2015 Fiscal Year Annual Research Report
強相関分子性導体の階層的電荷・スピン・格子ダイナミクスの研究
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25287080
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
佐々木 孝彦 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (20241565)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
橋本 顕一郎 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (00634982)
松浦 直人 一般財団法人総合科学研究機構(総合科学研究センター(総合科学研究室)及び東海事業, 東海事業センター, 副主任研究員 (30376652)
井口 敏 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (50431789)
河村 聖子 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 J-PARCセンター, 任期付研究員 (70360518)
米山 直樹 山梨大学, 総合研究部, 准教授 (80312643)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 分子性導体 / 強相関電子系 / 超伝導 / モット絶縁体 / 電荷秩序 / 相分離 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の主要な成果としては,圧力下超伝導を示す最も典型的な準2次元分子性ダイマーモット絶縁体β’-(BEDT-TTF)2ICl2における圧力印加下での光学伝導度測定による電子状態変化の知見から,超伝導発現近傍では電荷揺らぎがスピンゆらぎに加えて重要であることを示したことである.具体的には,ダイヤモンドアンビルセルを用いた10GPaまでの高圧力中での遠赤外-赤外領域の光学伝導度測定を大型放射光施設SPring-8の赤外物性ビームラインBL43IRで行い,圧力変化に対するハバード・ダイマーバンド間遷移による電子励起状態の変化を観測し電子相図に表すことで圧力印加が単にバンド幅の拡張のみではなくクーロン相互作用の変化も同時にもたらし,特に相対的なクーロン相互作用増強による電荷秩序とそのゆらぎがこの物質の圧力中超伝導発現と強い相関があることを明らかにした. また,電荷秩序絶縁体状態を示すθ-(BEDT-TTF)2TlZn(SCN)4において,金属絶縁体転移の近傍において抵抗の長時間緩和現象が出現し電荷がガラス的に凍結することが明らかになった.この長時間緩和過程において金属領域と絶縁体領域がマクロスコピックなスケールで共存・相分離していることが明らかになった. このような電荷ゆらぎと動的な分子格子状態との結合を探るためにβ’-(BEDT-TTF)2ICl2およびκ-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Clの非弾性中性子散乱実験をJ-PARCのアマテラスおよびフランスグルノーブルのILLビームラインで行った.特定フォノンモードのソフトニング現象は見出されていないが,光学伝導度での電荷ギャップの成長や反強磁性転移温度などに符合するフォノン強度の変化の観測に成功した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在のところ,特徴的な電荷秩序状態を示す分子性導体において,低周波数誘電率,赤外光学伝導度測定またその空間マッピング測定などの実施により電荷ダイナミクスの時間的,空間的な出現についての知見が得られており,他の磁気的測定などとの相関から電荷-スピンの協力的振舞いについては実験的な理解が進んでいる.一方で,格子,フォノンとの相関については,中性子実験の制約から若干進展が遅れているが予備的データは揃い,その検証を行っている.これらのデータの解釈には理論的サポートが不可欠であるため理論家との情報交換を進めている.このような状況から本研究はおおむね順調に進展していると判断される.
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は,本課題の最終年度に当たり成果の取りまとめに向けた取り組みを重点的に進める.特に,電荷ガラス状態の空間・時間変化についてはガラス状態での相分離構造の空間可視化などこれまでに報告が無いインパクトある成果が得られているのでこれの取りまとめを急ぐ.このような電荷-スピン-格子ダイナミクス研究の過程で,新たにプロトン運動と交差した電荷ダイナミクスを示す分子性物質が見いだされ,低温でのプロトン量子トンネルとスピン・電荷が協力した新奇な非自明状態の出現が示唆される結果が得られつつある.動的な局所構造と強相関電子状態の結合による新物性の発現・解明など,本課題の次への展開について取りまとめと共に検討する.
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Causes of Carryover |
本課題で導入した液体ヘリウムフリー冷凍機の利用が本格化したため,液体ヘリウム使用量が研究実施の効率化と合わせて当初見込みよりも少なかったためである.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
液体ヘリウム単価の上昇が見込まれるため,液体ヘリウム使用料金の増加分として,また研究成果発表用の論文投稿,掲載料,学会などの発表旅費として本課題実施,取りまとめに有効に使用される予定である.
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Research Products
(14 results)