広範な自治権を求める者もいる。これまでの研究から、連邦制を採用するミャンマーにおいて、多民族国家であるがゆえの問題を、憲法裁判所が判断することがあったが、統治体制に着目して本研究を進める必要がある。 2015年2月には、憲法改正に必要な国民投票の手続きを定めた国民投票法が成立し、憲法改正に向けた準備が進められているが、2015年秋頃には総選挙が予定されており、今後のミャンマー憲法改正に向けた動向を調査することが必要である。憲法改正動向を調査した上で、ミャンマーにおける憲法保障のあり方を研究し、引き続き、憲法裁判所が人権保障、民主化に果たす役割を他国と比較しながら検証する。特に、人権保障という点では、国民は直接憲法裁判所に対して提訴する権限は有しておらず、ミャンマーにおける人権保障は、2011年に設立されたミャンマー国家人権委員会がその一端を担っている。同委員会の役割にも着目しながら、ミャンマー憲法における人権保障体制を研究する。また、最終年度であるため、本研究の成果を発表するために、日本でワークショップを開催し、本研究を総括した報告書を発行し、発信する。
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Causes of Carryover |
名古屋大学のミャンマー拠点であるミャンマー・日本法律研究センターを活用した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
日本で開催するワークショップにおいて、ミャンマー憲法裁判所からの裁判官招聘旅費として使用する。
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