2015 Fiscal Year Annual Research Report
バレー自由度を有するラシュバ系での特異な電子スピン物性
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25287070
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
坂本 一之 千葉大学, 融合科学研究科(研究院), 教授 (70261542)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小田 竜樹 金沢大学, 数物科学系, 教授 (30272941)
小野 新平 一般財団法人電力中央研究所, 材料科学研究所, 主任研究員 (30371298)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 表面・界面物性 / スピン軌道相互作用 / バレー自由度 / スピン偏極電子バンド / スピントロニクス |
Outline of Annual Research Achievements |
異方的な電子構造と特異なスピン状態を有するTl/Si(110)-(1×1)表面は、理論的なサポートを得るために不可欠である原子構造がこれまで不明であった。そこで低速電子線回折の電子エネルギーに対するスポット強度の変化を測定したところ、理想的な (1×1)表面でのp2mg対称性が、Tl吸着表面では単位格子中の2個のTl原子の高さが異なるためにp1m1対称性となることを明らかにした。また、ラシュバ効果によって発現する電子スピンの振る舞いが、束縛エネルギーの小さい領域では大きい領域と異なり、等エネルギー面でスピンの偏極ベクトルが面内かつ常に同じ方向を向くことを観測した。これまで観測されていた渦状のものと完全に異なるこのようなスピン構造の起源が表面の対称性を用いて簡単に説明できることも明らかにした。 Si表面上に作製したTlBi重元素合金の電子構造を高分解能角度分解光電子分光で測定し、表面ブリルアンゾーン(SBZ)のK点における巨大バレー構造のフェルミ準位付近での直線的なバンド分散を解析した結果、フェルミ速度がトポロジカル絶縁体で報告されたものと同程度であることがわかった。また、SBZのM点においてこれまで報告されてものよりも大きな巨大ラシュバ分裂を観測した。 電子ドープにより、SBZのK点で対称性に起因して電子スピンが表面垂直方向を向くバレー構造を有するTl/Si(111)表面をスピン分解逆光電子分光で測定した結果、このバレーバンドの非占有状態領域では電子スピンが波数空間においてツイストしていることを見出した。 グラフェン同様、K点において直線的なバレー構造を有する二次元有機分子シートの作製を目指し、Cu(111)表面に環状チアジルラジカルBDTDA薄膜を作製したところ、BDTDAがハニカム構造を形成し、フェルミ準位近傍にディラックフェルミオンが存在する可能性を示唆する結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記載した、Tl/Si(110)-(1×1)表面のバレー構造における波数に依存したスピン偏極電子状態をスピン・角度分解光電子分光により実験的にもとめたのみでなく、その原子構造を低速電子線回折の電子エネルギーに対するスポット強度の変化より明らかにした。また第一原子計算を用いて、実験よりもとめたスピン偏極電子状態と原子構造を確認するとともに、同表面の特異なスピン偏極電子構造の起源に関する知見を得た。さらに、表面の対称性と表面ブリルアンゾーンの対称点の対称性を考慮することにより、スピン偏極ベクトルの面内成分の振る舞いを簡単に予測できることを見出した。この結果は対称性を利用して新奇ラシュバスピンを有するバレー構造を発現させることができるのみでなく、その特異なスピンの振る舞いを簡単なモデルで説明できることを意味しており、他の系におけるスピンの振る舞いに応用できることから、対称性とスピンの偏極ベクトルという問題に大きな進展をもたらすものであり、当初の計画以上の成果といえる。 電子ドープしたTl/Si(111)表面においては、これまでバレーバンドのフェルミ準位以下の占有状態のみの情報しかなかったが、スピンの三次元情報を得ることができるスピン分解逆光電子分光装置を用いてバレーバンドの非占有電子状態の観測に成功し、スピンが面直方向のみを向く占有状態と異なり、非占有状態ではスピンの向きがツイストすることを明らかにしたのは、スピンフィルターとしてバレーを活用するときの電子のドープ量に関する指針を与えるものであり、当初の計画以上の進展である。 バレーを有する有機分子二次元シートの作製とその電子状態の観測という新しい試みに関しては、ディラックフェルミオンの存在を示唆する結果を得ることが出来、同二次元シートを用いたバレトロニクスの新しい可能性を示すことができたのも当初の計画以上である。
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Strategy for Future Research Activity |
高分解能角度分解光電子分光により、表面ブリルアンゾーンのK点とM点でそれぞれ巨大バレー構造と巨大ラシュバ分裂が観測されたSi(111)表面上のTlBi重元素合金二次元シートの波数に依存した詳細なスピン構造をスピン・角度分解光電子分光によりもとめる。得られた金属的なバレー構造のスピン構造からは、バレーのスピンフィルターとして可能性を議論する。また、この重元素合金二次元シートの周期性が基板に対して不整合であることから、走査トンネル顕微鏡でその構造を決定することができなかったため、今年度は種々の回折手法を用いて、理論サイドからのサポートに不可欠である同シートの原子構造を決定する。 バレーのスピンフィルターとしての機能を実験的に議論するため、マイクロ多端子プローブを用いてTl/Si(111)-(1×1)表面、Tl/Si(110)-(1×1)表面、TlBi重元素合金二次元シートの伝導測定測定を行う。また、表面垂直方向に100%偏極したスピンを有するTl/Si(111)-(1×1)に表面平行方向に電場をかけるとスピンホール効果が生じることが予想されることから、等間隔にステップが配列した微斜面Si(111)にTlを蒸着してバレーを作製し、走査トンネル顕微鏡でステップに平行方向に電場をかけた試料とかけてない試料を観測し、ステップ端の電荷密度の違いからスピンホール効果の可能性を探る。また、スピンホール効果の可能性がある場合はスピン偏極走査トンネル顕微鏡を持ちうることによって、その確証を得る。 Tl結晶に超伝導が発現することから、金属的な電子構造を有するTlBi重元素合金二次元シートの温度に依存した伝導測定を行い、同試料の超伝導の可能性を探る。超伝導転移温度がスピン・角度分解光電子分光装置で試料が冷却できる温度以上の場合、超伝導状態のスピン偏極電子構造を測定する。
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Causes of Carryover |
走査トンネル顕微鏡を用いた準粒子干渉よる電子スピンの散乱に関する実験の一部や、スピン・角度分解光電子分光の実験の一部を外部機関に出張して行うことを計画していたが、先方の実験装置のトラブルなどにより延期になったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
外部での走査トンネル顕微鏡を用いた実験とスピン・角度分解光電子分光の実験をより効率化するために複数の外部機関への出張に使用する。
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[Journal Article] Self-assembled honeycomb lattice in the monolayer of cyclic thiazyl diradical BDTDA (=4,4’-bis(1,2,3,5-dithiadiazolyl)) on Cu(111) with a zero-bias tunneling spectra anomaly2015
Author(s)
M. Yamamoto, R. Suizu, S. Dutta, P. Mishra, T. Nakayama, K. Sakamoto, K. Wakabayashi, T. Uchihashi, and K. Awaga
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Journal Title
Scientific Reports
Volume: 5
Pages: 18359
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Acknowledgement Compliant
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