2015 Fiscal Year Annual Research Report
ユーロ圏危機下における南欧政治の構造変容に関する比較研究
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25285043
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
野上 和裕 首都大学東京, 社会(科)学研究科, 教授 (90164673)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
細田 晴子 日本大学, 商学部, 准教授 (00465379)
横田 正顕 東北大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (30328992)
西脇 靖洋 山口県立大学, 国際文化学部, 准教授 (40644977)
深澤 安博 茨城大学, 人文学部, 名誉教授 (60136893)
伊藤 武 専修大学, 法学部, 教授 (70302784)
八十田 博人 共立女子大学, 国際学部, 准教授 (70444502)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ユーロ圏危機 / 南欧政治 / 福祉国家 / 政党政治の危機 |
Outline of Annual Research Achievements |
ユーロ圏危機は、危機の端緒が国際的な金融危機であるにもかかわらず、各国での発現の仕方に大きな相違があり、国際経済における地位と国内経済の構造的な差異に注目が集まっている。しかし「新自由主義の奇妙な不死」とコリン・クラウチが述べたように、経済学的には異論の多い緊縮政策がトロイカを初めとする国際機関やドイツ政府などにおいて信奉されており、そのような政策が唯一の可能な処方箋として各国政府に要求された。そこで南欧諸国では、それぞれの経済的苦境が国内的な経済政策や経済構造に起因するものか、それとも国際的な経済的危機によって引き起こされたのか、それとも押しつけられた危機対応政策自体が危機の発生源なのか、論争を引き起こしている。本研究会のこれまでの研究成果において、少なくとも政治的な帰結において、南欧三国の間で大きな相違が見られた。そこで、本研究においても、各国の国内政治状況に照らしての研究が進められている。 南欧三国の研究の焦点は、内政については、緊縮政策の批判にさらされたそれぞれの国の政党政治の頑強性および緊縮政策で最も大きな打撃を受けた福祉政策におかれて進められた。前者について、イタリアについて、伊藤教授が歴史的変遷を踏まえた分析を単行本として出版した。スペインについて野上が政党政治を、細田准教授が対外関係を纏めた学会発表を行ない、深澤名誉教授がそれについてコメントを担当した。また、ポルトガルについて、西脇准教授が論文を発表している。横田教授は、両国の比較を進め、ギリシアとの比較を踏まえた論考を発表した。 福祉政策の変容について、横田教授がスペインについて、また、伊藤教授がイタリアについて論文あるいは学会発表を行っている。 なお、マドリード駐箚日本大使館経済分析担当者(スペイン人研究者)を招いた講演会を11月8日に行ない、経済的な視点を得るとともに、その政治的な含意について討論を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
個別の論文および学会報告は活発に行なわれ、スペイン、ポルトガル、イタリアの個々の国についての分析において研究が進展し、口頭および論文による成果報告も活発に行われた。また、この3カ国相互の比較および南欧のユーロ危機を象徴するギリシャとの比較研究も行われた。つまり全体として研究は相当程度進捗しており、その点で一定の成果を上げている。 複数の研究者が同時並行的に研究を進めているだけに、計画初年度及び2年度には研究会を開催して、意見交換を進めた。第3年度は、上記の口頭報告および執筆論文を相互に参照することによって、比較研究にとって必要な相互刺激を行った。 本研究会は、これらの比較政治学的研究の成果をより綿密につきあわせるといった野心的な試みを考えていた。しかし、これら個別の研究を相互につきあわせる機会として可能性を探っていた上記3当事国の研究者を招聘する作業は、3国において必ずしもユーロ危機についての政治学的分析が進んでいないこともあって、翌年度に延期せざるを得ず、また、本研究の代表者・分担者による単行本の編纂も出版社との交渉のため具体化が翌年度に回されざるを得なかった。 全体として研究が順調に進捗しているものの、これらの点において作業を翌年度に回さざるを得なかったため、上記の評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
ユーロ圏危機下の南欧諸国の政治は、そもそもユーロ圏危機の性格をめぐる意見対立に加え、南欧政治の独自性の把握についても意見の相違が顕著である。前者については、南欧で経済危機が他の地域より激化した理由を国内経済構造や政策に求める議論もあれば、国際経済の影響の地域的な相違や緊縮政策の逆効果を指摘する議論も存在する。政治についても、政治的クライエンテリズムおよび家族主義Familialismが南欧の共通項として存在するか、あるいはいまだに存続しているかといった点で見解の対立が存在する。本研究は、緩やかに焦点を各国の議会制・政党政治、福祉政策、対EU関係に起きつつ、これらの見解の相違についてあえて意見を統一することなく、むしろ異なる対象に規定された相互の異なる見解を尊重しつつ、南欧におけるガバナンスの変容に多様な視点からの総合理解を図る。というのも、政治的クライエンテリズムや家族主義などの論点について、いまだそれらが存続しているという見解を有する研究者がその変容を論じ、その終焉を唱える研究者がそれらの過去の形態の一定の影響を視野に入れているのであり、現実に共通了解の範囲が広いからである。本研究会は、従前の論争に広範な共通了解の地点が存在することを前提として、政治分析における多様な視角のメリットを生かして、個別研究者の研究発表を継続するとともに、相互の意見の交換をより活性化するための機会を拡充するため、本研究会を中心とした論文集の出版を目指して、出版元との調整を進める。 また、イタリアにおける研究者との交渉を進め、可能であれば来日講演会を開催し、各研究者の意見交換の密度をいっそうに高める契機としたい。
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Causes of Carryover |
イタリア政治・経済の専門家をイタリア本国から招聘して講演会を開催する可能性を探っていたが、イタリア本国でも研究者が少ない分野であるため、協議が不調に終った。そこで、そのために使用を抑えていたが研究費を翌年度にまわし、国外の研究者の招聘事業の可能性を探りつつ、次年度で有効利用することとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2016年度が最終年度であるので、ユーロ圏危機の当該国の研究者の招聘交渉を行ない、招聘が可能であれば日本国内に招聘して本研究会の研究者と日本国内で研究交流を進める。この招聘は、現地研究者との日本の研究者との意見交換及び本研究への参加者相互の研究の突き合わせのふたつを目的としているが、招聘の見込みがなければ、本研究会の参加者が現地に赴いて現地の研究者との研究交流を進めるか、あるいは本研究会参加者の相互の研究をつきあわせる機会の設定する資金に上積みをする計画である。
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Research Products
(15 results)