2013 Fiscal Year Annual Research Report
ユーロ圏危機下における南欧政治の構造変容に関する比較研究
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25285043
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
野上 和裕 首都大学東京, 社会(科)学研究科, 教授 (90164673)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
深澤 安博 茨城大学, 人文学部, 教授 (60136893)
横田 正顕 東北大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (30328992)
八十田 博人 共立女子大学, 国際学部, 准教授 (70444502)
細田 晴子 日本大学, 商学部, 助教 (00465379)
伊藤 武 専修大学, 法学部, 教授 (70302784)
西脇 靖洋 上智大学, グローバル教育センター, 特別研究員 (40644977)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 南欧政治 / 国際研究者交流(スペイン・イタリア) / 危機における政治変容 / ユーロ危機 |
Research Abstract |
研究分担者細田助教(現准教授)、伊藤教授によるスペイン、イタリア等の現地調査が行なわれた他、代表の野上は野村財団の助成を受けスペインのルビラ・イ・ビルジーリ大学よりジョアン・マリア・トマス教授を招聘した。 共同研究者による学会報告も数多くなされたほかに、4回の研究会では、7月6日村田奈々子特任講師(一橋大学)「現代ギリシアの政治状況」 9月21日野上「スペイン金融スキャンダル」楠貞義名誉教授(関西大学)「クロスボーダーで「ゼロ和ゲーム」が跳梁する世界」1月25日伊藤教授「現代イタリア福祉改革の課題と政治力学」 中田瑞穂教授(明治学院大学)「チェコ共和国における既存政党政治の限界」3月21日トマス教授「自給自足に失敗した国家 第二次世界大戦期のスペインの対米関係)」(スペイン語)石田憲教授(千葉大学)「枢軸外交をめぐる考察」;武藤祥准教授(東海大学)「『国民革命』の理念と現実-1950年代のフランコ体制におけるファランヘの位相」という報告が行なわれた。 得られた知見として、1.新自由主義の主張と異なり、経済危機の原因をもっぱら国内体制に求めることができない。国内経済に脆弱性にもかかわらず金融危機の影響を受けなかった国もあれば、金融・財政が比較的健全でもユーロ危機に落ち込んだ例もある。2.スペイン、イタリア、ポルトガルにおいては、国際的な制約のために、議会を通じたコントロールも議会外の圧力の影響も共に政策過程に投入されず民主主義の赤字が生じている。他方、ギリシアや東欧諸国ほど反議会勢力が台頭していない。3.3カ国の相互でも危機における政治変動の相違が顕著であった。スペイン・ポルトガルでは政党システムが安定していたが、イタリアでは激しく動揺した。中央地方関係に緊張が走ったが、その様相は各国で大きく異なった。民主主義の新たな形態の萌芽が見られるという指摘もあった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予算制約が厳しい中、4回もの研究会を実施したため、研究費の大半が旅費に費消せざるを得なくなった。その結果書籍などの物品費に支障が出たものの、研究会自体は成果を上げた。議会政治の危機ないし転換の事例が報告されたこと、政治経済的に南欧内部でのバリエーションという分析が示され、経済危機としてのみ検討されがちなユーロ危機について、政治的な分析課題が共有されたことは前進であった。南欧各国とも経済的なストレスを受けているものの、金融危機を回避した東欧諸国で既存政党システムの毀損の程度が甚だしいことを見れば、議会制が一定の耐久性を有していることが確認できた。そうした中でギリシアの事例が金融危機と議会政の構造的脆弱性とが交差した事例であって、スペイン、ポルトガル、イタリアと同列に論じがたいことも確認できた。また、野村財団からの助成がたまたま受けられたことにより、次年度以降に予定していたスペインから研究者を招き、意見交換ができたのも成果である。これにより、スペインの歴史的教訓として、大国の意向に左右される国際社会からの圧力に直面しても、大国相互の意向のズレやそのイデオロギーの先取りにより、スペインなどの中小国側にも一定の裁量の余地が残された事例が説得的に提示された。また、現在のユーロ危機に際して、スペインの議会制民主主義が1930年代と異なって強固に定着しているために、民主主義の危機の意識でなく、民主主義をもう一段進めるという模索が様々に取り組まれていると言ったスペイン人自身の認識が示され、南欧の他の2国との相違が改めて確認されると共に、ユーロ圏危機の政治的側面について新たな次元の設定の必要性が明らかとなった。また、南欧諸国とユーロやヨーロッパ統合という枠組みとの連関に関する分析については、EU、ユーロ、ECBがどのように捉えられているか、を認識や言説レベルで検討する試みがなされた。
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Strategy for Future Research Activity |
国際経済の影響を同一のものとして国内政治経済体制の相違を検討するGourevitchのPolitics in Hard Timesの手法は使えないものの、国内の民族問題や中央地方関係の存在、政治的言説、政党と議会制の安定性とそれに代替する市民運動の性格は、各国の政治的文脈が大きく左右することが示されている。そのため、「南欧3カ国」それぞれの政治的な特徴を専門の立場から分析することが第一の柱となる。 南欧三カ国において福祉国家の再編・政治経済の改革論が強まっているものの、単にそれを経済政策的見地から取り上げるのでなく、政党政治の観点からの分析が必要である。全国レベルでの政党制について、二大政党の議席の寡占が顕著であるスペインと、新規参入政党が急速に勢力を拡大するイタリアの対照性を前提に、政党システムと政党と政府間の関係が今後の比較の軸となる。また、スペインとイタリアにおいては共に課題とされる中央地方関係の再編についても、両国において政党が中央地方関係に果す役割が異なる。 第二の柱として、危機における南欧各国政府とEU,ECBとの関係が検討の焦点となる.この検討について、昨年度はEUやユーロについての国毎の認識や支配的言説の一端が分析されたが、本年度は、そういった分析を進めつつ、EU、ECBレベルでの政策決定への影響力行使の余地や各国の政策の裁量にも視野を広げ、単なるEUレベルからの政策のダウンロードでない、国毎の政策決定のパターン認識が課題となる。 こうした課題の実現のため、予算に負担が多いものの、三カ国の相違を比較検討が重要と成、共同研究者間の分析の突き合わせを行なう研究会の実施、および対象国研究者との交流や現地調査の実施に昨年度以上に力点を置いた共同研究を推進する。
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Research Products
(11 results)