2013 Fiscal Year Annual Research Report
感覚情報と運動の実時間同期メカニズムの解明-発声模倣能力を手掛かりにした研究
Project/Area Number |
25285198
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
関 義正 東京大学, 総合文化研究科, 助教 (50575123)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 実験心理学 / 発声学習 |
Research Abstract |
初年度である当該年度は、限定的な発声模倣能力を持つジュウシマツを被験体とした。この種のオスのヒナは成鳥のさえずりを聞いてそれを模倣する。また、その模倣のための神経系はオスのみに見られる。加えて、成鳥になってからも、さえずりの際にはそれら神経系が活動する。そこで、発声模倣能力とリズム感の関連を検討する材料として、この鳥類種について、一定のテンポで提示される聴覚刺激に合わせた「つつき行動」を生成するようオペラント条件付け技術を使って訓練した。 オス・メスの成鳥2羽ずつについて、一定テンポで提示される視聴覚刺激に対し、連続5回のつつき行動を生成するよう訓練できた。テンポについてはすべての個体について、600ms、900ms、1200ms、1500msの各条件で実験した。また不定テンポ(600msから1800msまでのランダムな間隔)で提示される刺激に対するつつき行動も記録し、その応答時間と、一定テンポで刺激が提示された場合とでつつきタイミングを比較することができるようにした。 データの分析結果からは、ジュウシマツが刺激のタイミングからリズムを抽出し、そのリズムにあわせて能動的かつリズミカルに運動することを示す証拠は得られなかった。申請者らによるセキセイインコを用いた過去の研究では、刺激のオンセット付近でのつつき行動が多くみられたことから、鳥が刺激からリズムを抽出し、刺激の提示タイミングを予測できると結論したが、ジュウシマツのつつき行動はオス・メスともに刺激の提示に対する応答として解釈可能であった。これはセキセイインコの発声模倣が生涯続くのに対し、ジュウシマツのそれがヒナの時期においてのみ生じることに起因するのかもしれない。 いずれにせよ、当該年度の結果から鳴禽類である小鳥を用いた実験についてのノウハウを蓄積し、システムの開発もできたため、発声模倣行動の異なる種を用いた次の段階に実験を進めることが可能になった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
実験動物として非常に手ごろなジュウシマツを用いて、なんらかのリズム同調行動がみられることを期待していたが、当該年度の研究からは、それを示す証拠は得られなかった。そのため、ジュウシマツを用いて実験を進めることができず、別の動物種を使わざるをえなくなったという点で遅れを生じた。 しかし、いくつかの動物種を使い、それらを比較するという点は当初の実験計画の予定の範囲であり、また、ジュウシマツにおいてリズム同調が見られなかった要因を議論することは、本研究課題全体から見て重要な知見を提供し得るものである。当該年度の実験から、セキセイインコを用いた過去の研究で得られた結果が、どんな動物種を用いても普遍的に得られる結果ではない、ということが示された。このことから(ジュウシマツに見られるような限定的な発声模倣能力ではなく)インコ(やヒト)のような動物が持つ、より可塑性の高い、生涯にわたる継時的な発声模倣能力が、外から与えられるリズムのテンポに合わせた身体運動に関係する、という仮説を引き出すのにつながった。また、当該年度に開発したシステムは、次年度以降行う予定の、別の動物種を用いた、より確度の高い実験に使用する。よって、当該年度の進捗状況については、達成度という点からすればやや遅れを生じたということになるが、得られた結果自体については、研究に期待される成果全体から見て意義のあるものであったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
新年度から研究代表者の所属が変わったため、まずは新たに研究施設を構築し、実験システムを設置する。当該年度の結果を受けて、被験体を変更することが必要になったが、その候補の一つとしてカナリアを使うことを検討している。この種はジュウシマツと同様、スズメ目に属する鳴禽類であるが、毎年新たなさえずりを獲得することができるという点で、ヒナの時期にのみさえずりを獲得するジュウシマツとは異なる。そのため、この種を用いることで、セキセイインコを含むオウム目が示すリズム同調能力が、生物種分類群(オウムであるか、鳴禽類であるか)による制限を受けずに見られるのかどうか、つまり発声模倣能力それ自体と関連するのかどうかを確認することができると考えている。 結果次第でその先にある生理実験の被験体を決定し、発声模倣能力に関わる神経系とリズム同調能力との関連について直接的な検討を開始する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該年度に用いたジュウシマツでの実験次第では、ただちに生理実験を行うための機材を購入する予定であったが、実験の結果、生理実験の被験体とする動物種の変更が望ましいことがわかった。 また、当該年度途中で研究代表者の翌年度の所属の変更が決まった。それに基づき、実験施設の移設に関わると予想される費用についても検討した結果、生理実験に用いる機器は新たな施設に移転してから設置することが望ましいと考えた。そのため、生理実験に関わる機器の購入を次年度に持ち越した。 当初購入する予定であった生理実験に関わる機器(マイクロスライサー、顕微鏡等)を購入する。
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Research Products
(2 results)