2013 Fiscal Year Annual Research Report
K+中間子崩壊のレプトン普遍性の破れの探索実験用エアロゲルチェレンコフ検出器
Project/Area Number |
25287064
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
豊田 晃久 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 助教 (20373186)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
今里 純 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, その他部局等, 名誉教授 (40107686)
清水 俊 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (60294146)
山崎 寛仁 東北大学, 学内共同利用施設等, 助教 (90260413)
五十嵐 洋一 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 講師 (50311121)
河合 秀幸 千葉大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (60214590)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 素粒子実験 |
Research Abstract |
本研究では前述した目的を達成するために前年度に製作した試作機を利用してJ-PARC K1.1BRビームラインにおいて実際の崩壊電子およびミューオンの運動量に近い250 MeV/cのミューオンおよび陽電子ビームを利用してビームテストを行った。その結果、課題であった以下の2つのポイントについて最適解を見つけることができた。 1つ目のポイントは反射体の選定である。反射材としては、3M社のESR2がよいと考えていたが、ビームテストの結果シンチレーション光を発生することが判明したため使用できないことがわかった。乱反射材と正反射材との比較では正反射材の方が優れた結果を得られることが判明し、反射体の選定が完了した。 2つ目のポイントはμのmisID対策である。エアロゲルチェレンコフ検出器(AC)において最大の問題はμをeと間違えるmisIDである。その最大の原因はμが発生するデルタ線であると考えられる。研究開始当時はエアロゲルの屈折率を下げることでデルタ線のエネルギーに閾値を設定することができるため、これによってmisIDを下げることができると考えていた。屈折率の異なる3種類のエアロゲルで実験を行ったところ、想定していたよりも光子数が少ないことが判明したため、むしろ限界まで屈折率を上げて効率を稼いだ方がよいことが分かった。 もう一つのポイントはエアロゲルの生成である。上記ビームテストの結果エアロゲルとしては屈折率n=1.08, 透過長TL=20 mmが最適であることが判明し、エアロゲル製作に着手した。できる限り効率よくチェレンコフ光を輸送するために、従来の分割したエアロゲルを組み合わせて使用する方法とは異なる、カウンターボックスの形状に合わせたモノリシックエアロゲルの製作にチャレンジした。 カウンターボックスに関しては上記試験結果を受けて実機の設計を進め、12セクター分を製作完了した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
反射材の選定に関しては、有力と考えていたESR2が使用できないことが判明したため、代替品としてアルミナイズドマイラーを使用した。この反射率の低下によって検出効率の低下が懸念された。またμのmisIDの側でも効率低下に伴ってデルタ線のエネルギー閾値を利用した方法が使用できなくなり、μのmisIDが高くなる懸念が生じた。ただし、実験の過程でエアロゲルの透過長(TL)に対する発光量の依存性が低いことが判明した。エアロゲルは通常製法では屈折率nが高いほどTLが低くなるため、超臨界乾燥法を利用してTLを高くする必要があるが、クラック率が高くなり歩留まりが悪くなり、モノリシックタイプを製作するのも難しくなる問題がある。上記のTL依存性の低さのため、通常製法のエアロゲルを利用できることが分かり、モノリシックエアロゲルを利用して効率を稼げる見通しがついた。この高いnによって光量を稼ぐことができ、シミュレーションおよびビームテストによる最適化によってえられた高い光輸送効率のミラーシステムによって、98%以上のe検出率をビームテストによって確認することができた。同時に光量が多いことによってフォトン数の検出閾値を上げることが可能になりμのmisIDも3%以下に抑えることに成功した。カウンターとしては実験に最低限必要な性能を得ることができた。 エアロゲルの製作に関しては、当初の計画通りさらなる効率上昇を目指して現在モノリシックエアロゲルの製作をすすめている。これがうまく行かなかった場合でも従来のタイル型のn=1.08, TL=40 mmのエアロゲル製作手法は確立しており、ウォータージェット加工した実績もある。実際上記ビームテストで使用したのはこのタイル使用バージョンであり、実験に最低限必要な性能が出ることは確認済みである。以上のとおりエアロゲルとしては量産までは進まなかったが手法としては確立しているため、順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進であるが、まず第1にモノリシックエアロゲルの試作に注力する。実験開始までのスケジュールを考えると5月末までが製造のリミットとなる。それまでに十分な歩留まりで製作できることが確認できた場合はモノリシックエアロゲルで実機用を製作する。難しい場合は境界面および加工面における性能劣化はあるものの、前年度のビームテストの結果、最低限の性能は出ることがわかっているので実験条件は満たすことができる。従来のタイル状のエアロゲルを実機用に製作し、いままで実績のあるウォータージェット加工を行う。並行して全体を支えるジグおよびデータ収集用のモジュールを製作および購入する。 上記によって完成したエアロゲルを前年度製作したカウンターボックスに組み込んで遮光試験を行う。以上によって12セクター分のエアロゲル検出器が完成する。別途用意される標的周りのカウンター群であるTOF検出器などと組み合わせて中央部検出器モジュールを完成させる。トロイダル電磁石に組み込んで宇宙線を利用した全系の測定器コミッショニングを行う。 平成26年11月から平成27年3月の間に J-PARCハドロン実験施設K1.1BRビームラインにおいてE36実験を遂行する。まず前半のビームタイムにおいて測定器の性能確認、パラメーター最適化、および較正を行う。荷電粒子の測定は、単色の運動量をもつK中間子の二体崩壊現象を用いて、運動量分解能が最大になるようにシステム全体を較正する。粒子識別の性能確認については、分岐比の大きい3体崩壊を利用する。前半のビームタイムの解析を行い測定器系に修正を加えた後に、後半のビームタイムにおいてE36実験を遂行し本実験データを取得する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究計画段階から起こりうると予想していた事態ではあるが、エアロゲルの試作に時間がかかっているため、量産を次年度送りにするためである。具体的には最も廉価に製作できる超臨界エタノール乾燥法を試したものの、タイル型も含めて分解してしまって使えないことが判明した。次善の策として費用と期間はよりかかることになるが、超臨界二酸化炭素乾燥法にて現在製作中である。 実験準備に間に合わせるためには5月末までの量産が必要である。よって、それに間に合うように4月末までの期限でモノリシックタイプのエアロゲルの試作を行う。もし予算内で製作できる程度のクラック率が達成できた場合は、モノリシックタイプのエアロゲル量産を行う。達成できなかった場合には従来型のタイル型エアロゲルの量産を行い、続けてウォータージェットによってカウンターボックス内に収まる形状に加工する。
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