2015 Fiscal Year Annual Research Report
インドにおける都市消費市場の構造と農村・都市間の物的人的循環:生活文化の視点から
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25285109
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Research Institution | Meijo University |
Principal Investigator |
杉本 大三 名城大学, 経済学部, 准教授 (90434620)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
井上 貴子 大東文化大学, 国際関係学部, 教授 (10307142)
杉本 良男 国立民族学博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 教授 (60148294)
杉本 星子 京都文教大学, 公私立大学の部局等, 教授 (70298743)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | インド / 広告 / 消費 / サリー / 宗教 / 食料 / 都市農村関係 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、近年のインドの経済発展や都市・農村関係の変容を含むインド社会の変動が、都市消費をどのように変化させているのかについて、以下の4つの成果を上げた。第1に食料消費について、全国標本調査の分析から、農村部及び都市部の肉体労働者を含む貧困層の食事が、配給制度によって供給される安価な穀物や、輸入自由化によって低価格化した食用油に大きく依存するようになっていることなどを明らかにした。 第2に衣料について、タミル語雑誌広告の分析から、素材やデザインなど点でサリー消費の多様化が進展していること、特定の産地のサリーがブランドとして確立される一方で、複数の産地の特徴をもつブレンドサリーが登場していることなどを明らかにし、これによってサリーをめぐるブランド消費と疑似ブランド消費の具体的な姿を提示した。また、タミルナードゥ州各地で小規模な調査を行い、消費の変化や、政府の政策がサリー産地の盛衰に大きな影響を及ぼしていることを明らかにした。 第3に、タミル語雑誌2誌に掲載されている広告の、20世紀前半から2010年代にいたる長期の統計分析に取り組み、人気商品が日用雑貨から家電や病院・学校へと変化したこと、女性が消費者として重視されるようになってきたことなどを実証した。このことにより、中間層の消費生活とその背後にある価値観の変化が、雑誌広告の分析によって改めて裏付けられた。 最後に宗教に関しては、タミルナードゥ州農村での現地調査で得られた資料の分析の結果、特に21世紀に入って、農村社会においてヒンドゥー寺院などの宗教施設の復興ブームが起こっていること、そこでは個人の篤志が重要な原動力であり、都市移住者などの外部者の強い関与が認められること、その結果こうした宗教施設がグローバル化や経済発展の進行にともなって、いわゆるパブリック・スペースとしての 機能を失いつつあることなどを実証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究の第1の課題である、都市部における消費の実態解明について、研究の進捗状況は以下の通りである。第1に全国標本調査に基づく食料消費の分析では、分析期間を2009年まで延長するとともに、食品の調達方法など新しい視点からも研究を行い、新しい知見を得た。第2に、衣料消費についても、タミル語雑誌広告による消費の分析を終えており、期待通りの成果を得た。第3に、タミル語雑誌『アーナンダ・ヴィガダン』と『クムダム』の2誌に掲載されている全広告の統計分析も予定通り進んでおり、都市の消費の変化をその背後にある価値観や生活様式の変化とともに明らかにすることができた。第4に、宗教の消費に関しては、タミルナードゥ州での村落調査に基づき、都市部住民の関与する寺院復興をとらえることに成功している。 次に、本研究の第2の課題である、都市における消費の農村的基礎の解明と、都市と農村の人的交流に基づく結合関係の検証については、以下の成果を得た。第1に、食料消費の実態解明を進める中で、都市部と農村部における食料消費に共通性がみられることや、都市部と農村部の肉体労働者の食料消費が徐々に似通ってきていることなどが解明された。第2に、宗教の消費について検討を進める中で、農村部で見られる寺院復興が都市部の経済発展と密接に結合していることを明らかにした。以上の研究成果を公表するために、2015年9月27日に東京大学で開催された日本南アジア学会でセッション「現代インドの消費変動と社会システム」を組織し、研究代表者と研究分担者による4つの研究報告を行った。 以上のように、本研究は計画した課題をかなりの程度達成しており、その成果を既に学会において報告しているが、都市労働者の消費動向に関する分析が不十分であることから最終成果物の出版に到らなかった。このため、進捗状況については、遅れていると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で計画した課題の分析そのものは都市労働者の消費動向に関する歴史分析を除いてほぼ終了している。本年度は遅れている分析を早急に完了した上で、昨年度実施した日本南アジア学会全国大会での報告の内容を中心に研究チーム全員が論文を執筆し、論文集の形でとりまとめる。
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Causes of Carryover |
都市労働者の生活の変化を歴史的に明らかにするためにインド政府が発行している「都市労働世帯家計調査報告書」を分析する予定であったが、研究分担者の構成に大きな変動があったことを一因として、十分な研究を行うことができず、最終的な論文集をとりまとめることができなかった。この結果、成果報告書作成のために計上していた予算を使用することができなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は研究成果を論文集を取りまとめ、関係する研究者に配布する計画である。今回発生した未使用額は、そのための印刷費、英文校閲費等に使用する。
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Research Products
(12 results)