2016 Fiscal Year Annual Research Report
感覚情報と運動の実時間同期メカニズムの解明-発声模倣能力を手掛かりにした研究
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25285198
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Research Institution | Aichi University |
Principal Investigator |
関 義正 愛知大学, 文学部, 准教授 (50575123)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 実験心理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度までに、オペラント条件付けの手法により、発声学習能力を持つジュウシマツにメトロノームに合わせたキーつつき運動を行わせ、リズム同調能力が見られるかどうか、さらに身体運動におけるリズムの再生(再現)能力があるのかどうかを検討するためのデータを得た。本年度、そのデータを詳細に分析したところ、そこに見られるリズミカルな運動パターンが個々のメトロノーム刺激への単純な応答から生じたものであることを示唆する結果を得た。これは、つまりジュウシマツがリズムを予測して能動的にメトロノーム刺激に同調することを示す証拠は得られなかったということを意味する。この結果は、同様に発声学習能力を持つセキセイインコにおける実験結果とは異なるものであった。しかしながら、同時に、ジュウシマツの身体運動におけるリズムの再生能力については、そのような行動が報酬の獲得につながる状況では、訓練次第でこれが引き出され得ることを示す結果を得た。これらを総合的に解釈するなら、ジュウシマツはリズムのタイミングを覚えてこれを自身で表現する能力を潜在的には有するものの、これは能動的に行われるわけではないと考えられる。この研究結果をまとめた論文については現在、英文学術誌において査読を受けているところである。 以上を受け、本年度はさらに、セキセイインコを用い、自発的なリズムの生成、あるいは身体運動が外的なリズムに「引き込まれる」現象が起こるのか、つまり、ヒトが歩くときに行進曲につられて足が動いてしまう、というのと似た現象が見られるのかをどうかをオペラント条件付けを用いた実験により検討した。今のところ、ほとんどの個体において、つつき運動においてリズムへの引き込みは観察されていない。しかしながら、一部の個体においては、引き込みと解釈するのに矛盾しないデータが得られており、現在この点を詳細に検討しているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
鳴禽類のジュウシマツとオウム目のセキセイインコという発声学習能力を有する2種類の動物を用い、オペラント条件付けを行うことができている。これらについては予定通りである。本研究においてはリズム同調能力と発声学習に関わる神経系との関連を検討する予定であった。実際にそれら神経系についての研究がより進んでいる鳴禽類のジュウシマツについては、発声学習の中枢である神経核HVCを損傷したあとで、オペラント条件付けを用いたリズムの再生を行わせる課題を行わせた。しかしながら、損傷前と有意に異なる結果は得られなかった。そのため、神経系との関連については研究の方向性を見直すことも検討しており、それゆえに「おおむね順調」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
現時点までに、発声学習能力が能動的なリズム同調能力に関わることを示す直接的・決定的な証拠は得られていない。しかしながら、能動的なリズム同調を示さないジュウシマツにおいても潜在的にはこの種の能力を有する可能性が示唆されているため、今後はヒトにおいて、このような能力が能動的にあるいは不可避的に示されるのはなぜかを動物とヒトの直接的な比較実験により検討する予定である。また肯定的な結果は得られないかもしれないが、神経科学的手法を用いた実験によりこれまでの結果をサポートしていくことを検討している。 現在までに、他個体との同調に関わる論文1報が受理され、成果の概要を述べた論文および、原著実験論文が査読を受けているところであるが、これに加えて年度末までにもう1報の実験論文を公表する予定である。
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Causes of Carryover |
昨年度から引き続き本研究に参画予定だった研究補助者の予定が急遽変更となった。その欠員を補充することができず、そのため、主としてその分の人件費が未使用となった。 また、海外での学会発表を見送ったことや学術誌への論文の査読に時間を要していることから、それに係る諸費用が執行されなかったことも一因である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の研究では研究補助者を採用することが決まっており、本年度の未使用額はその人件費に充て、研究のまとめを加速することとする。加えて、本年度見送った海外での成果発表と論文の刊行を行う費用として充当する。
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