2016 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
25287013
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
井関 裕靖 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (90244409)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
服部 広大 慶應義塾大学, 理工学部, 講師 (30586087)
勝良 健史 慶應義塾大学, 理工学部, 准教授 (50513298)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 剛性 / 離散群 / 調和写像 / ランダム群 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、離散群の超剛性という性質を、離散群の距離空間への作用に関する固定点性質等の性質のある種のexremalな状況として見直し、その幾何学的背景を明らかにすることを目的としていた。そのためには、種々の固定点性質を導く十分条件を明らかにし、そのような条件を満たす群の分布に関する考察を行う必要がある。 平成28年度は、この研究方針にしたがって、ランダム群のHilbert空間へのアファイン作用に関する固定点性質について考察した。これまで主に考察の対象としていたのは、離散群の距離空間への等長的な作用であった。一方、Hilbert空間には有界な線形変換と平行移動により生成されるアファイン変換と呼ばれるよい変換が存在する。離散群の剛性との関わりの深さが指摘されているKazhdanの性質(T)は、Hilbert空間への等長的作用に関する固定点性質と同値であることはよく知られている。一方、Lafforgue等はHilbert空間へのアファイン作用に関する固定点性質が、より強い剛性との関連をもつことを指摘している。(等長変換はとくにアファイン変換なので、アファイン作用に関する固定点性質は、等長作用に関する固定点性質より強い性質である。) このような背景の下で、連携研究者の納谷信とともに、グラフ・モデルのランダム群、およびプレイン・ワード・モデルのランダム群が、ある仮定を満たすアファイン作用に関する固定点性質を満たすことを示すことに成功した。ここでアファイン作用に課したのは、そのLipschitz定数が低い増大度をもつ、あるいはLipschitz定数が一様に有界、という仮定である。比較的強い仮定の下ではあるが、これらのランダム群がアファイン作用に関する固定点性質をもつことが示されたことは、強い剛性をもつ離散群が非常に多く存在することを示唆する興味深い結果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成27年度および平成28年度の2年間に渡って、想定していなかった用務が割り当てられ、当初本研究のために確保していた研究時間が奪われることとなった。本研究計画においては、固定点性質等に対するよい十分条件を与え、例えば、ある種のランダム群が強い固定点性質をもつことを示したのちに、その十分条件を仔細に検討することが、超剛性およびそれに類する性質の幾何学的背景を明らかにすることにつながると考えていた。「研究実績の概要」欄で述べたように、ランダム群が興味深い強い固定点性質をもつことは示すことができたのだが、研究時間が十分に確保できなかったため、この性質を導くために用いた十分条件に対する十分な吟味と検討を完遂することは叶わなかった。ここで導いた十分条件は、離散群が強い剛性をもつことと深く関係するはずだが、現時点ではこの方向での剛性現象の幾何学的な背景の解明は道半ばである。そのため、本研究課題の進捗状況は「やや遅れている」と判断せざるを得ない。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、等長的な作用を含む、より広いクラスの作用であるアファイン作用に関する固定点性質を、ランダム群のHilbert空間への作用に対して示すことに成功した。「研究実績の概要」欄でも述べたように、アファイン作用に関する固定点性質は、等長的な作用に対する固定点性質より強い性質である。Lafforgue等の研究は、Hilbert空間に対してこのような強い固定点性質をもつことが、より広いクラスの距離空間に対する等長的作用に制約を与えることを示唆している。そのため、このような強い固定点性質を導く十分条件を与えられたことには意味がある。実際、上で触れた Lafforgue 等の研究は、この十分条件を仔細に検討することが剛性現象の背景を解明する端緒となることを期待させる。この検討・考察を実行するためには、離散群論、ランダム群と関わる確率論、距離空間の幾何学等を専門とする研究者達との研究討論および情報交換が不可欠である。今後は、平成27年度と平成28年度には機会を見つけることが難しかった国内外の学会参加、研究者の招聘、研究集会の開催等を積極的に行い、これらの研究討論および情報交換の機会を増やす。 また、最近の研究代表者自身の研究から、本研究の研究計画の中で考察の対象としていた harmonic spread と、離散群のポアソン境界、およびポアソン境界から距離空間の理想境界への写像の存在との関わりが明らかになりつつある。今後は、離散群のポアソン境界の幾何学との関連にも注目しながら、本研究を推進していく。
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Causes of Carryover |
「現在までの進捗状況」欄でも述べたが、平成27年度と平成28年度の2年間に渡って、研究計画を立てた当初は想定していなかった用務を割り当てられたため、十分な研究時間を確保することができなかった。また、この用務の時間的束縛のために、研究討論あるいは情報交換のための出張、研究集会への参加の機会、さらには海外研究者を招聘して研究集会を開催する機会を設けることが困難となった。そのため、本研究計画を予定通りに遂行することができず、研究費に未使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
必ずしも十分な成果と言うことはできないが、平成28年度も、ランダム群がHilbert空間へのアファイン作用に関する固定点性質をもつことを示すことができた。この研究成果を、離散群論、確率論、距離空間の幾何学等の関連した分野の研究を行っている研究者の参加する研究集会等で報告する。さらに、平成28年度には十分な機会を設けることができなかった研究討論、情報交換を行うために、本研究に興味を示している研究者を、必要なら海外からも招聘し、研究集会等を開催する。次年度使用額はこれらの国内外旅費、および研究集会開催のための会議費等に充てる。
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Research Products
(2 results)