2013 Fiscal Year Annual Research Report
公共財としてのワクチン接種におけるpeer effectsの理論的・実証的研究
Project/Area Number |
25285089
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
板谷 淳一 北海道大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (20168305)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
井深 陽子 東北大学, 経済学研究科(研究院), 准教授 (20612279)
宮里 尚三 日本大学, 経済学部, 准教授 (60399532)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 予防接種 / 公共財 / フリーライダー / peer effect / 自発的供給 / 外部性 |
Research Abstract |
本研究では、予防ワクチンの接種行動について、経済学的見地から分析し、その対策の有用性について検討することを目的としている。予防ワクチンの接種は公共財的な性質を備えており、接種行動は公共財の自発的供給の一種と考えることができる。本研究ではワクチン接種に対する価格差以外の要因として、特にpeer effects(同僚間相互効果)に着目し理論的・実証的に分析を行っている。実証分析では、市区町村レベルのデータからの分析に加え、ある市(匿名)のワクチン接種記録の個票データの利用の準備を進めた。さらに、その個票データに加え、アンケート調査の準備も進めた。それら個票データとアンケート調査のデータを用いてワクチン接種行動におけるpeer effectsの識別においてより精度の高い分析を行うことが可能となる。今年度は主にデータの整備に多くの時間を割いたため、精緻な実証分析の結果はまだ出ていないが、次年度は整備を行ったデータをもとにより精度の高い実証分析を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究計画の達成度であるが、本年度は市区町村レベルのデータの分析に加え、ある市(匿名)の個票データの利用の準備とさらにアンケート調査の準備を進めた。まず市町村レベルのデータを用いた分析では、さまざまな予防ワクチン接種の状況が市区町村レベルで収集されている『地域保健・健康増進事業報告』を利用した。ここで、麻疹・風疹の予防接種について説明すると、一類定期接種と呼ばれ全額公費負担が原則となっている。実際、厚生労働省の資料によると99.6%の市町村で全額公費負担(つまり個々人にとっての接種費用は無料)となっている。また、65歳以上のインフルエンザ・ワクチン接種については、二類定期接種と呼ばれ全額公費負担ではないが、多くの市区町村で低額で接種が可能となっている。ここで、市町村別の麻疹・風疹ワクチンの実際の接種率は2002年のから2008年のデータで確認すると平均73.51%、標準偏差23.97%ポイントと、全額公費負担であるにも関わらず、接種率にバラツキがあることが分かる。この事は、予防接種の意思決定において接種費用という価格の差以外の要因も大きく影響していることが市区町村レベルのデータからでも示唆される。今後は匿名の市の個票データやアンケート調査なども利用して、接種費用の価格差以外の要因について特にpeer effectsにフォーカスを当てて分析を行う。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は匿名の市のワクチン接種に関する個票データや独自のアンケート調査を主に利用して実証分析を進める。個票データの利用は、市区町村レベルのデータでは得られない、個人の年齢や性別などの属性、さらに個人の居住地などの情報が得られることにある。特にpeer effectsの効果を見るために個々人の物理的な距離は重要な情報であるため、個票データを利用する大きな利点となる。さらに本年度は独自のアンケート調査も行う。Peer effectsについての個票を用いた分析については、その識別に困難も伴うことが予想される。特に、自分の行動が相手の行動に及ぼす影響と、相手の行動が自分の行動に及ぼす影響を区別することが難しい点がある。この問題点を解決する方法として、Regression Discontinuity Design(RDD)による識別法により対処する。アイディアを説明すると、日本における予防接種の自己負担額は65歳を境にジャンプがみられる。65歳以上の個人に対してインフルエンザは、原則として自治体より公費での費用助成が行われる。一方で、64歳以下であれば任意の予防接種で原則として費用は自己負担となる。このため65歳以上の集団と65歳未満の接種率は大きく異なる。RDDを用いた場合には家計の構成員の1人が64歳から65歳へと変化した場合に、その個人にとっての予防接種費用には変化があるが、他の64歳未満個人については費用の変化がない。他の条件がすべての家計の構成員に共通であることを考えると、64歳未満の個人の予防接種行動の変化が(仮にあるとすれば)、peer effectsの影響であると考えることができる。このアイディアをアンケート調査で行い、実際の実証分析を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度、アンケート調査の開始が遅れて、十分なサンプル数を得るためのアンケート調査が実施できなかっため、予定されていた支出予定額をすべて出費できなかったため。 次年度も、前年度に引き続いて、前年度実施できなかった残りのアンケート調査を実施する予定であり、次年度で残額を支出予定である。
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Research Products
(5 results)