2013 Fiscal Year Annual Research Report
欧州金融危機と技術革新:欧州企業のパネルデータによる実証研究
Project/Area Number |
25285068
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
小川 一夫 大阪大学, 社会経済研究所, 教授 (90160746)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
得津 一郎 神戸大学, 経営学研究科, 教授 (80140119)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 欧州金融危機 / 技術革新 / 研究開発投資 / 政府債務 |
Research Abstract |
本研究の目的は、欧州金融危機の発生メカニズムを実物的な側面から解明することにある。欧州金融危機の根源的要因として北ヨーロッパと南ヨーロッパの企業の技術革新行動の違いに着目する。技術革新活動が南ヨーロッパの企業において相対的に抑制的であれば、それは両者の間に生産性格差をもたらし、一国の財政構造ひいては政府債務水準にも影響を及ぼすことになる。本研究では、欧州企業のミクロデータを用いて、この仮説に実証的な検討を加える。 平成25年度には、技術革新行動のうち研究開発(R&D)投資行動に着目し、R&D投資行動を実証分析する際に依拠する理論モデルを企業の動学的な最適化行動という視点から構築した。理論分析を行う際にR&D投資に影響を及ぼす税制度や特許制度について十分なサーベイを行った。 理論モデルの構築と平行して、企業のR&D投資行動を実証分析するために用いるデータの整備を行った。まず、予備的な分析として、欧州諸国をクロスセクションの単位ととらえマクロ時系列データから構築されるパネルデータを用いて、各国の総要素生産性(TFP)を計算し、R&D投資、政府債務との関係について簡単な実証的な分析を行った。この国別パネル分析の結果は、今年度に行われる企業パネルデータを用いたR&D投資と生産性の関係に関する分析と併せて、企業の技術革新行動が政府債務に及ぼす影響を定量的に評価するために使用される。データ整備の第2の作業は、欧州企業の財務データを提供しているビューローバンダイク社から包括的なデータベースであるAmadeus(アマデウス)を購入してデータ整備を行ったことである。このデータベースから分析に必要な欧州企業の財務データを抽出して、推定に用いるデータベースを構築した。各国間で整合的な形で貸借対照表、損益計算書の諸項目を抽出し、R&D投資行動、生産性分析に必要なデータを整備した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度の当初に提出した研究実施計画が予定通り進捗した。研究実施計画では3つの研究作業に着手することが述べられた。それらは、1)R&D投資行動の理論分析、2)欧州諸国のマクロデータに基づく生産性、技術革新行動そして政府債務の関係についての実証分析、3)欧州企業の財務データを中心としたパネルデータベースの構築 である。これら3つの作業が予定通り進められ、いずれの目標も達成された。特に、欧州諸国のマクロデータに基づく生産性、技術革新行動そして政府債務の関係についての実証分析の結果をめぐっては、海外研究協力者であるオランダのグローニンゲン大学経済学部のエルマー・シュタルケン教授、ヤン・P.A.M.ヤコブス教授と意見交換を行った。その結果、今後の研究方向についても大きな示唆が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、前年度に構築した企業のR&D投資行動の理論モデルから導かれるR&D投資関数を推定する作業に従事する。計測作業に用いるデータは、Amadeus(アマデウス)を原データとして前年度にデータ整備を行った欧州企業の財務パネルデータである。パネルデータからモデルの動学的特性をフルに引き出すために、dynamic panel modelの計測手法を用いて推定作業が進められる。また、得られた推定結果から、企業の過剰債務、ガバナンス構造、各国の特許制度や投資促進税制がR&D投資に対してどのような影響を及ぼすのか、定量的な評価を行う。とりわけ、R&D投資の諸制度に対する反応が北ヨーロッパ企業と南ヨーロッパ企業においてどのように異なるのか、その比較分析に重点を置く。さらに、企業や銀行の財務状況が資金調達のチャネルを経てR&D投資に与える影響についても分析を加える。 R&D投資行動の分析に次いで、R&D投資と企業の生産性の関係について、同じ財務パネルデータを用いて計量的分析を行う。まず、生産性指標として企業の総要素生産性(TFP)を国別、産業別に算出し、記述統計に基づいてその特徴を概観した後、計量経済学的手法に基づいて両者の関係について定量的な分析を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
欧州企業の技術革新行動と政府債務の関係について、意見交換を行う目的で欧州の研究者を招聘する予定であったが、日程調整がつかず実現できなかった。そのための旅費・謝金等が未使用に終わり次年度に繰り越すこととなった。 未使用金額については、今年度に技術革新行動の分野における欧州やわが国の研究者を招聘し、意見交換を行うための旅費・謝金に充当する。
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Research Products
(3 results)