2014 Fiscal Year Annual Research Report
高真空環境下でのポリマーブラシ形成と有機エレクトロニクス界面制御への応用
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25286022
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
臼井 博明 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60176667)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ナノ加工・形成プロセス / 自己組織化 / 表面・界面物性 / 複合材料・物性 / ポリマーブラシ / 蒸着重合 |
Outline of Annual Research Achievements |
一般に有機/無機界面は安定な化学結合を持たず、これが力学的・電気的欠陥を生じる一因となっている。本研究では、自己組織化膜(SAM)を介し、安定な共有結合で無機基板表面に結合したポリマーブラシを成長させることを目的とし、物理蒸着による高分子薄膜形成を行う。 無機酸化物基板表面に、ベンゾフェノン、アゾ基、エポキシ基、及びビニル基等の反応性末端を持つSAMを形成し、この表面にビニルモノマーを真空蒸着した後、紫外線照射あるいは熱処理によって高分子薄膜を成長させた。このようにして形成した高分子薄膜は、有機溶媒によって剥離や溶解することなく、基板表面に安定に固定化されていることが見出された。さらに、正孔輸送性ビニルモノマーを用いて形成した高分子薄膜の電圧-電流特性を測定した結果、ポリマーブラシを形成することによって界面の電荷トラップあるいは再結合中心が減少し、無機/有機間の電荷注入特性を改善できること示された。 次に難溶性高分子材料への適用を目的として、ジアミンとカルボン酸二無水物を共蒸着し、得られた薄膜を熱処理することによって、無溶媒環境においてポリイミド薄膜を成長することに成功した。但しポリイミドのような難溶性高分子は構造が剛直なため、立体障害が少なく屈曲性のモノマーが製膜に適していることが判明した。このような高分子薄膜をポリマーブラシ化するために、アミノ末端あるいはカルボン酸末端を持つSAMを無機基板表面に形成し、その表面でのポリイミド蒸着膜の形成を試みた。その結果、ポリイミド薄膜は分子鎖を基板に対して立てて配向し、SAM処理が分子配向及び膜のモルフォロジーを左右することが見出された。従って剛直・難溶性高分子であっても、無溶媒プロセスによってポリマーブラシ化することが可能であるとの見通しが得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
従来のポリマーブラシは液相中で形成されてきたため、プロセス的に材料及び構造制御に対する自由度が制限されてきた。これに対し、これまでの成果によって無溶媒の蒸着プロセスによってポリマーブラシが形成できることが見出され、溶媒によって制限されない新たな材料及び構造へと展開できる可能性が示された。ポリマーブラシの成長方法としては、ビニルモノマーを用いたラジカル重合系に加え、ポリイミドが代表するように、共蒸着による重縮合系の成長も可能であることが確認された。特に後者の成果は、重付加など様々な逐次重合系への展開可能性を示唆するものであり、無溶媒プロセスによって種々のポリマーブラシを形成できるとの見通しを付けることができる。 ポリマーブラシの物性としては、無機/高分子界面の付着強度の顕著な改善が見られたことに加え、電気的接合として電荷注入特性を改善できることが見出されている。これらの特徴は特に有機デバイス作製にあたって有用であり、今後の応用展開が期待される。 現状の課題としては、逐次重合系のポリマーブラシ成長では、反応性及び機能性それぞれの面からモノマー構造を最適化する必要があり、材料探索を並行して進める必要がある。また、酸化インジウムスズなど、デバイスの電極として実用的に用いられる無機材料表面では、自己組織化膜の構造を特定し難い点も課題であり、結晶シリコンあるいは優先配向した金属蒸着膜などの表面でのモデル実験を並行して進めることが有用と考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの結果から、ポリマーブラシは無機表面に共有結合で固定されるため、安定性が高く、構造的な欠陥の少ない界面を形成することが明らかとなっている。これは接合が密接で、電荷注入特性に優れた電極界面の形成に好適である。さらに無溶媒で形成できる点は、電子デバイスの構築に有用である。そこで次の段階として、蒸着法を用いて形成したポリマーブラシの界面の電気的特性を詳細に評価し、その特徴とデバイスとしての適合性を明らかにする。特に平成27年度は、無機/ポリマーブラシ界面の電子物性を詳細に解明することを目的として、インピーダンス分光法を用いて評価する。これによって界面の電荷トラップ密度及び電荷移動度を求めることができるので、ポリマーブラシ形成プロセス及びポリマーブラシ材料と電気的特性の関係について考察する。 次に、このようにして形成したポリマーブラシのデバイス応用を展開する。電荷注入特性の利点を活かすために、ポリマーブラシ表面に発光性有機層、電子注入層、及び陰極を順次蒸着することによって有機発光素子を形成し、ポリマーブラシの形成プロセス及び構造が発光特性をどのように左右するかを明らかにする。またポリイミドなど絶縁性ポリマーブラシの応用としては、有機薄膜トランジスタのゲート絶縁性、有機メモリーなどが考えられ、ポリマーブラシ化による電荷トラップの変化がデバイス特性にどのように寄与するかを明らかにする。
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Causes of Carryover |
平成27年度は設備備品として、高額の設備(インピーダンスアナライザ)の購入を計画して予算申請したが、減額された交付額として採択された。平成27年度の予算計画は、設備備品の額が占める割合が高いため、予算を減額して計画し直すための余裕度が低い。このことを見越し、平成26年度は、特に人件費・謝金など、他予算での充当が可能あるいは支出の圧縮が可能な部分についてはできる限り利用額を節減し、平成27年度予算のバランスのとれた執行に向けて支出を留保した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度は設備備品として、高額の設備(インピーダンスアナライザ)の購入を予定しているが、この支出については削減が困難である。そこで予算申請額と交付決定額の差を補償するために、平成26年度基金分の残額を利用する。
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Research Products
(33 results)
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[Book] 有機誘電体・導電性電気電子材料研究の最前線とアジア諸国との交流2015
Author(s)
岩本光正, 小野田光宣, 間中孝彰, 伊東栄次, 臼井博明, 大澤利幸, 奥崎秀典, 梶井博武, 鎌田俊英, 工藤一浩, 杉村明彦, 馬場暁, 山田俊樹
Total Pages
89 (20-22)
Publisher
電気学会
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